第55回「小説でもどうぞ」選外佳作 トンネル イリシマサトシ


第55回結果発表
課 題
コンテスト
※応募数358編
選外佳作
トンネル イリシマサトル
トンネル イリシマサトル
とある忘れ去られた道を、オレは友人のトモキと共に歩いていた。夏真っ盛りのうだるような暑さが、真夜中になっても消えることなく、まとわりついてくる。そのたまらなく不快な暑さに気を取られ、どれほど歩いたのか分からなくなったころ、不意にそれが見えてきた。
うら寂しく、口を開け続ける廃トンネル。そして、その廃トンネルの前にはフェンスが設置されていた。しかし、車でも突っ込んだのか、哀れなほどにひしゃげており、フェンスとしての役割はなにもなしていなかった。オレはジワリと額ににじむ汗を拭いつつ、隣にいるトモキに聞いた。
「こんなところに、こんな廃トンネルがあるなんて、よく知っていたもんだな。このトンネル内に、幽霊がでてくるんだよな?」
「ん? いや、どうだろう」
あまりの間抜けな返答に、思わず大きな声をだしてしまう。
「いやいやいや。どうだろうって、どーゆーことだよ。ここ心霊スポットじゃないっていうのかよ」
「いや~、だってよぉ。俺がここ以外で知ってる心霊スポットなんて、もうすでにお前が探索しているんだろ?だから、紹介できるのはここだけ。まぁ、ここは心霊スポットっていうか、幽霊が出てきそうな雰囲気のある、廃トンネルだけど」
それを聞いて、オレはひどく落胆した。
「期待した俺が馬鹿だったよ」
「まぁまぁ、自分が馬鹿だからってそんなに落ち込むなよ」
「殴るぞ」
軽く睨み、文句を言ってやろうとするも、トモキはそれを制するように片手をあげた。
「そんなに睨むなって。それによ、幽霊って別に有名どころにしかでない、って訳じゃないだろ。なにより、コンテストの期限、結構やばいんじゃなかったか?」
トモキの指摘に、オレは出かかった文句を押しとどめた。
ひと月ほど前。大学二年でまだまだ遊び盛りのオレは、怠惰を極めつつ、簡単に金を得られる方法はないかとネットを彷徨った。ありとあらゆる情報に目を通していた時、偶然にも心霊映像コンテストなるものにたどり着いた。内容はいたってシンプル。本物の心霊映像を撮影し、投稿するだけ。注意事項として、CGや特殊メイク等を利用した映像は認められない。正直、そのあたりを一体何をどう判断し、審査するのかはよくわからなかったけど、最優秀賞には賞金100万円と、マイナーなコンテストには破格の値段。オレからしたら狙わない理由が一切ない、まさに魅力に溢れた内容だった。
早速その日から、オレはネットで調べ上げた心霊スポットに行く日々が始まった。ネットで調べてはその場に赴いて撮影する。撮れなかったら、また探して撮影の繰り返し。貧乏学生が行ける限界まで、多くの心霊スポットに足を運んだものの、悲しいほどに成果はゼロ。撮影を始めた頃は、すぐに撮れるだろうと高をくくっていただけに、ここまで何も撮れないのは、まぁまぁショックだった。
そんなことをトモキに愚痴っていたら、ひとつだけ、誰も知らない心霊スポットを知っているとのこと。この機を逃してなるものかと思い、紹介してもらったら、この「幽霊がでてきそうな廃トンネル」を紹介される始末。
少々、いや、かなり不服ではあるが、ここまで来てしまった以上、あきらめて探索するほかない。もうどうにでもなれという気持ちで、オレはトモキと共にトンネル内に足を踏み入れた。
トンネルの中は思った以上に肌寒く、恐ろしいほど暗闇に満ちていた。封鎖されてからこれまで、誰一人として訪れていないのだろう。心霊スポットにありがちな、誰かが持ち込んだゴミやラクガキが一切ない。正真正銘の無垢な姿がどうにも不気味に感じる。
もしかしたら、でてくるかも。そう思わせる雰囲気があり、どことなく期待してしまう。しかし、どんなに願い、期待してみても、これといったことは起こらないまま、あっさりと出口にたどり着いてしまった。なにもでなかった。
「……まぁ、しょうがない。よくあることだ」
トモキに、というより自分自身にそう言い聞かせ、来た道を戻ろうと一歩踏み出した、まさにその瞬間。ゴポッゴポッと、何かが詰まった排水管のような、ひどく場違いな音が背後から聞こえた。
まさかな。そう呟き、後ろを振り返ると、そこには女が一人、立っていた。さっきまでいなかったはずなのに、そこにいた。ゴポッゴポッと音を立てながら、口から滝のように血を流しており、首は何度も切り裂かれたのだろうか、異形な形になり果てていた。
一目見て分かる。生きている人間じゃない。そう頭によぎった時にはすでに、僕もトモキも駆け出していた。
そこからはもう、とにかくがむしゃらだった。なにせ、アレはあの不快な音を立てながら、追いかけて来たのだから。逃げる以外にすることも、ましてや考えることも禄にできなかった。気が付いた時には、アレは消えており、オレとトモキは入口を出たすぐの場所で、大の字で倒れこんでいた。
「……でた」
「……ああ、でたな」
必死の逃走劇をした後とは思えないほど、あっさりとした会話。ゼェゼェと肩で息をしながら、ふとアレの表情が頭によぎった。
「なんか、怒っていたのかな」
「ん?怒ってたって、アレがか?」
「ああ。一瞬しか見てないけど。なんだか、般若みたいな顔してたぜ。あれ」
オレがそう言うと、しばらくの間、トモキは虚空を見つめて考え事を始める。そして、すぐ納得したように手を叩いた。
「あ~、たぶん俺だからじゃないかな」
「は?どういうこと?」
「アレはたぶん、いや、確実に死んだ俺の元カノだわ」
元カノ? 死んだ? そんなことは初耳だし、なにより、なんでそんなのがこんなところに……。オレが問いただそうとするより先に、トモキは語りだした。
「いや実は俺さ、お前に言ってなかったけど、少しの間だけ彼女がいたんだよ。めっちゃ美人だったんだけど、とにかくつまんない性格しててさ。すぐに飽きちゃったんだよね。で、付き合って二週間ぐらいで、別れ話を持ちかけたんだけど、なかなか受け入れてくれなくてな。あまりにも鬱陶しかったから、ここに連れ込んで殺したんだよ。ナイフでめった刺しにしてね。だから、あれは俺の元カノの幽霊ってこと。いやぁしかし、あの様子をみるに、結構ガチめに恨まれてるみたいだな、俺。はははっ」
(了)