公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第55回「小説でもどうぞ」選外佳作 ロボット・コンテスト 齋藤倫也

タグ
小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
選外佳作 

ロボット・コンテスト 
齋藤倫也

 サイエンス・フェスティバルの会場は、大盛況だった。この祭典の目玉、ロボット・コンテストが、開幕したのだ。
 超高性能のお掃除ロボットが、アクロバットさながらの技を繰り出したかと思えば、家庭用進化型食器洗浄器が、あっと言う間に、百枚の皿をピカピカにして、ピサの斜塔よろしく、絶妙なバランスで重ねて見せた。三機の自律型ドローンは、スリル満点の曲芸飛行を披露した。ステージ上で繰り広げられるデモンストレーションの数々に、大人も子供も、惜しみない喝采を送った。
 続いて、舞台にあがったのは、もじゃもじゃ白髪に分厚い丸眼鏡、白衣の蝶ネクタイの博士だった。博士は、彼より少しだけ背の高い、ブリキのおもちゃを大きくしたかのような昔の少年漫画に出てくようなロボットを連れていた。
 それまで盛り上がっていた会場が、少し静かになり、観客は、戸惑ったように、思わず顔を見合わせた。そんな場の雰囲気に、博士は、たじろいだように見えたが、意を決して声を絞り出した。
「ご来場の紳士淑女の皆さん、お坊ちゃん、お嬢ちゃん。今日は、ようこそお越しくださいました。本日、皆様にご紹介いたしますのは、天才科学者であるわたくしめが、造り出したロボット、ジョージでございます。さあ、ジョージ。皆様にご挨拶なさい」
「ミナサン コンニチワ ワタシハじょーじデス ヨロシクオネガイイタシマス」
 ジョージと呼ばれたロボットは、目であろうレンズの周りの電飾を点滅させながら、電子音で言った。
 会場からは、まばらな拍手が返ってきたが、気まずい沈黙と失笑が、あたりを支配していた。博士とジョージが、場違いなのは明らかだったが、博士は、気をとりなおしたかのように続けて言った。
「このジョージ、皆様方のどんな質問にも、瞬く間に答えてみせますぞ。さあ、どなたかいかがです?」
 しばしの間をおいて、こんな声が飛んだ。
「327×116は?」
「サンマンナナセンキュウヒャクサンジュウニ デス」
「あってるぞ」
 小さな電卓を叩いて質問した男が言った。今度は、会場から別の声がした。
「35×531÷15!」
「イッセンフタヒャクサンジュウキュウ デス」
「ご名答!」
「どうです? ほかにはいかがです?」
 少しばかり気をよくして、博士が言った。すると子供の声が返ってきた。
「お歌は歌えるの?」
 ジョージは、若干調子っぱずれながら、ピーピーとした電子音で、埴生の宿のメロディーを聴かせた。
 会場に、少しばかりのざわめきと笑顔が戻りかけたその時、冷や水を浴びせるような声が響いた。
「くだらん! インチキだ! どうせやらせに違いないぞ!」
 博士は、気色ばんで答えた。
「聞き捨てなりませんぞ。失礼な」
「どうせ、そのガラクタには、人が入ってるんだろう? 中で汗だくになって計算機を叩いているのさ! オレが暴いてやるぞ。このイカサマ師め」
 大柄な男は、吐き捨てるように言うと、ずかずかと大股で舞台にあがり、博士の制止を聞かずに、ジョージの後ろに回り込むと、背中のパネルを、無理やりこじ開けようとした。
「待って! ちょっと待ってくれ! 超精密機械なんだ。無茶をするな」
「じゃあ、お前が開けろ! このエセ科学者野郎め」
 鼻息荒い大男に圧倒されてか、博士は、外科手術を執刀するかのごとき慎重さで、ジョージの後部パネルを開けた。大柄な男は、覗き込んで舐めまわすように中を見たが、入り組みまくったカラフルな配線と膨大な基板、動作のための機構しか見当たらなかった。男は、吐き捨てるように言った。
「ふん! くだらんくだらん。何が高性能ロボットだ。所詮子どもだましじゃあないか。プログラムだかなんだか知らないが、言われたことしかできない木偶の坊の役立たずどもめ。出しゃばるな! せいぜい掃除洗濯で我慢してろってんだ。オレたち人間様の邪魔をするな!」
「じゃあ、あんたは人間なんだな」
 そう言った博士の口調は、不気味なほど静かだったが、有無を言わせぬ迫力があった。
「当たり前だ。オレ様は、自分で考える。こうやって頭にきてるのが、何よりの証拠だ」
「こういうときは、頭にくるように造られてるだけじゃないのか? ロボットやマシンがプログラムされているのと何が違うんだ? このご時世、あんた程度の精巧な人間もどきなら、自律型ロボットだけでも造れるんだぞ」
「この野郎。ふざけやがって」
 大男は、博士に殴りかかろうとした。博士は、よけようともせず、男の拳を片手で受け止め、言った。
「あんたの起動スイッチは、どこにある?」
 博士は、もう片方の手で男の首筋を探ろうとしたその時、ジョージが、その博士の手を片方のアームで挟み、もう片方のアームで、博士の首筋を探り、スイッチを押した。博士は、糸の切れた操り人形のようにうなだれ、ぴくりとも動かなくなった。
「モウシワケアリマセン ワタシノツクッタあんどろいどガトンダシツレイヲイタシマシタ ドウカオユルシクダサイ」
 ジョージは、そう言うと、博士型アンドロイドを連れて、舞台を降りていった。その姿を、大男は、口をあんぐりとあけたまま、黙って見送るしかなかった。
(了)