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第57回「小説でもどうぞ」最優秀賞 キビ団子の力 なりはらもな

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小説
小説でもどうぞ
第57回結果発表
課題

裏切り

※応募数434編
キビ団子の力 
なりはらもな

 鬼が島に、桃源という赤鬼がいた。鬼ヶ島は邪智暴虐な黒鬼、黒玄鬼の独裁により支配されていた。
 黒玄鬼は正妻のほかに何人もの妾を有していた。白麗という白鬼女もその一匹であった。
 鬼が島では動物同士を闘わせる博打が流行っており、黒玄鬼も闘獣用の動物を飼っていた。桃源はその囚われの動物たちの世話係であった。白麗は動物好きな鬼であったから、時々こっそりと飼育小屋を訪れていた。そこで桃源と白麗は恋に落ち、白麗は一匹の男鬼を授かった。白麗はそれを黒玄鬼の子として育てるつもりであったが、産み落とされた鬼の子が黒や青でなく桃鬼であったことに落胆した黒玄鬼は、その小鬼を始末するよう桃源に命じた。
 桃源はわが子を動物と一緒に殺処分することなどとてもできず、泣く泣く桃の器に隠し、船頭に金を握らせ島から逃がした。遠ざかる我が子を乗せた船を見つめながら、桃源と白麗は悲嘆にくれた。
 
 月日は経った。黒玄鬼の独裁ぶりは非道を極めていた。黒玄鬼の命令で人間の村を襲い、人間たちの必死の反撃により命を落とした鬼も少なくない。人間から奪った金銀財宝は下級の鬼たちには分け与えられず、黒玄鬼と側近の鬼ばかりが豪遊し、それ以外の鬼は貧しくなるばかりであった。
 そんなある日、桃源はある噂を耳にした。陸の村に、鬼をもしのぐ怪力を持つ人間の子供がいるという。川を流れる桃から生まれたその赤子は、桃太郎と名付けられ、年老いた夫婦のもとで大切に育てられているらしい。それを聞いた桃源と白麗は涙した。そして思った。我が息子は、この腐敗した鬼ヶ島を正す救世主となりえるかもしれない。
 桃源は、闘獣の中でも特に賢いイヌ、サル、キジの三匹にある取り引きを持ち掛けた。
 お前たちを逃がしてやる代わりに、桃太郎に黒玄鬼の討伐に来させるよう仕向けてくれないか。まずは俺が過失でお前たちを逃がしたことにする。俺への罰はせいぜい幽閉くらいで、殺されはしないだろう。島を出たら、村の人間を使って桃太郎の耳に黒玄鬼の存在が入るよう噂を流せ。あいつも鬼の子なら、自分の力を試したいと思うに違いない。それから、キビは鬼除けになるという噂を流して、養父母に信じ込ませろ。桃太郎が鬼の征伐に向かうとなったら、養父母はきっとキビを団子にでもして持たすだろう。桃太郎たち鬼は朝焼けの刻に力が半分以下になるのは知っていると思うが、実はキビを食べるとそれを防ぐことができるんだ。お前たちは偶然を装い、桃太郎のお供になれ。そして朝焼けの時刻に、黒玄鬼の元へと桃太郎を向かわせろ。直前に桃太郎にキビ団子を食べさせるのを忘れるな。お前たちはこの島のことを知り尽くしているから、上手くやれるだろう? 桃太郎が黒玄鬼を倒した暁には、お前たちは晴れて自由の身になれる。どこにでも行けばいい。
 イヌ、サル、キジはその秘策に乗った。桃源が手配した小舟に乗って大陸へと旅立った。満月がきれいな夜だった。

 想定通り、桃源は過失の罪を問われ岩山に囲まれた牢へと幽閉された。キジが時々こっそり経過報告にやってきた。作戦は順調のようだ。討伐決行の日も決まった。これが終わったら、桃太郎は養父母の元に帰るだろう。真実を明かす必要はない。俺は白麗とこの島で余生を静かに過ごすんだ。しかし、もし桃太郎が自ら気づき、鬼として生きることを望んだら? 桃源は牢の中で希望に胸を膨らませていた。
 とうとうその日がやってきた。桃源は眠らずに牢の中でその時を待っていた。東の空が白み始めた。夜が明ける。なにやら城の方が騒がしい。始まったのだ。朝焼けの中を揺れながら走る白い影が見えた。白麗だ。白麗が牢の鍵をもってこちらに向かっている。必死の形相だ。しかし、様子がおかしい。牢の前までたどり着くと、息を切らした白麗は震える手で鍵を開けようとする。
「どうした白麗、何があった。桃太郎が来たのか」
 鍵が開いた。白麗はその場に崩れこんだ。見ると背中にバックリと大きく斬られた跡があり、大量の血が噴き出している。
「桃源さん、逃げて、みんな、殺された、あなたも殺される」
 桃源が抱き上げた白麗は、透明になってしまうのではないかと思うほど蒼白な顔で切れ切れに呟き、そして目を閉じた。桃源は訳が分からずただ慟哭する。
「こんなところにも隠れていやがったか。悪しき鬼どもめ、一匹残らず成敗いたす」
 瑞々しく颯爽とした声が耳に入った。見上げると岩山の上で朝陽を背負う逞しい少年の姿があった。見間違うはずもないわが息子、桃太郎である。そばにはイヌ、サル、キジが控えている。
 いくぞ、という桃太郎の掛け声に、イヌ、サル、キジは桃源に襲い掛かる。桃源は「待て、俺はお前の、」と真実を語ろうとするが、三匹が阻む。
 桃太郎は軽やかに岩山から駆け下り、桃源に向かって一寸の迷いもなく刀を振り下ろした。桃源はその場に倒れた。
 遠のく意識の中で、既に息のない白麗の向こう側に、刀を納めて立ち去る桃太郎の大きな背中を見た。三匹がこちらを見ている。
「お前たち、俺を……」
 裏切ったのか、という言葉を発する前に、イヌがそばにやってきて囁いた。
「この島の財宝を全部持って帰れば、あんたの息子は英雄だ」
 続いてサルが囁く。
「そうすりゃ、俺たちもお供として一生大事にされる」
 最後にキジが囁いた。
「悪いね旦那、婆さんがつくったキビ団子が、あんまりにも美味すぎたのさ」
(了)