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【結果発表】書き出しSF小説賞 第2回「電話と旅」

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作文・エッセイ
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書き出しSF

「電話と旅」をテーマに、130字でSF小説の書き出し部分だけを募集しました。
今回の応募数はおよそ550作品でした。第1回「AIと猫」に引き続き、設定や文章に工夫を凝らした作品が集まりました。なかでも、特に続きが読みたくなった書き出し小説を発表します。たくさんのご応募ありがとうございました!

募集内容

「電話と旅」をテーマにした
書き出しSF小説

最優秀賞

薄明の砂浜でわたしは携帯電話を手にする。かけようか、しばし逡巡して止める。そして停めてあったバイクに跨がる。ここまで遥々旅してきた。彼女に会うために。大丈夫、間に合う。わたしはバイクを発進させた。行く手に続く道路の上空には、滅びをもたらす巨大な月がかかっていた。

(辻井豊 @YutakaTsujii)

【講 評】
「わたし」は「彼女」に会って何をするのでしょう。「滅びをもたらす巨大な月」からは、人類か地球か、また別の何かが滅びようとしていることがわかります。滅びないように何かをするのでしょうか。「大丈夫、間に合う」という一文で何かが迫っていることを感じさせ、緊迫感が増しています。先が気になる仕掛けが多く、書き出しとしてのわくわく感を最も感じた本作が最優秀作品です。

  

優秀賞

「帰りたい」ガラス越しの君の声が、受話器から聞こえた。研究対象を外に連れ出すことは規則違反だった。けれど僕はガラスを破壊し、君を連れ出した。宇宙までは遠かった。「長旅になるね」ガラスを隔てない君の笑顔はなぜか不気味だった。

(75 @naco7524)

【講 評】
「君」は何者なのか、どのような研究がされていたのか、規則違反を犯した「僕」はどうなってしまうのか……。短い字数で、ハラハラドキドキさせる要素がたっぷり詰め込まれています。テーマについて、「電話」や「旅」をストレートに扱う作品が多いなか、接触不可能な人物(あるいは言葉で意思疎通できる生物)との会話に電話を使うという発想が、特に斬新でした。


アンドロイドを分身にして旅ができるようになった。「トランス・ベル」という電話機のお陰だ。コールすると、電話口に用意されたアンドロイドに自分の意識が移動するらしい。体が不自由な私は喜んで利用したが、二日目に緊急連絡があった。
「肉体がお亡くなりになりました」

(あおい 千葉県)

【講 評】
電話で旅ができるという発想はほかの応募作にも多かったのですが、「書き出し」としては本作が優れていました。主人公はアンドロイドとして、新たな人生を歩むことになるのでしょうか。きっと、人間であった頃とは感覚も感性も異なると思います。それまでと同じ自我を保つことはきっと難しいだろうな、など主人公のその後について想像が膨らみました。

  

  

佳作

「ごめん、もう汽車が出る」と切られた電話の向こうで汽笛が聞こえていた。旅先の兄はそれきり消息を経ち、あれから3年経った同じ日の同じ時刻。日に2本の電車しか停まらない無人の駅に、時刻表にはない汽車が滑り込んできたのを見て、私はリュックの紐をギュッと握りしめた。

(辻内 愛知県)

しまった、マグマストーブの火を消し忘れていた。 ということに気づいたのは、空港の待合室で、我が家が燃えている映像を目にしたからである。私は、先月もボヤ騒ぎを起こしたばかりなのにとうんざりしながら、二時間前の私に電話をかけた。

(大足ゆま子 @2929house)

気のせいだったかもしれない。ガラクタの中から赤錆に覆われた小さな板を拾い上げた時、誰かの声がした。その壊れた携帯電話はそれきり音を立てなかった。それでも、この旅の道連れができたようで。あたしは鞄にそいつを放り込み、生き残りを探すための旅路に就いた。

(行野文月 東京都)

運命だ、とそのメールを開いて思った。 「地球2泊3日ツアー御当選」 故郷に帰りたくない人はいない。今や地球旅行は宝くじに当選するよりもずっと高倍率だ。僕は明日死ぬのかもしれない。 いや、地球に置いてきたあのスマホにあの写真が残されている限り、僕は絶対に死ねないのだ。

(羊毛めり子 @merry115)

妻が気に入って買った赤いミニに乗り、慣れない道を南に向かっていた。南に行きゃあ、繋がりやすくなるはずだよ。知らない老人が言っていた。水割り二杯と電話機を交換した。一日に一度だけ通じると言われた電話機は、無造作に助手席に置いてある。信号待ち。呼び出し音が鳴った。

(小豆澤勇生 東京都)

きっかけは美術史の授業。古代の携帯が映し出す数多の鳥居に、魅了された。
銀河を乗り継ぎ、地球行き最終便に搭乗する。新開拓星ツアーが主流の為、地球廃墟ツアーはいよいよ終売だ。
突然、耳元で埋込型携帯が震える。間髪入れず、恩師が話し出す。
「君、滞在期間の件だ」

(珠弥 東京都)

 電話を置いてきたのは意図的だった。ひとり旅に来てまで、監視されるのはごめんだ。ただ、電源を切ってこなかったのは失敗だった。落胆する俺にかまわず“電話”が言った。「わたしを置いていくなんて、ひどいじゃないですか」そして無慈悲に続けた。「着信は、6件です」

(しにべん 北海道)

夜更けに受話器を握る。声の主は自らを私と名乗った。妙に切羽詰まった様子で、私自身が明日取るべき行動を事細かに指示してくる。「説明は後」と言った回数は四回。やがて逆探知がどうのと言い残し通話は切れた。粗雑なメモ用紙を明かりに透かしながら、私は荷物の準備を始めた。

(naoki @scnaoki)

「いま旅館に着いたところだよ」 通話ボタンを押すと直ぐに繋がった。到着したら連絡をして欲しい、これは昔から彼女の口癖だった。 「そう、無事で良かったわ。楽し⋯⋯ー」 「うん?」 再度、耳に触れるが反応はない。 もう歳かなあ。軋音を立てながら彼は機体の頭部を搔いた。

(○~ @Poku3_3)


総評

どの作品にも独自の世界観があり、とても楽しく読ませていただきました。本コンテストの応募作に留めず、ぜひ続きを書いていただきたいです!
今回はハラハラドキドキさせる仕掛けがあり、続きへの期待感が高まる作品を選ばせていただいています。応募作は「書き出し」というよりも、130字のショートショートとして書かれたものが多かったです。字数内にオチまでつけられていて非常にハイレベルなのですが、書き出しとして考えると綺麗にまとまりすぎてしまっていました。ほかのコンテストでも、小説の書き出しを応募する際はぜひご注意ください。
次回の開催がいつになるかはわかりませんが、またみなさんの作品を読ませていただく日を楽しみにしております!



応募要項

応募規定
SF小説の最初の書き出しを募集。
テーマは「電話と旅」。
「進化した電話は旅先で……」
「宇宙旅行で電話をかけると……」
など、テーマから自由に発想してください。

応募方法
WEB、Twitterから応募。
【WEB】応募フォームからご応募ください。
【Twitter】公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローし、ハッシュタグ「#書き出しSF小説賞」をつけて、作品のみツイートしてください。


最優秀賞1点=Amazonギフト券1000円分
入賞2点=Amazonギフト券500円分
佳作数点=WEB掲載

締切
8/8(月)

発表
8/22(月)公募ガイドONLINE上にて発表

お問い合わせ先
不明点は、公募ガイド編集部「書き出しSF小説賞」担当まで、 こちらからお問い合わせください。