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島本貴広

(毎回ですが)遅ればせながら落選供養です。添削受けましたが小道具のお札の使い方に問題があるということでした。もっと他に問題点があると思っていましたが、指摘された点は納得しました。やっぱりオチだけに力を入れてはダメですね(苦笑) #小説でもどうぞ #第36回どうぞ落選供養 タイトル:絵画とお札と宇宙人  画家の横山は渋沢栄一を肖像画にした一万円札を目の前に掲げた。それは横山の手で描いたものだった。「金が無いならお前の手で描けばいいんじゃないの」などと酒の席で友人の岡本に言われ、真に受けたわけではないが興味で描いてみた。財布からほんものを取り出し、比較する。パッと見はほとんど同じに出来た。が、手触りや3Dホログラムの部分などですぐに偽札だとバレてしまうだろう。そう思い破り捨てた。  破り捨てたところで家の呼び鈴が鳴った。郊外にあるぼろ民家を格安で借りていて普段は誰も来ないから珍しかった。出ると、そこにいたのは身なりの整ったアタッシュケースを持ったスーツ姿の男だった。 「突然すみません。こちらは横山さんのお宅でしょうか」 「そうですが」 「よかった。実はわたし、あなたの絵を買いに来たんです」  横山はおどろいた。まさか無名画家のじぶんに直接お客が訪ねてくるなんて。はじめてのことで戸惑ったが、男を家にあげることにした。 「きょうはどちらからおいでになったのですか」  テーブルについたところで横山はそう訪ねた。 「ええとですね、この惑星の外から来たのですが」 「え?」  横山は言葉を失った。男もまた口を開かない。お互いに無言のまま時間が流れた。横山が怪訝な顔をしていたのを見て、男は慌てはじめた。 「すみません、とつぜんこんなことを言って。でも、ほんとうなのです」 「そうは言ってもね、あなたはふつうの人に見えますよ」 「そうですね、ではあちらをみてください」  男が窓の外を指さしたので見ると銀色の麦わら帽子のようなものが飛んでいるので唖然となった。なんでもいま目の前にいるスーツの男はたまたま近くを通りかかったひとで、遠隔で操ってしゃべらせているのだとか。それで横山は男が宇宙人なのだとすっかり信じた。 「あなたはさっきぼくの絵を買いにきたと言っていましたね」 「はい、わたしはいろいろときれいなものや珍しいものを集めていまして、この惑星にも美しい絵を描く画家がいると聞いたのでやってきました」  コレクターか。しかし、そんな彼がどうしてじぶんを訪ねてきたのか。 「そうなんですか。だけどぼくは無名です。もっと有名な画家はいくらでもいるのにどうしてここに?」 「え、あなたは高名な画家だと聞いていたのですが」 「ぼくを誰だと思ってますか?」 「あなたは横山大観という方ではないのですか」  横山は思わず失笑した。確かに下の名前は大寛で似てはいるが、人違いだ。そもそも横山大観はとうの昔に亡くなっている。 「ぼくは横山大観では……」  そこまで言って横山は口を噤んだ。ふと、この宇宙人を騙せるのではないかと考えた。 「いえ、その通りです」  堂々と嘘をついたが、男はうたがうことはなかった。  横山は自身の絵を何枚か紹介した。横山もまた、大観とおなじく日本画を描く画家だった。学生のころ見た、横山大観の『紅葉』に心打たれて画家を志した。  男は何枚かをじっくりと眺めては「素晴らしい絵ですね」などと感嘆の声をあげていた。そののち、一枚の絵を買いたいと申し出てきた。『紅葉』を模倣して描いた風景画だった。 「お代はこちらで足りますか」  男がそう言うと持ってきていたアタッシュケースを開けた。そこにあったのはケースいっぱいの硬貨で、見たことのないお金だった。 「これはどこの国のお金ですか」 「これはわたしたちが普段使用している通貨です」  と言うことはどこの国のものでもない、宇宙のお金ということらしい。これをもらっても使い物にならないはずだ。 「ええとですね、これで払って欲しいんです」  横山は財布から一万円札を取り出すと、男に見せた。男はそれをしげしげと見つめた。 「こんなのは見たことがないです」 「それでしか受け取れません。いいですか、このお金と全く同じのを用意してください」  男は深く考え込んだ後、「わかりました、用意します」といってその場は帰って行った。  一週間後、男は横山が指定した通りに一万円札の札束をアタッシュケースに大量に詰め込んでやってきた。どうやって用意したかは知らず、偽札を持ってこられたかと思ったが手触りやホログラムの部分を見るに真札にちがいなかった。 「ではこれで」と男は言うと、満足そうに横山の絵を持ち帰って行った。横山の手元には大金が残された。  横山は絵が売れたことを友人の岡本を家に招いて話すことにした。 「へえ、絵買ってもらえたのか」 「現金一括でね。大金が手に入ったからこれで当面の生活には困らないよ」  さすがに宇宙人に買ってもらった、などとは話せなかった。 「でも今どき現金で大きな額を払うなんてな。偽札じゃないか?」  そうからかってくる岡本にむっとなった横山はアタッシュケ―スごと持ち出し彼の前に差し出した。岡本は大量の一万円札を目の前にびっくりした様子で手に取っていた。 「偽札でもなんでもないだろ?」 「確かにほんものみたいだ」  パラパラと札束をめくる岡本。だが次第にその顔が険しいものになっていった。 「横山、こりゃやっぱり偽札だぜ」 「なんだと? どうみてもほんものだろう」 「いや、確かにほんものっぽいけどさ、お札の番号がぜんぶいっしょだ」

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