#第37回どうぞ落選供養 さて。W版〈善意〉の投稿も済んだし、私も『小説でもどうぞ』〈すごい〉落選供養、やっておかねばならないでしょうね。毎度、落選作をアップすることには抵抗を感じてしまいますが、これもつくログ仲間との修行。遅ればせながらアップいたします。 「高橋源一郎の小説指南 小説でもどうぞ!」 第37回 課題「すごい」応募作品 タイトル:友だちがすごい 氏名:ササキカズト 「よう来たぞ」と、俺 「チャリで来たのか?」と、吉高。 「ああ」 「すごいな、水木!」 「別にすごかないだろ」 「電車に乗らなかったんだろ」 「たかだか二駅だ」 俺は笑いながら吉高に言った。大学の入学式で「同じクラスだね」と声をかけてきた吉高とは、最初から通じ合うような何かを感じ、すぐに親しくなった。 知り合って二週間が過ぎた日曜の午後、俺は吉高に呼びだされた。壊れたパソコンを直してほしいと電話があり、彼のアパートまでやって来たのだ。 「直すのが得意って言ってただろ」 俺はたしかに壊れたものを直すのが得意だ。時計や家電製品などが壊れたとき、俺はまず叩いてみる。するとたいがい直ってしまう。たぶん何かの接触がよくなるのだろう。ほとんど直らなかったという記憶がないので、俺には特別な才能があるのかもしれない。そんな話を、先日吉高にしたのだ。 「俺のパソコンも叩いて直してくれよ」 「こういう精密機器はあまり叩かないほうがいいだろ」 日本のメーカーのノートパソコン。開いて電源を入れても起動しない。 「直しかた検索してみた?」 「いや。水木に叩いて直してもらいたいから調べてない」 そう言って吉高はパソコンをパタリと閉じた。俺のほうを見て、さあどうぞと手のひらをパソコンに向けた。 直るわけない。頭の半分でそう思いつつも、直ったら面白いな、とも思っていた。俺は、手のひらでポン!とパソコンを叩いた。 「どれどれ」 吉高がパソコンを開いて電源ボタンを押すと、ウインドウズが起動した。 「すごい! 直ったじゃん!」 これはまあ、我ながらすごいと思った。すごいすごいと、二人で笑った。 「実はテレビも壊れてるんだ」 「は? 大学入って新生活始めて、なんでもうテレビが壊れてるんだ?」 「安いから、壊れたテレビ買ってきた。水木に直してもらえばいいかなって」 「何でもかんでも直せないよ」 「いや。水木なら直せる。俺の直感だ」 五十インチの液晶テレビ。コンセント差してアンテナ線をつなぐが、画面が薄く光っているだけだ。チャンネルや設定の文字も、何も映らない。 「さあ、叩いて叩いて!」 吉高が俺をうながす。俺もなんとなくその気になって、肩などグリグリ回してみた。 「行くぞ」 俺はテレビの上のほうを、バン!と一回叩いた。 パッと画面が明るくなり、ニュースを読むアナウンサーの映像が映った。 「すごい! すごいよ水木! すごいすごい!」 二人で手を叩いて喜び、笑いながら座り込んだ。 テレビの映像を見ているうちに、二人とも真顔に変わった。ニュースで列車事故の映像が流されていたからだ。脱線事故で電車の一両目が横倒しになっている。多くのけが人がでて、三人亡くなったらしい。 「これ……」 俺が吉高のアパートを訪ねるのに、自転車を使わなかったら乗っていたはずの電車だ。 「やば……。チャリで来てよかった」 「やっぱりすごいよ、水木」 「なんとなくチャリに乗りたくなったんだ」 「無自覚だからよけいにすごいんだよ」 「ん? 無自覚?」 「それが未来予知だってこと、わかってないんだろ」 「未来予知?」 「そう。水木、お前は今日、この事故を予知して、それを回避するためにチャリで来たんだ」 「な……何言ってるんだ、吉高」 「自分が能力者だって自覚してない。今日はそれをたしかめるために、あえて事故の時間にお前を呼んだんだ。ちゃんと回避して来たので、すごいって思ったよ」 「まるで事故が起きるってわかってたみたいな……」 「俺もある程度予知できるからな。俺はもっとすごい能力あるけどな」 吉高が変なことを言いだしたので、俺は混乱していた。しかし腑に落ちるところもあった。なんとなく予感がして的中するという経験は、今までもけっこうあったからだ。 「水木。お前の予知能力はそれほど高くない。お前の本来の能力は、物質を動かしたり変化させる能力だ。叩いて直せるのはその能力なのさ。そっちをもっと伸ばしていこう」 「伸ばす? 何のために?」 「人助け、かな。ヒーローみたいな。いっしょにやろうぜ、人助け」 俺は混乱していたが、吉高が言うことに嘘はないと感じていた。通じ合う力……みたいなものを感じていたのだ。 「おい吉高。お前、列車事故を予知してたって言ったな」 「ああ」 「俺が電車に乗ってたらどうするつもりだったんだ」 「大丈夫だって予感があった」 「予感、かよ」 「それに、どのみち俺の能力を使うつもりだったし」 「お前の能力?」 「俺は時間を戻すことができるんだ。俺と、今一緒にいるお前だけ、ここまでの記憶を保ったまま、事故が起きる前の時間に戻れるんだ」 「時間を戻すだって?」 「さすがに信じられないだろうな。今からやってみるからな。お前がチャリに乗るときに時間を戻すよ。ところで事故原因はわかるかい?」 「……子どものいたずらだ。線路に……壊れた傘を置いたんだ」 そういう映像が頭に浮かんだ。 「自覚したから能力上がってきたな。じゃあ事故が起きるはずの踏切で待ち合わせだ。いたずら止めるぞ!」 吉高が俺の背中をバン!と叩いた。 ……俺は自転車にまたがるところだった。吉高のアパートにいたはずが、俺の家の前にいた。スマホで時間を見ると、事故の二十分前だ。 吉高の能力すごい! 俺は勢いよくペダルを踏みこんだ。ヒーローになったような気分に、俺はもうなり始めていた。 〈了〉
かずんど