明るさを調節する
少し前のこととなりますが、尼崎文化振興財団が主催する第75回尼崎文芸祭の短歌部門で入選しました。
第74回でも賞をいただいたので、二年連続入選でき大変嬉しく思います。
前回同様テーマは自由だったので、あれこれ考えました。
実は、短歌の楽しさを知り始めてから様々なテイストを試しています。
どのようなコンテストでも上位の賞の傾向としては、前向きな作品や共感を得られるものが多いと思うのですが、少し人間くさいものも書きたいと思いできた作品がこちらです。
起きてすぐ演技始まる寝室の白い天井だけが見ている
「演技」という言葉は、本来の自分を抑え込んでいるイメージになってしまうかと悩んだのですが、「自分を作り出す」という意味で用いました。
みなさんは日常生活の中で「本来の自分」と「こうでありたいという自分」のはざまを行き来することはありませんか。
落ち込んでいるのに人前では笑顔でいたり、思い切り自分の感情を出したくてもブレーキをかけることなどはきっと誰しも経験がありますよね。
それも本当の自分といえばそうなのでしょうが、寝ているときは世間の中で生きている表向きな自分とは全く別だと思うのです。
しかし、ちょっとでも目が覚めてしまえば、その無意識の領域はあっという間に離れていきます。
その、夢から現実に戻る瞬間のたったコンマ何秒を描きたかったのです。
無機質な天井だけが見ているという言葉で、結局それを誰も見てはおらず自覚さえもないことを表現しました。
この内容を明るいテイストにすることはできたでしょう。
朝のきらきらした感じや、一日が始まる希望をこめた表現にすることもできたかもしれません。
しかし、使う色で全く雰囲気が変わる塗り絵のように、言葉も使い方によって作品の持つ明るさを調節できるのではないかと思うのです。
この作品を目にとめていただけたことはとても嬉しく、明るくハッピーな作品だけが選ばれるわけではないのだと感じました。
公募を始めて6年目に突入しましたが、まだまだ試していないことが盛りだくさんの初心者です。公募を通して、まだ見ぬ新しい自分を探せたら楽しいなと常々思っています。