作家インタビューWEB版 米澤穂信さん
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公募ガイド11月号の特集「その小説に“謎”を!」では、推理作家の米澤穂信さんにご登場いただきました。
誌面に入りきらなかったインタビューをご紹介します。
米澤穂信(ミステリー作家)よねざわ・ほのぶ
1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞・ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞。『インシテミル』『満願』『真実の10メートル手前』など著書多数。
ミステリーを書く文章力というものはありますか。

米澤先生
文章力は作家にとって筋力のようなものです。走り幅跳びをするのでもマラソンをするのでも、筋力は必要です。
最終的にはアメフトに適した筋肉や、水泳に適した筋肉を身につけることになるでしょうが、まずは基礎体力をつけなければ土俵には上がれません。文章をミステリーに特化させていこうとするよりも、言いたいことを的確に伝えられるわかりやすい文章を書けるようになることが先決です。
現代のミステリーでは、動機が重要でしょうか。

米澤先生
犯人には犯人なりの切実な理由があるはずですから、動機は重要だというのが基本です。ですが現代では、それを敢えて軽視することで乾いた味わいを出そうとするミステリーもよく書かれています。
理由のない殺人であるとか、奇妙な動機であるとか、余人には理解しがたい動機をクローズアップしたサイコサスペンスであるとか、あるいは動機しかないホワイダニット(Why done it)などなど、さまざまなバリアント(変種)があります。
初めてミステリーを書く人が注意したほうがいいことはありますか。

米澤先生
たとえば、母屋と離れがあって、離れに行ったときに、思わずかっとなって人を殺してしまったとしましょう。
「どうしよう? このままでは足跡が残ってしまう。そうだ!」となって、竹馬に乗って離れた飛び石を伝って帰るというトリックを考えたとします。
しかし、その竹馬はどこにあったんだということになりますよね。
母屋から持ってきたとしたら、離れに行く前の段階で、これから殺人が起きて竹馬で帰ることがわかっていたということになってしまいます。順番が逆です。
なるほど、その場合は計画殺人でないとおかしいことになりますね。

米澤先生
もしも竹馬を持っていかなければならないのなら、何か理由を作らないといけません。
今の話はあまりにもあからさまな例ですから間違えることはないでしょうが、もっと複雑なミステリーになると、よく考えると実は因果関係が逆になっているということは、ときどき起こります。