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新人賞を狙う人の3つの心構え

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

新人賞を狙う際の心構え

今月から新潮ミステリー大賞 (三月末締切)、小説すばる新人賞(三月末締切)、キャラクター小説大賞(五月八日締切)、日本ミステリー文学大賞新人賞(五月十日締切)、福山ミステリー文学賞(五月十日締切)、『このミステ リーがすごい!』大賞(五月末締切)と、ビッグ・タイトル新人賞の募集が相次ぐ。

そこで今回は、新人賞を狙う際 の心構えについて総論を述べる。

私が「公募ガイド」誌上で「小説新人賞必勝講座」「落選理由を探る」の二つの企画を持っていることと、インターネット通信添削講座を開講していることで、非常に数多くのアマチュア(時に、売れなくなったプロ作家)の応募原 稿に接している。

その結果、大勢の応募者が非常なる勘違いをしていることに気づかされた。それを以下に箇条書き列挙していくことにする。

①どれほど面白い作品を書いても、 新人賞は射止められない。

面白い作品を書いたら新人賞が 射止められる、と思い込んでいる人は極めて多い。しかし新人賞の選考基準は、そこにはない。「他の人には思いつ かないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われる。したがって、いくら面白くても、似たような設定の物語が既存作にあれば、容赦なく落とされる。

応募者の周囲の人が「こんなに面白い作品が、なぜ、一次選考落ち?」と首を捻るのは、多くの場合、これである。

私の生徒で、筆力がありながら、予選突破できないのは、この場合である。私が「オリジナリティ充分」と判断しても、私が未読の既存作の中に「何となく似ている」 作品が存在して、選考委員がその作品を読んでいれば、落とされる。

私は仕事柄、大量の作品を読んではいるが、続々と刊行される新作の一割も読めてはいない。

これはもう、致し方ない。こういう予選落ち作品は、推敲して中身を充実させた上で他の新人賞に転応募させる。その結果、グランプリを射止めた生徒は十指に余る。「面白い作品」が要求されるのは、プロ作家になって以降である。面 白い作品が書けなければファンに見放されるから、遠からず文壇から消える。新人賞を射止めながら大半の作家が五作と出さない内に文壇から消え失せる理由は、選考基準が「面白い作品が書けるか?」にないからに他ならない。

「この応募作は大して面白くないが、発想がユニークだから、将来的に大化けする可能性がある」という理由でグランプリに選ばれる(これを、選考委員の〝業界用語〞で「伸びしろがある」と表現する)。

選考委員の期待通りにデビュー後に伸びる人間は一割もいない。大半は新人賞を射止めた時点で「これで良いのだ」と錯覚するから、伸ばす努力を怠って、敢えなく消える。

②主人公を「平凡・無口・引っ込み思案」などに設定する。

こういう作品は新人賞受賞作には、ほとんど見当たらない。そこで「こういう主人公設定はオリジナリティがある」と錯覚して応募作を書き上げ、見事に(無残に) 落ちる。

こういうタイプの主人公は、誰が書いても似たようになる。新人賞は「似たような設定や展開の物語は、束にして落とす」という不文律があるので、全て落とされ、陽の目を見ない。その結果、選考内情を知らないアマチュアは「自分の応募作はユニーク」と思い込む錯覚の罠に嵌まるわけである。

予選突破したければ、正反対に主人公を設定することがキーポイントとなる。

③反復表現を避ける。

同じ表現を使えば使うほど、選考委員は「この応募者はボキャブラリーが貧弱。伸びしろが期待できない」と落とす。最も使われる反復表現を次に列挙する。

A……「そして」という接続詞。

名文家として知られるプロ作家は基本的に「そして」を使わない。長編で、せいぜい五個前後。ところが安直に「そして」を使うアマチュアは、だいたい長編一作に百個ぐらいの「そして」が出て来る。驚いたことに、千個を超える「そ して」があった作品も目にしたことがある。

B……「しまう」という強調語。

「行った」を「行ってしまった」とするのが強調表現だが、こういう強調語は使いすぎると効果がなくなるばかりか、目障り。

私が読んだ「落選理由を探る」に送られて来た作品では「しまう」「しまった」が、数えたら百五十個もあった。これでは、読んでいて、あまりの多さにウンザリする。

一次選考の下読み選者がウンザリした時点で、読むのを中断して落選にしたことは想像に難くない。

C……「そう言って」「そう言った」

台詞のカギ括弧に続いて、こう書くアマチュアは非常に多い。その前に台詞の括弧があれば、言ったことは自明で、どんな口調と表情(主人公なら心情)で言ったのかを描写しないと、その場の情景がイメージできない場合が多い。

にも拘わらず、安直に「そう言 って」「そう言った」を使うアマチュアは、一作の中で、やはり百個以上も出す。これまたウンザリさせる。

基本的に、北原白秋の『落葉松』 の詩のようにリフレイン効果が狙える場合以外の反復使用は不可と心得ていないと、速攻で落選にされる。 

 

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

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田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

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藤原葉子(第4回佳作)

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角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。