落選作のレベル5段階
文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。
多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。
落選作レベル5段階
「公募ガイド」誌では「公募スクール」という講座が始まって、そこに「落選理由を探る」という項目があって、様々な応募落選作が送られてくるが、これが実にピンからキリである。この講座に送ろうか否かを迷っている読者のために、悪いほうから順番に事例を紹介していく。これは同時に「多い順番」にもなる。
A.小説を書いたは良いが、自身が小説を読んだことがないのでは、と疑うほど不出来なもの。
そういう作品は、たとえ新人賞に応募したとしても最初の数枚で落選にされ、後半は読んでもらえない。
そんな作品を書くのはエネルギーの無駄である。打開策としては、まず、これは、というプロ作家の文章を何十枚か写して(パソコンで打って)みる。
私が勧めるのは志水辰夫、黒川博行、北方謙三の三氏。『ウィキペディア』を見れば三氏の候補作や受賞作が載っている。それを写せば、多少はコツが見えてくる。
B.小説の体裁には一応なっているが、内容が陳腐なもの。
新人賞は「他の人が思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われる。したがって、似たような設定の物語は、束にして落とされる。
学校が舞台なら、どこにでもある普通の学校。家庭が舞台なら、どこにでもある普通の家庭。会社が舞台なら、どこにでもある普通の会社や事務所。
そういうところに舞台を設定すると、いくら延々と書いても書いても目新しい場面が出てこない。
これでは容赦なく一次選考で落選にされる。このレベルだと純文学とエンターテインメントの区別がついていない人も多い。
純文学は基本的に「読者に考えさせる(哲学的なテーマや人生観などについて)」ことにウェートを置いて書く。
エンターテインメントは正反対で「読者が考えなくても純粋に楽しめるように書く(本格ミステリーの謎解きに知恵を絞る場合を除く)」ことにウェートを置く。
C.普通ではない学校、普通ではない家庭、普通ではない会社を加工という姿勢はあるが、その方向が「誰でも考える」落とし穴に嵌まっているもの。
学校ならば、非行少年が多くて、授業が成立していない。モンスター・ペアレントが押しかける。無責任&無気力教師の横行。
家庭ならば、子供が引きこもっている。主人が会社でリストラに遭って失業しかねない状況にある。妻は夫の両親の介護にエネルギーを磨り減らしている。夫婦に対話がなく、冷え切って離婚の危機にある。
会社ならばブラック企業で、労働基準法無視、セクハラ、パワハラ横行。クレーマーが押しかける。
これらは全て、新聞やテレビなどマスコミで頻繁に取り上げられたもので、そういうテーマは基本的に、山ほど送られてくると考えていないと、応募しても応募しても一次選考を突破できず、延々と落選を重ねることになる。
D.新人賞の候補になったが、グランプリを射止められずに落ちたもの。
私のところには「公募ガイド」誌を通したものと、メール・アドレスをインターネット上に公開しているので、直接、批評を求めて送られてくるものとがあって、過去に五十作ほどの「候補止まり」の作品を読んでいる。
これにも二タイプがあって、一つは「よくぞ候補まで残れた」というもの。前項のCに引っ掛かって落ちても不思議ではないが、他の応募作のレベルも低くて、さすがに版元も「受賞作なし」は可能でも「候補作なし」ではマズいので、残されたもの。
これは、正直に申し上げて、発想法を根底から変えて「月並み」の落とし穴から脱出するようにアドバイスしている。
第二は「受賞しても不思議はないレベル。他に、もっとハイレベルの応募作があって、そっちに持って行かれたか、選考委員の好みに合わなくて受賞の届かなかったか、どっちか」というもの。
私は、このタイプの作品は、推敲を加えて他の新人賞に転応募するように勧めている。その結果、新人賞受賞に至った作品が過去に五作品ほど実際にある。
E.既に過去にビッグ・タイトルの新人賞を射止めているが、売れずに数作で依頼が入らなくなり、再デビューを狙っているプロ作家の作品。
これも五人ほど送られて来て指導しているが、共通しているのは「プロ作家だけあって文章にも物語設定にもストーリー展開にも全く問題はないが、主人公および主人公周辺の主要登場人物のキャラ設定に魅力がなく、固定ファンがつかない」というもの。
これは非常に難しい。ひたすら、「主人公のキャラが立っていて、台詞が面白い」という作品群を読んでコツを盗んでもらう以外にない。
お笑い系なら木下半太(『悪夢』シリーズなど)、七尾与史(『ドS刑事』シリーズなど、)東川篤哉などの作品群。
シリアス系なら笹本稜平(『越境捜査』シリーズなど)、今野敏(『隠蔽捜査』シリーズなど)、誉田哲也(『ストロベリーナイト』『ジウ』シリーズなど)、深町秋生(『八神瑛子』シリーズなど)などの作品群。
受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!
あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!
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自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?
あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。
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若桜木先生が送り出した作家たち
日経小説大賞 | 西山ガラシャ(第7回) |
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小説現代長編新人賞 | 泉ゆたか(第11回)
小島環(第9回)
仁志耕一郎(第7回)
田牧大和(第2回)
中路啓太(第1回奨励賞) |
朝日時代小説大賞 | 木村忠啓(第8回)
仁志耕一郎(第4回)
平茂寛(第3回) |
歴史群像大賞 | 山田剛(第17回佳作)
祝迫力(第20回佳作) |
富士見新時代小説大賞 | 近藤五郎(第1回優秀賞) |
電撃小説大賞 | 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞) |
『幽』怪談文学賞長編賞 | 風花千里(第9回佳作)
近藤五郎(第9回佳作)
藤原葉子(第4回佳作) |
日本ミステリー文学大賞新人賞 | 石川渓月(第14回) |
角川春樹小説賞 | 鳴神響一(第6回) |
C★NOVELS大賞 | 松葉屋なつみ(第10回) |
ゴールデン・エレファント賞 | 時武ぼたん(第4回)
わかたけまさこ(第3回特別賞) |
新沖縄文学賞 | 梓弓(第42回) |
歴史浪漫文学賞 | 扇子忠(第13回研究部門賞) |
日本文学館 自分史大賞 | 扇子忠(第4回) |
その他の主な作家 | 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司 |
新人賞の最終候補に残った生徒 | 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞) |
若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール
昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。