第16回「小説でもどうぞ」佳作 ダルマさんがころんだ/瀬島純樹
第16回結果発表
課 題
遊び
※応募数206編
「ダルマさんがころんだ」
瀬島純樹
瀬島純樹
ご褒美に、みんなの大好きなご馳走を用意いたしました。君たちの口に合うかどうかはお楽しみ。
今日のルールは、このご馳走に一番最初にタッチした人に、すべて進呈します。もちろんすんなりとは食べさせませんよ。邪魔をしたり、隠したりします。
こっちも、まなこを皿のようにして、みんなの動きをひとつも見逃しませんよ。
準備はいいですか、では始めますよ。
ダルマさんがころんだ。
いっちゃんは、今日も元気いっぱいだ。ちょっと赤いけど、まんまるなところは健康そのもの。早くも、誰よりも一歩踏み出して前に出て来ている。
でも、はじめから攻めすぎじゃないかな。それで失敗したこともあったよね。後まで続くかどうか見ものだ。
ダルマさんがころんだ。
おやおや、えっちゃんは、反対にやる気なしかな。どうした、からっきし元気がないぞ。
もともと、エンジンがかかるのに助走がいる子だからしょうがない。
慌てることはないよ、まずはゆっくり身体を動かしながら始めようね。
ダルマさんがころんだ。
りっちゃんも、顔色がいまいちだ。
いつもは、誰よりもめちゃんこ食欲があって、手に負えないくらい走り回っているのに。今日は、なんだかおとなしくしているように見えるけど。
たまには、そういうのもいいかもしれない。
それにしても、あの様子は、なんだか怪しいぞ。
もしかしたら、気取られないようにとんでもないことを企んでいるのかもしれない。逆にそのギャップが心配だな。
以前そんな調子で、ハチャメチャになったことがあったな。
ダルマさんがころんだ。
えっ、りっちゃん、どこに行くの?
そんなに視界から逸れると、見えなくなっちゃうよ。だめだめ、もっと内側に、よってよって。
ダルマさんがころんだ。
ああ、見えなくなっちゃった。
これもなにかの作戦かな。獲物を狙う巧妙な動きかな。いずれにしても退屈させない子たちだ。
ダルマさんがころんだ。
おや、あの子はどこから来たのかな。はじめて見る子だけど、迷子でも紛れ込んでしまったのかな。様子もみんなと違うようだけど。
ダルマさんがころんだ。
なんだ、あの子の後ろに重なるようにして、りっちゃん隠れていたのか。
二人は初対面じゃあなさそうだぞ。ほとんど手を組んでいるみたいに、くっついてる。
あれれ、はじめての子が、なんの関心もなさそうにして、あれよあれよという間に、するするとご馳走に接近してきてるぞ。
おや、いっちゃんと、えっちゃんが、ふたりがかりで、その前に立ちはだかった。このままでは、バトル勃発じゃないのか。
おい、みんな聞いてくれ。喧嘩はよくない。前もって言ってなかったが、喧嘩はルール違反だ。やめてくれ。だめだめ、ブレイクだ。離れてくれ。
あれ、いつの間に、りっちゃんは新しい子の後を押しているじゃないか。
まさか、りっちゃんがあの子を、そそのかしているのか。
いままでいつも、いっちゃん、えっちゃんと三人で仲良しだったのに、今日は二手に分かれて対決か。本気でやる気か。
なんだなんだ、四人がぶつかったと思ったら、今度は、何のためらいもなく、お互いの手をつなぎだした。
四人は連合して、用意していたご馳走を包囲すると、その間隔を一気に縮めた。
するとこともあろうに、遊びのルールを無視して、みんなでご馳走を食べ始めた。
子どもたちの予想外の行動に呆気にとられ、掛け声を唱えるのも、すっかり忘れて、ただただ、彼らの見事な食べっぷりを眺めていた。
その時、誰かが、わたしにいきなりタッチした。その衝撃に、思わず声をあげそうになった。
慌てて接眼レンズから目を離して振り向いた。同僚だった。
「やめてくださいよ、細菌に名前を付けるのは。廊下で聞いた人は、遊んでいると勘違いしますから」
「……その遊びで、新発見だよ。いっちゃんと、えっちゃんが、いや、長年培養していた細菌が、例のウイルスを捕食したんだ」
(了)
今日のルールは、このご馳走に一番最初にタッチした人に、すべて進呈します。もちろんすんなりとは食べさせませんよ。邪魔をしたり、隠したりします。
こっちも、まなこを皿のようにして、みんなの動きをひとつも見逃しませんよ。
準備はいいですか、では始めますよ。
ダルマさんがころんだ。
いっちゃんは、今日も元気いっぱいだ。ちょっと赤いけど、まんまるなところは健康そのもの。早くも、誰よりも一歩踏み出して前に出て来ている。
でも、はじめから攻めすぎじゃないかな。それで失敗したこともあったよね。後まで続くかどうか見ものだ。
ダルマさんがころんだ。
おやおや、えっちゃんは、反対にやる気なしかな。どうした、からっきし元気がないぞ。
もともと、エンジンがかかるのに助走がいる子だからしょうがない。
慌てることはないよ、まずはゆっくり身体を動かしながら始めようね。
ダルマさんがころんだ。
りっちゃんも、顔色がいまいちだ。
いつもは、誰よりもめちゃんこ食欲があって、手に負えないくらい走り回っているのに。今日は、なんだかおとなしくしているように見えるけど。
たまには、そういうのもいいかもしれない。
それにしても、あの様子は、なんだか怪しいぞ。
もしかしたら、気取られないようにとんでもないことを企んでいるのかもしれない。逆にそのギャップが心配だな。
以前そんな調子で、ハチャメチャになったことがあったな。
ダルマさんがころんだ。
えっ、りっちゃん、どこに行くの?
そんなに視界から逸れると、見えなくなっちゃうよ。だめだめ、もっと内側に、よってよって。
ダルマさんがころんだ。
ああ、見えなくなっちゃった。
これもなにかの作戦かな。獲物を狙う巧妙な動きかな。いずれにしても退屈させない子たちだ。
ダルマさんがころんだ。
おや、あの子はどこから来たのかな。はじめて見る子だけど、迷子でも紛れ込んでしまったのかな。様子もみんなと違うようだけど。
ダルマさんがころんだ。
なんだ、あの子の後ろに重なるようにして、りっちゃん隠れていたのか。
二人は初対面じゃあなさそうだぞ。ほとんど手を組んでいるみたいに、くっついてる。
あれれ、はじめての子が、なんの関心もなさそうにして、あれよあれよという間に、するするとご馳走に接近してきてるぞ。
おや、いっちゃんと、えっちゃんが、ふたりがかりで、その前に立ちはだかった。このままでは、バトル勃発じゃないのか。
おい、みんな聞いてくれ。喧嘩はよくない。前もって言ってなかったが、喧嘩はルール違反だ。やめてくれ。だめだめ、ブレイクだ。離れてくれ。
あれ、いつの間に、りっちゃんは新しい子の後を押しているじゃないか。
まさか、りっちゃんがあの子を、そそのかしているのか。
いままでいつも、いっちゃん、えっちゃんと三人で仲良しだったのに、今日は二手に分かれて対決か。本気でやる気か。
なんだなんだ、四人がぶつかったと思ったら、今度は、何のためらいもなく、お互いの手をつなぎだした。
四人は連合して、用意していたご馳走を包囲すると、その間隔を一気に縮めた。
するとこともあろうに、遊びのルールを無視して、みんなでご馳走を食べ始めた。
子どもたちの予想外の行動に呆気にとられ、掛け声を唱えるのも、すっかり忘れて、ただただ、彼らの見事な食べっぷりを眺めていた。
その時、誰かが、わたしにいきなりタッチした。その衝撃に、思わず声をあげそうになった。
慌てて接眼レンズから目を離して振り向いた。同僚だった。
「やめてくださいよ、細菌に名前を付けるのは。廊下で聞いた人は、遊んでいると勘違いしますから」
「……その遊びで、新発見だよ。いっちゃんと、えっちゃんが、いや、長年培養していた細菌が、例のウイルスを捕食したんだ」
(了)