第16回「小説でもどうぞ」選外佳作 かくれんぼ/田辺ふみ
第16回結果発表
課 題
遊び
※応募数206編
選外佳作
「かくれんぼ」
田辺ふみ
「かくれんぼ」
田辺ふみ
「こっち、こっち」
子どもの力は意外と強い。私は咲希に引っ張られて神社の本堂の裏に連れて行かれた。
実家の近所の神社だった。娘の七五三をやりたいという母の気持ちを汲んで帰省したが、本当は足を踏み入れるのも嫌だった。
それなのに、咲希は珍しいのか、神社で遊びたがった。
「ママ、ここでかくれんぼしよう」
「二人だと面白くないでしょ」
「大丈夫。ここに隠れたら、見つからないって教えてもらったんだ」
小さな鳥居にその先の小さな祠。
「誰に教えてもらったの?」
声が震えた。
「お友だち。ママのこと、知っているって言ってたよ」
咲希が祠の扉に手をかけた。
元々、かくれんぼが嫌いだった。
佳奈ちゃん、翔吾、圭太、颯斗。誰が鬼になっても、私はすぐに捕まった。
「隠れるの、下手ねえ」
そのたびに佳奈ちゃんは馬鹿にしたように言った。
私は運動ができない子で足が遅かったが、そんなことは関係なかった。必ず、誰かが私の隠れるところを確認して、鬼役に教えるのだ。
そして、私が鬼になると、すぐにみんな、どこかに行ってしまった。最初、私は知らないで、夕方になるまで泣きながら、みんなを探した。でも、いつも、みんなは公園や誰かの家で遊んでいた。気づいて怒ると、逆に文句を言われた。
「だって、いつまで経っても沙耶ちゃん、探しに来ないんだもん」
「そんなことない。ずっと、探してた」
「そっか、きっと、全然違うところを探してたんだね」
探すのをやめたこともある。そうすると、あとですごく責められた。
「遊びだからって、ルールがあるんだから。守らない子は嫌い」
「そうだ、きちんとルールを守れよ」
ニヤニヤと言われても、反論できなかった。
仲間から抜け出して、一人になるのは嫌だった。いじめられている子だと思われるのは恥ずかしくて、大人には何も言えなかった。
その日のかくれんぼの舞台は神社だった。ジャンケンで負けて鬼になったのは圭太だった。
私がどこに隠れようか迷っていると、佳奈ちゃんが腕を引っ張った。
「こっち、こっち」
鳥居を抜け、祠の前に立った。いつも閉まっている扉が開いている。中は空っぽで案外、広かった。
「この中に隠れたら、沙耶ちゃんだって、見つからないよ」
「外から見えるよ」
「大丈夫だって」
「じゃあ、佳奈ちゃん、入ってみて」
私に反撃されることなんて考えていないから、佳奈ちゃんはすっと中に入った。
「確かに外から見えないみたい」
私は素早く扉を閉めて、言った。
「何するのよ。開けなさい」
扉に金具がついていたので、留める。
「開けてよ」
その声に力はない。佳奈ちゃんが暗いところが苦手なことは知っていた。
「鬼が見つけてくれるって」
「助けて」
泣き声を無視して、帰ろうとすると、圭太がやってきた。やっぱり、佳奈ちゃんとグルだったんだ。
「祠の中に佳奈ちゃんがいるから、早く助けてあげたら」
そう言って、私は横を走り抜けた。
もう仲間はずれになっても構わないと思っていた。
その晩、佳奈ちゃんが行方不明ということで大騒ぎになった。私は泣きながら、佳奈ちゃんを閉じ込めたことをお巡りさんに説明したが、圭太が行った時にはもう祠の鍵は壊れていたし、中には誰もいなかったらしい。
そして、それっきり、佳奈ちゃんは戻ってこなかった。家出したのか、裏山に迷い込んだのか、事故か事件か、わからないままになった。
その祠に咲希が入ろうとしている。慌てて止めようとすると、扉を開けた咲希がするりと身をかわしたため、自分の体が中に入ってしまった。
「お友だちがね、こうすれば、見つからないって言うんだ」
咲希が笑って扉を閉める。ギイッという音と共に視界が暗くなった。
(了)
子どもの力は意外と強い。私は咲希に引っ張られて神社の本堂の裏に連れて行かれた。
実家の近所の神社だった。娘の七五三をやりたいという母の気持ちを汲んで帰省したが、本当は足を踏み入れるのも嫌だった。
それなのに、咲希は珍しいのか、神社で遊びたがった。
「ママ、ここでかくれんぼしよう」
「二人だと面白くないでしょ」
「大丈夫。ここに隠れたら、見つからないって教えてもらったんだ」
小さな鳥居にその先の小さな祠。
「誰に教えてもらったの?」
声が震えた。
「お友だち。ママのこと、知っているって言ってたよ」
咲希が祠の扉に手をかけた。
元々、かくれんぼが嫌いだった。
佳奈ちゃん、翔吾、圭太、颯斗。誰が鬼になっても、私はすぐに捕まった。
「隠れるの、下手ねえ」
そのたびに佳奈ちゃんは馬鹿にしたように言った。
私は運動ができない子で足が遅かったが、そんなことは関係なかった。必ず、誰かが私の隠れるところを確認して、鬼役に教えるのだ。
そして、私が鬼になると、すぐにみんな、どこかに行ってしまった。最初、私は知らないで、夕方になるまで泣きながら、みんなを探した。でも、いつも、みんなは公園や誰かの家で遊んでいた。気づいて怒ると、逆に文句を言われた。
「だって、いつまで経っても沙耶ちゃん、探しに来ないんだもん」
「そんなことない。ずっと、探してた」
「そっか、きっと、全然違うところを探してたんだね」
探すのをやめたこともある。そうすると、あとですごく責められた。
「遊びだからって、ルールがあるんだから。守らない子は嫌い」
「そうだ、きちんとルールを守れよ」
ニヤニヤと言われても、反論できなかった。
仲間から抜け出して、一人になるのは嫌だった。いじめられている子だと思われるのは恥ずかしくて、大人には何も言えなかった。
その日のかくれんぼの舞台は神社だった。ジャンケンで負けて鬼になったのは圭太だった。
私がどこに隠れようか迷っていると、佳奈ちゃんが腕を引っ張った。
「こっち、こっち」
鳥居を抜け、祠の前に立った。いつも閉まっている扉が開いている。中は空っぽで案外、広かった。
「この中に隠れたら、沙耶ちゃんだって、見つからないよ」
「外から見えるよ」
「大丈夫だって」
「じゃあ、佳奈ちゃん、入ってみて」
私に反撃されることなんて考えていないから、佳奈ちゃんはすっと中に入った。
「確かに外から見えないみたい」
私は素早く扉を閉めて、言った。
「何するのよ。開けなさい」
扉に金具がついていたので、留める。
「開けてよ」
その声に力はない。佳奈ちゃんが暗いところが苦手なことは知っていた。
「鬼が見つけてくれるって」
「助けて」
泣き声を無視して、帰ろうとすると、圭太がやってきた。やっぱり、佳奈ちゃんとグルだったんだ。
「祠の中に佳奈ちゃんがいるから、早く助けてあげたら」
そう言って、私は横を走り抜けた。
もう仲間はずれになっても構わないと思っていた。
その晩、佳奈ちゃんが行方不明ということで大騒ぎになった。私は泣きながら、佳奈ちゃんを閉じ込めたことをお巡りさんに説明したが、圭太が行った時にはもう祠の鍵は壊れていたし、中には誰もいなかったらしい。
そして、それっきり、佳奈ちゃんは戻ってこなかった。家出したのか、裏山に迷い込んだのか、事故か事件か、わからないままになった。
その祠に咲希が入ろうとしている。慌てて止めようとすると、扉を開けた咲希がするりと身をかわしたため、自分の体が中に入ってしまった。
「お友だちがね、こうすれば、見つからないって言うんだ」
咲希が笑って扉を閉める。ギイッという音と共に視界が暗くなった。
(了)