第18回「小説でもどうぞ」選外佳作 俺の噂/がみの
第18回結果発表
課 題
噂
※応募数273編
選外佳作
「俺の噂」
がみの
「俺の噂」
がみの
「おまえが死んだって噂が流れているぞ」
友人のKから電話がかかってきた。
「何バカなこと言ってるんだよ。誰がそんなこと言ってるんだ?」
「知らないが、そういう噂になっている」
Kはそう言って、高校の同級生で作っているSNSの招待メッセージを俺に送ってきた。
そのSNSに登録してみると、確かに俺が死んだらしいという話がちらほら流れていた。死因は新型コロナだとかガンだとか交通事故だとか、根も葉もない話ばかり。
「わたし、彼のこと、ちょっと好きだったんだよね」
なんと、高校時代俺が好きだったA子がそんなことを投稿していた。が、A子はやはり同級生だったSと結婚していたはずだ。今さらそんなこと言われてもしょうがない。
とりあえず、俺はまだピンピンしていると投稿した。が、SNSに反映されない。再度投稿してみたが、やっぱり反映されない。
俺はKに電話してみた。
「うーん、俺もSNSにはあまりくわしくないんだよな。俺の方で投稿してみるよ」
Kはそう言ったが、いつまでたってもKの投稿が反映されることはなかった。
ま、どうでもいいかと俺はあきらめる。
それから数日して母親から電話があった。
「あんたが死んだって噂が流れているけど」
「え、誰がそんなこと言ってるの」
「あんたが高校のとき、同級生だったSって子よ」
「ああ、同級生仲間のSNSで流れている噂をそのまま吹聴しているんだろう。大丈夫だよ」
「それならいいけど、何か困ったことになっているんじゃないだろうね」
「そんなことないよ」
まったくふざけた話だ。
俺はKに電話した。が、通じない。ショートメッセージを送ったが、返事が来ない。
しばらくして、SNSに俺の四十九日法要が終わったというメッセージが投稿されていた。
葬式には行けなかったけど、四十九日には行ったという話がいくつか出てきた。その中にKの投稿もあった。
「あいつ、ふざけやがって」
俺はKに電話したが、どうしても出ない。
電車に乗り継いでKのマンションまで行った。
ドアを開けたKは驚いた顔を見せた。
「あれ、おまえ死んだんじゃなかったのか」
「何言ってるんだよ。噂の話をしたときに俺は生きてたじゃないか。なんだって、SNSに四十九日法要に行ってきたなんて投稿しているんだよ」
「いや、俺の母親がおまえのお母さんから聞いたと言ってたぞ。で、俺は実際には行ってないけど、俺の母親は参列したと言ってる」
「デタラメだ。俺が生きているって、ちゃんとSNSに投稿してくれよ」
「わかった。悪いがちょっと出かけなければならないので、後でな」
Kはそう言うと急いで出て行った。俺はKを追いかけたが、マンションのエントランス付近ですぐに見失ってしまった。電話をかけたが、やはり出ない。
いったい、どういうことだ。
俺は母親に電話してみた。ところが電話がつながらない。不安になってアメリカにいる姉のところに電話した。時差を考えるとあちらは夜中になるが仕方がない。
「もうなんでこんな時間に電話するのよ。もしかしてこの電話、霊界から?」
眠そうな姉の声が遠くから聞こえる。
「姉さんまでなんでそんなこと言うんだよ」
「あれっ、あんた死んだって母さんが言ってたわよ。このご時世なので帰れなくて申し訳ないと思っていたんだけど」
「母さんが、俺が死んだって?」
「ええ」
「その母さんに連絡が取れないんだけど」
「昨日、電話で話したんだけどな。後でまた電話してみるわ」
姉はそう言って電話を切った。
いったい、これはどういうことだ。
俺は急いで飛行機の予約を取る。
羽田から郷里の空港まで飛んで、空港からレンタカーを借りた。そして、実家のある田舎町まで車を飛ばした。
もう日が暮れていたが、俺の家の電気はついてなかった。真っ暗だ。
ドアには鍵がかかっている。ドアをたたいたが、誰も出ない。
線香の匂いがする。暗い中よく見れば、門柱のそばに忌中の札がかかっている。
隣近所の見知った人たちが外に出てきた。みな、俺を見ておびえた表情を見せる。
俺は声が出せなかった。足下が崩れていくような感覚を覚える。周りがさらに暗くなっていくようだ。
(了)