第22回「小説でもどうぞ」選外佳作 刺青 がみの
第22回結果発表
課 題
祭
※応募数242編
選外佳作
刺青 がみの
刺青 がみの
やくざたちは景気よく神輿をかつぎ、わっしょいわっしょいと練り歩いていく。祭りの熱狂とともに、周りの人たちも次第に彼らの素性や刺青に違和感を抱かなくなっていく。
それを冷静に見ている中年の男と女がいた。
「あれって、何なの?」
女が男に訊いた。
「刺青というものらしい。人の皮膚に直接、絵や文字を彫りつけているようだ」
「へえー、珍しい習性ね。いったいなんのために?」
「若いやつらにとっては一種のファッションらしいが、ああいうやくざという連中は威嚇効果を狙っているようだ」
「なぜあれが威嚇になるのかわからないけど」
女はそう言いながら、耳に付けられたイヤホンを奥にちょっと押し込んだ。
「興味を持っている人がいるみたい。一体サンプルが欲しいそうよ」
「こんな大勢の人の中でか」
男はあきれたような顔をしたが、女とともに人混みを抜ける。人目につかない場所に移動すると、二人の体はどろどろに溶け出した。そして水のように透明化する。
「おわっと」
いきなり神輿が傾いた。
「おい、田中の兄貴が急に消えたぞ」
「なんだと、馬鹿なことを言うな。便所にでも行ったんだろう。かつぐ場所を変えろ」
田中という中年のやくざが突然消えたが、それを見ていたのはすぐそばにいた若い男だけだった。何かぬるっとしたものに田中がおおわれたのを見た気がした。若い男は不気味に思いながらも、田中のいた場所に移動する。
田中は意識を失ったまま、金属製のテーブルの上に横たえられていた。そこは異星人の宇宙船の中だった。
アーモンド型の大きな目をした異星人が数人、田中を取り囲んでいた。
「自分の皮膚に絵を描く知的生命体って、初めて見たわ」
異星人が一人、田中の肌を触りながら観察している。
「これって、簡単には消えそうにないわね。体温とか体調とかで色合いが変わるのかな。ちょっと時間かけて調べたいわね」
他の異星人が声をかけた。
「実は、母星のほうにもこの映像が届いていて、美術愛好家が興味を持っているらしい。地球人という人種自体が珍しいのに、さらにその皮膚に絵が描かれているということで希少価値があるそうだ。芸術的な価値については判断が分かれているようだが、既にオークションが始まって値段がつり上がっている」
異星人たちは壁のモニターを見た。
「ひやー、そんなに高い値がつくのか」
「ということは、サンプルとしてではなく本格的に採取してもいいということかな」
「母星のほうから許可がおりた。我々の正体を知られないように行動する限りにおいて、大量採取も可とのことだ」
「了解」
田中をさらってきた男と女の異星人がまた地球に降り立った。二人は今度は大胆に、神輿を含めてその周りの男たちすべてを包むように自らの溶解した体を広げた。そして、神輿ごと男たちを空に吸い上げる。
祭りの場は大騒ぎだ。しかし、人間には神輿と男たちが突然消えたようにしか見えない。
宇宙船の中には十数名の男たちが床の上に放り出された。神輿も一緒だ。
異星人たちは男たちの体をチェックし、絵柄などをコンピュータに登録していく。
彼らは既に田中が目を覚ましていることに気づいてなかった。田中は最初恐怖にすくんでいたが、さらに仲間たちがさらわれてきたことで怒りがこみ上げてきた。
男たちは、対立組織の襲撃に備えて神輿の中に武器を隠していた。田中はすばやく起き上がると、長ドスと拳銃を取りだして異星人たちに襲いかかった。異星人たちの血が飛び交い、悲鳴が宇宙船の中に響いた。
(了)