第6回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 素敵な家族 酔葉了
第6回結果発表
課 題
家族
※応募数289編
選外佳作
素敵な家族
酔葉了
素敵な家族
酔葉了
私の家が周りの友達の家より相当裕福だと感じたのは小学校に入った頃。「金持ちの息子」と周りの大人たちも言っているのが聞こえた。父の家が地元の名士で、所有している土地もお金も莫大なものだった。それに父は市議会議員を務めていて、かなり顔も利く。母も同じような名士の出だ。そんな両親は私を溺愛し、何でも言うことを聞いてくれた。
だが、私は高学年になるにつれ、そんな日々に嫌気がさしていった。
友達から嫉妬の目で見られることも耐えられない。そして何より自分一人の力では何もできないと思われることが本当に嫌だった。私は自分の力だけで道を切り開こうと強く誓った。
両親からの援助をとことん拒み、自分の家が裕福であることも徹底的に隠した。そんな私を両親は寂しそうに見ていたと思う。
だが私はそんなことを気にしてはいられない。黙々と一人努力をし続けた。そして数々のチャンスが巡って来た。それに私は強運も持っていた。
小学校のマラソン大会で優勝した。そこまでの実力はないとは言われていたが、大会当日、ライバルが次々と棄権し脱落。私がトップに立った。
中学校は超難関を受験して合格。受験前は合格できるような成績ではなかった。確かに試験の手応えはなかったが、合格通知が届いた。この年の試験があまりに難しく、受験生の間でそれほどまでの差がなく、たまたま自分の得意分野で得点できたことがよかったらしい。私は得意満面で入学した。
更に生徒会長に立候補。下馬評では落選と言われていたが、フタを空ければ私の圧倒的なトップ当選だった。ライバル達の不正が発覚し、それが私を後押しした。我ながら胸がスッとする思いだった。
大学は親元を離れるべく地方の有名大学を選んだ。私の実力では難しいと言われた難関校だ。だが、私は実力で何とか合格できたと自負している。
就職先もすべて一人で決め、エントリーをして興味のあった商社に何とか入社することできた。父や母がいなくても私は出来る。今までの努力でそれを証明できたことがとにかく嬉しかった。だが、ある噂が私の心を重くした。
「君のお父さんは随分と有名人らしいね」
ある日、部長が尋ねてきた。
「そんなことはありませんが……。何か?」
言葉を濁す私に部長は続けた。
「君のお父さん、当社の役員と親しいようだからさ」
嫌な予感が胸に広がっていく。もしかすると、今までの私の成功は父や母が裏で何か操作していたのではないのか? そんな疑問を持ってしまったのだ。一人では何もできない男。私は
誰にも相談できず悶々とする日々。そんな思い悩む中で私は一人の女性と商社で出会った。優しくて美人で優秀。私は一目で好きになった。彼女と付き合いたい、いや結婚したい。私は初めて女性に本気になり、いろいろとアタックをした。しかし、彼女は表面上、優しく接してはくれるものの、本当に心を許してくれることはなかった。私は苦しんだ。
ここでいつもの強運が……。私は密かに願った。助けてくれ、親父。正直なところ、どうにかなるのではないか、そう思っていた。しかし、一向に彼女が振り向いてくれる気配ははない。「会って欲しい」と呼び出したが、頷いてくれることはもうなかった。私は完全に振られた。簡単に現実を受け入れることは出来なかった。嘘だ――。だが、それが現実らしい。私は大声で喚いた。
その一方でホッとしている自分もいた。今までのことが本当に両親の援助なら、今ここまで苦しんでいる私を見捨てるわけがない。だが、現実は何も起こらない。つまり、昔から親父たちの援助などなかったのだ。それが分かったことだけはよかったかもしれない。悲しくて、少し嬉しい複雑な涙がこぼれ落ちていった――。
その男の両親が寝室で話をしている。
「あの子、随分、苦しんでいるわよ。いつものようにお金を使って助けてあげて」
「駄目だな。恋愛だけは助けない」
「なんでよ? 今までもずっとそうしてきたじゃない。運動会だって、受験だって、就職だって、何でも裏で支えてあげてきたじゃない」
「だから恋愛だけは別もんだ。奴が男として成長するためだ」
「……そんなものかしら」
妻は寝室から出て行った。父親は大きく息を吐いた。
「こればっかりは駄目なんだよ。俺の可愛い愛人をあいつに譲る訳には絶対にいかん。もちろん間違っても妻にそんなことは言えんがな……」
そう呟いて父親は横になった。
(了)