第6回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 プロ家族 優子
第6回結果発表
課 題
家族
※応募数289編
選外佳作
プロ家族
優子
プロ家族
優子
「ねぇミカ、放課後、買い物付き合ってよ」
昼休み、頭上から真奈美の声が降ってきて、ミカはスマホから顔を上げた。
「どこに?」
ミカが軽く首をかしげると、
「駅前のドラッグストア。そうだ、久しぶりにあのカフェも行こうよ。せっかくテストも終わったことだしさぁ」
と真奈美は跳ねるように答えた。ミカは机にひじをついて、小さくつぶやく。
「うーん。ちょっとお父さんに相談してみる。でもたぶん無理かも」
「なんで?」
真奈美が目を見開いた。
「お母さんの手伝いもしなきゃいけないし」
「え、お母さん体調悪いの?」
「ううん、元気だよ」
「ミカんちって、そんな厳しい家だっけ? なんか変わってるね」
「別に、普通の家族だよ」
真奈美が口をとがらせる。
「うちらもう高校生じゃん。まぁいいけど。あたしなんて、最後に父親の顔見たのもいつか忘れちゃったくらいなのに」
今度はミカが目を見開いた。
「一緒に住んでないの?」
「住んでるよ。あたしが毎日部屋にこもってるだけ」
「なにそれ」
そっちのほうが、よっぽど変な家族じゃん。ミカは口にこそ出さなかったが、真奈美に心の中で毒づいた。
すると、前の席に座っていた香里が振り向いた。
「真奈美、やめときな。ミカは最近付き合い悪いから」
「ふぅん」
それから真奈美と香里は、ミカの知らないドラマの話に花を咲かせ始めた。
ミカは再びスマホに視線を落とし、メッセージアプリを立ち上げた。
『今日、通学路にノラ猫いたよ』
朝の通学中に撮影した画像を添付して、父と母にメッセージを送った。すぐさま二人から返信が来る。父からは、『かわいいな』とシンプルに一言だけ。母からは、ネコの絵文字が送られてきた。ミカはほっと息をつく。これが、普通の家族のはずだ。
「ただいま」
「おかえりなさい。ちょうどよかった。ご飯手伝ってくれる?」
キッチンからひょっこり顔を出し、母は優しく笑った。
「分かった」
ミカは急いで制服から部屋着に着替え、母の元に向かう。
「お父さん、今日は早く帰ってくるんだって。だから今日はビーフシチューにしようと思ってね。お父さんの好物だから」
「やったぁ。私も大好き」
ミカは飛び上がって喜んだ。
ミカと母がおしゃべりしながら料理を完成させると、タイミングよく玄関の扉が開く音がした。二人そろって玄関まで出迎えに行く。
「おかえりなさい」
父がスーツを脱ぐと、母は素早く受け取り、スーツにブラシをかける。ミカはその間にキッチンに戻り、冷えたビールを冷蔵庫から出した。配膳を済ませ、いただきます、と声を揃える。
夕食は必ず父の帰りを待って、揃って食べる。遊びに行く時は、父に連絡して許可を得なければならない。休みの日は必ず家族三人で過ごす。厳しい父、優しい母、真面目な娘。誰がどう見ても普通の家族だ。
三人がビーフシチューを口に運んだその時、部屋にアラーム音が響き渡った。途端に三人の顔に緊張が走る。そして、天井のスピーカーから、機械的な女の声がした。
『田中さんご一家に判定が出ました。不合格です』
「またか」
三人は揃ってため息をついた。
『全体的に不自然でした。今時の家族の関係性はもっと希薄です』
田中家の三人は、アンドロイドだ。彼らは家族として暮らしていくことを政府から求められている。家族だと認められるためには、『プロ家族テスト』に合格する必要があるが、彼らは落選し続けていた。
彼らは、家族がどういうものなのか理解しきれていない。家族の定義があまりに曖昧で、どうしても不自然さが残ってしまうのだ。
ミカは天を仰いだ。
「ほんとわかんない。家族って、何?」
(了)