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第25回「小説でもどうぞ」選外佳作 幽霊の教え おナス

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第25回結果発表
課 題

幽霊

※応募数304編
選外佳作 
幽霊の教え おナス

 仕事が終わり、家に帰る。電車を乗り換えるために地上にでて、また駅を目指す。さっさと電車に乗って帰ろうと改札に向かう途中で、俺は自分の目を疑った。人が行き交う駅構内で、真っ黒に日焼けし、ブーメランパンツ一丁の筋肉隆々の男がポージングをしいるのだ。いやさすがにあれは、ダメだろ。俺は、横目で観ながら早足で通り過ぎた。そのうち警察がきて連れていかれるだろう。そのとき丁度、制服を着た二人組の警察官が俺の横を通った。
 あれは性癖か、それともあぁいう表現なのか? 多分前者だろ。もう一度男の方を振り返る。警察官二人はその男の横を通り過ぎていった。え? 嘘だろ? あれを見逃せるほど重大な事件でもあるのか? 俺は、その場を動くことができなかった。あいつは一体なん何だ? それにパンツ一丁だということよりも、拭えない違和感がある。あの男の周辺を通り過ぎる人たちは、一切男に対して視線を向けない。みんな元々見えていないかのように足早に通り過ぎる。
男と目が合う。瞬時に視線を外したのが逆にダメだったのか、男の視線を感じる。
「ちょっとお兄さん!」うわぁー最悪だ。
「待ってお兄さん、もしかして見えてる⁉」
 俺はポケットから財布を取り出し、ほぼ走っている状態で改札を抜けた。辺りを見渡し、男の姿がないことを確認する。よしっ。振り返ると黒い塊が目の前に現れた。
「うわぁぁぁ」
「やっぱりだ!」
「なんなんですか! あんた、警察呼びますよ」
「呼んだところでみんな俺のことみえてないんで意味ないですよ、それに俺死んでるんで」
「死んでる?」
「そう、死んでる」頭が整理できない。男は続ける。「ボディビルの大会前に、過剰な水抜きで脱水起こしてお風呂の中で、ぽっくり逝っちゃいました」
 そう男は言い、腕の筋肉が目立つようなポージングをした。
「それにしてもなんでお兄んにだけ見えてるのだろ?」俺が聞きたかった。
「もしかしてお兄さんも死んでるの?」
「死んでねぇわ!」
 行き交う人たちの視線が俺に向く。本当にこいつの姿は、他の人には見えていないみたいだ。いや、違う。ただ俺が疲れているだけだろう。そう言い聞かせ電車に乗り、一人暮らしのアパートの扉を開けた。
「結構綺麗にしてるんですね」
「何で付いて来てんだよ!」
「いやだって寂しいですよ、誰も構ってくれないし」
「それは俺に言われても。天国とかには行けないの」
「俺もそう思ったんですけど、気づいたらまだこの世にいる感じ。多分やり残したことがあるから成仏できていないんだと思うんですよ」
「そんなこと言われても俺には、関係ないだろ、おい聞いてるのか?」
 男は台所の方を見ていた。
「あれってもしかしてプロテインですか? それにダンベルに腹筋ローラにケトルベルまである!」
「あんまりみるなよ!」
「あれっ? 結構気が合う感じ?」
「違ぇよ、あれは昔付き合ってた彼女が無理やり俺に押し付けてきたやつ、いらねぇやつ」
「いらないなら捨てたらいいじゃないですか?」
「いちいちうるせぇな」
「訳ありですか?」
 俺は言わなくていいことだと頭では分かっていたが、自分を止めらなくなっていた。
「彼女は俺にゴツくなって欲しかったんだろうな、頑張ったけどなかなか難しくて、気づいたらガタイが大きいやつと浮気してフラれたんだよ! お前には分からねぇだろ、この気持ち、まだ好きだから捨てたくても捨てらないんだよ! もう消えてくれよ、当てつけか、俺にだけ見える筋肉の幽霊って!」 
「いやもっと他のネーミングあるでしょ、筋肉の幽霊って、まぁでもそういうきっかけがあるからこそ変われるんですよ、前向きになったらどうですか? 筋トレなら手伝いますよ俺」
「もういいよ、どうせあんたみたいになっても彼女は戻ってこないし、それに努力とか嫌いだし」
「あぁーそれを言い出したら終わりですわ」
「なんで幽霊に説教されなきゃいけないんだよ! お前幽霊なら俺に憑依して、代わりに筋トレしてくれよ!」
「結構あんたどうしようもない人だな、彼女さんはあんたのそのいききれない女々しい性格に呆れただけでしょ!」
 俺は何も言えなかった。
「なんかあんた思ってたような人じゃないな。俺の代わりに大会に出場して、無念を晴らしてくれる人探すよ、じゃあ」
「なんだよ言いたいことだけ、言いやがって」
 筋肉の幽霊は最後に、
「女とか仕事とか、生きてたらいろいろ裏切れることはあるよ。それでも筋肉だけは裏切らない! まぁ頑張って」と言って消えた。
(了)