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エッセイを書く勘どころ①:エッセイによくある5つのタイプ

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5つの要素をどう組み合わせるか

エッセイのタイプを5つ挙げると、「ほろりとさせるエッセイ」「感動、共感するエッセイ」「うんちくのあるエッセイ」「自虐ネタ」「笑えるエッセイ」があります。
もうひとつ、「怒ったエッセイ」という辛辣で辛口のエッセイもありますが、これはアマチュアには扱いにくいところがありますので割愛しました(本題に入る前のきっかけとして使う分には問題ないですが)。
さて、今挙げた要素は、どれか一つをメインに、それ以外の一つか二つを組み合わせるのがコツです。
たとえば、ほろりとさせたり、へえと思わせながら、ある一節ではくすっとさせる。
あるいは、失敗談などの自虐ネタをメインに語りつつ、最後に人情の機微に触れ、ほろりとさせる。はたまた、誰もが「あるある」と共感するようなことを書きながら、その中でさらりとうんちくを傾ける。
ただし、ほろりとさせ、うんちくがあり、感動・共感し、笑えるというふうにごちゃまぜにすると、なんでも入れたカクテルのようで味がぼけます。

①哀:ほろり

哀しい、切ないというエッセイがこれ。
気をつけたいのは、つらいだけの話だと読むほうもつらいこと。つらい話ではあるけれど、今は前を向いているとか、自分を笑い飛ばしているとか、読後感が
よくなる工夫を。

おふくろの夜回りは(中略)、家の中で、しかもみんなが寝静まった夜ふけに家族の寝所を巡るのである。(中略)
おふくろの夜回りの目的はなんだったのかというと、いつの間にか夜具のなかにはいり込んでいる北国のしぶとい夜気を、寝ている者の眠りをさまたげることなく追い出そうとしていたのであった。
夜具の上の、ほた、ほた、というかすかな音は、はいり込んだ夜風の巣になっている空洞を、掌で軽くたたいては圧し潰している音であった。

出典:三浦哲郎『おふくろの夜回り』所収「おふくろの夜回り」

②感:感動、共感

同じ泣けるエッセイでも、「心が温かくなったこと」「あるあると思えること」を書いたエッセイです。
エッセイは多かれ少なかれ自慢話ですが、読む人が不愉快になるような自慢話にならないよう注意!

お母さんを待っているの?(中略)じゃあお母さんが戻るまで、いっしょに待とう。(中略)男の子の隣に立っておなじ方向に顔を向けると、あたりまえのように小さな手が伸びてきた。右手だった。
私はそれを、左手で握った。(中略)
しばらくして、気がついた。私は手を握ったのではなく、握ってもらったのだ(中略)。指に触れ、手を握るのは、言葉を超えた存在のやりとりである。現象としてはすぐに消えても、心の深いところ
に根を張る。

出典:『ベスト・エッセイ2016』所収、堀江敏幸「指を触れること。」

③知:うんちく

「へえ、そうなんだ」「それは知らなかった」と思わせるエッセイ。
注意点は、知識のひけらかし、誰かの焼き直しで終わらないこと。

指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。(中略)
これと同じシチュエーションで、中国の子どもは「嘘ついたら、犬になる」と唄うのだ。(中略)
数年前、台湾のテレビ番組で当時の総統である陳水扁を「犬」を借りて批判していた、私の大好きな作家李敖が視聴者の苦情に対し、こう答えていた。「陳水扁のことを、犬呼ばわりしていない。そんなことをしたら、犬に怒られてしまう。陳は犬ではなく走狗だ」と。
走狗、つまり犬以下である。日本の辞書では「悪人の手先」と解釈している。

出典:『人間はすごいな』所収、楊逸「犬と棒」

④惨:自虐

自虐ネタ、失敗談など、ぼやきや嘆きを書いたエッセイ。
作者が不幸であればあるほど笑え、読み手は気分よくなりますが、暗くなりすぎないことと、不運、不幸でありつつ共感できることが肝要。

小学校六年生のとき、卒業記念の文集をつくることになった。(中略)記入用紙をひとめみて、私はショックを受けた。(中略)「あだ名」という項目があったからだ。
私にはあだ名がなかった。(中略)「あだ名」の記入欄に「ホムラ」と書いてしまったのである。
文集が出来上がって、隣の席の「かーくん」に何気なく「これ、おまえの、名前じゃん」と云われたとき、私の世界は張り裂けそうだった。

出典:穂村弘『本当はちがうんだ日記』所収「あだ名」より

⑤笑:愉快

体験自体が面白いパターンと、語り口が面白おかしいパターンがあります。
単純に笑えるだけでも楽しくていいですが、そこから人間の本質などが引き出せると、笑えて深いエッセイに。

出版をしきりに勧めてくれる人がまわりにいなかったので、自分から出版を交渉した結果がこの本である。事前に何人かの人に読んでもらったところ、「面白くない」と言う者と、「つまらない」と言う者とに意見が分かれた。(中略)
箸がころがってもおかしい年頃の人のために、付録で箸をつけようと提案したが、だれ一人として耳をかたむけるものはいなかった。(中略)
警告しておくが、回し読みや、立ち読みをしても、幸せは訪れないであろう(少なくとも著者には)。

出典:土屋賢二『われ笑う、ゆえにわれあり』所収「はじめに」より

 

※本記事は「公募ガイド2016年11月号」の記事を再掲載したものです。