第1回 岸本葉子選 1000字エッセイ募集「おい・おい」 結果発表


「老い」は老いる人にも老いられる人にも無関心ではいられない問題です。
「老い」について、切実なもの、ユーモアのあるものなど、バラエティーに富んだエッセイを期待します。
「老い」をテーマに、毎回の課題に沿ったエッセイをお送りください。

1961年、神奈川県生まれ。東京大学卒。エッセイスト。俳句、介護、老いに関するエッセイ多数。淑徳大学客員教授。
募集中の課題
第2回 [ 買い物 ] 締切 8/20(必着)
※「老い」をテーマに、今回は「買い物」に関するエッセイを募集します。
< 第1回 >
課題 /
違う、そうじゃない
総評
第1回なので作品を待つ間ドキドキしました。作品をお寄せ下さった皆さまありがとうございます。
全体に、文章が整っているという感じを受けました。読みづらくなく(とてもだいじ)文章の水準……と言うとエラそうになってしまいますが、水準は揃っている感じでした。
この欄の大きな枠組みは「おい」です。高齢者に限らず、若いとされる年齢の人でも、去年より今年は老いています。老いというテーマで、エッセイで伝えられることは、実は限られています。エッセイは、読まなくても困らないものを、人に時間とエネルギーを使って読んでもらうものですから、その労苦に報いるには、最終的にはポジティブなものを、読者に渡さないといけません。ポジティブなものとは、ひとことで束ねれば「老いの受け入れ」です。受け入れに至るまでには、老いの悲哀や葛藤がもちろんありますが、嘆いたり抗ったりしても逃れられないのが老いなので、「受け入れ」がとり得るポジティブな態度となります。もうひと頑張りとか、老いたからこその発見などは「受け入れ」を経た先にあります。「束ねれば」と述べたゆえんです。
さて、ここから。文章の水準は揃っている。老いについて伝えられることは限られる。その中で頭一つ抜けるにはどうするか。課題の「違う、そうじゃない」が、いかに際立っているかです。
書かれたエピソードを読んでいき「そりゃ、作者は違う! と言いたくなるよな」とうなずける。あるいは(文章の運び上)作者より先に気づいて「そうじゃない!」と声をかけたくなる。そうした心の動きが読者に起こると、印象に残ります。
先に述べた、ポジティブなメッセージ、老いについて伝えられること、テーマといっていいならテーマに、あまりにストレートに進んでしまうと、学校の作文ならばいいけれど「読まなくても困らないものを、人に時間とエネルギーを使って読んでもらう」には弱いのです。ストレートに行きすぎないひねり作りに、課題をぜひ活用して下さい。
最優秀賞
そのうちのぼる
色ロウソク(東京都・35歳)
岸本講評
肉を大量には食べられなくなる一事に絞ったのがよかったです。階段を上ることに似ているという発見をタイトルに表しました。
優秀賞
はかなくなります。
矢島らら(大阪府・41歳)
岸本講評
エピソードの選択と配置がよかったです。「えっ」と思わせる入り方と、呼応するエピソードを持ってきた結び。工夫があります。
優秀賞
銀杏の香り
大隈大介(東京都・68歳)
編集部コメント
物持ちがいいのがあだとなりました。それにしても無邪気な子どもの残酷さよ。最後はちょっと強引でしたが、銀杏(いちょう)と銀杏(ぎんなん)の対比が見事でした。
佳作
違う、そうじゃない
下地カナ(福岡県・41歳)
編集部コメント
音声アシスト機能を使おうとするだけアクティブですね。それにしても親が小さく見えるときって切ないですね。最後の「大人になったね」の切り返しは読後感がよかったです。
若いねって言われても
山本美和(北海道・47歳)
編集部コメント
加齢とともにあちこちにガタがくるというのには共感します。ただ、冒頭は軽い自慢ですね。それゆえ、無理やり「老い」の部分を探し、テーマに合わせに来た感があります。今一つ実感に欠けました。
五十九歳の夏、汗が教えてくれたこと
とも(埼玉県・61歳)
編集部コメント
マラソンということは42.195km? ちょっと無謀かも。「年齢のせいで諦める自分になりたくなかった」は確かにそうですね。「年齢なんてただの数字」いい言葉ですね。
もうひとりの私を呼んでいる
啓子(千葉県・56歳)
編集部コメント
「あのさ、啓子は私だよ」は切ないような、笑ってしまうような。「老い」はまさに悲喜こもごもで、老いのエッセイの見本のような作品でした。惜しいなあ、編集部賞!
母ののっぺ汁
木暮ぶん(新潟県・63歳)
編集部コメント
壊れていくお母さまに突然気づく。しかも、楽しみにしていたのっぺ汁の味が違うことで。これは切ない。しかし、抗えない。せめて施設でものっぺ汁が出るといいですね。
<選外佳作>
耳鳴り
後藤誠功(宮崎県・67歳)
編集部コメント
「歯医者」と「配車」は同音なので誰でも間違えそう。「老い」あるあるをたくさん挙げてくれましたが、話題が多すぎて散らかってしまいました。タイトルの「耳鳴り」とも合っていませんね。
違う意味の言葉
こけだま(新潟県・46歳)
編集部コメント
これはいつの話ですかね。46歳の祖母では100歳超か。若い頃の話ならそれを書かないと。否定と肯定の対比はよかったですが、これが響いてこないのは理が勝っているからかな。
嫌い
とみこ(埼玉県・66歳)
編集部コメント
「老い」あるあるをたくさん並べました。ユーモアがあってよかったですが、若干、作り話っぽいかも。素材を絞り、その分、過程と結果をじっくり書いてほしかったです。
死ぬ死ぬ詐欺にご用心!
岩崎愛(京都府・31歳)
編集部コメント
「死ぬ死ぬ詐欺」とは面白いですね。詐欺というより明るい脅迫ですね。遊びに連れていけとやんわり強要されるが、それも楽しいというニュアンスを冒頭で明確にわからせる説明が欲しかったですね。
浮遊するもの
森海眠(神奈川県・62歳)
編集部コメント
キッチンの換気扇や炊飯器の音とテレビの大音量の中での夫婦の会話はほとんどが聞き取れないという話ですね。これを足掛かりに話を展開させるとよりよかったかもしれません。
紫陽花に八つ当たり
梅沢由美(東京都・73歳)
編集部コメント
感情をぶつける相手がなく、紫陽花に八つ当たりしたというのがなんとも面白い。単につまずいたのではなく、段差でもなんでもないところでつまずいたのなら余計ショックでしたね。
「『老い』がわからない
比志島國和(東京都・26歳)
編集部コメント
「老いがわからない」という主題はいいと思いますが、これがフリであったら面白かったかも。26歳は若いけれど、もう若くないと思うことは探せばきっとあるんじゃないかな。
愛と老い
椎名葵(愛知県・34歳)
編集部コメント
自分が勧める作品を親がよしとしないのは、老いではなくて愛だったという気づきはいいですね。できればこれ一点で突破してほしかったかな。今は主題が分岐している気がします。
心の老い
池田剛(佐賀県・70歳)
編集部コメント
身体の老いより心の老いのほうが厄介だというのは卓見ですね。確かに、時代が変わっても考え方を変えないのは老害に通じます。これはエピソードを通じて書きたかったですね。
違う、そうじゃない
長谷川餅夫(兵庫県・74歳)
編集部コメント
素材は面白いです。しかし、書きたかったのは妻か愛犬か、はたまた自分か。メインディッシュがどれかわからない感じです。どれかに絞って主題を深掘りしたかったですね。
読まれた皆さんの参考になるように、特に選外佳作は厳しめにコメントしました。
よい文章を書くコツは「あなたにしか書けないことを、誰が読んでもわかるように書く」ことですね。これが逆になると、「誰にでも書けることを、自分しかわからないように書く」になってしまいます。
「あなたにしか書けないこと」とは、具体的なエピソードですね。エピソードを通じ、それで何が言いたいかを明らかにしましょう。あともうちょっとです!
<応募総数 243 編>
応募要項
課 題
第2回 [ 買い物 ]
応募規定
1000字以内。Wordの方は文字数カウント1000字以内。
応募点数制限なし。
応募条件
作品は未発表オリジナル作品に限る。
AIの使用は不可。
入選作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
賞
【 最 優 秀 賞 】 1 編 = Amazon ギ フ ト 券 5000 円 分
【 優 秀 賞 】 1 編 = Amazon ギ フ ト 券 2000 円 分
【佳作】 6 編=記念品
【選外佳作】10 編=WEB 掲載
応募先
【WEB 応募】
【郵送】
A4 用紙に縦書き。40 字 ×30 行、または 20 字 ×20 行。
タイトル、〒住所、氏名(ペンネーム使用の場合は併記)、年齢、電話番号、 メールアドレスを明記。作品の返却は不可。
◾応募先 〒105-8475(住所不要)公募ガイド編集部「第 2 回おい・おい」係
締切
第2回 2025年8月20日(必着)
発表
季刊公募ガイド秋号(10/9 発売)誌上、Koubo 上
入選作品は趣旨を変えない範囲で加筆修正することがあります。
応募者には弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。