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エッセイを書く勘どころ④:エッセイの文章の素材

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エッセイは、説明文と描写文と会話文の組み合わせで成り立っています。それぞれの特徴をつかんでおきましょう。

説明文

説明とは、いつ、どこで、誰が、どうした、このセリフは誰が言ったのか、どうしてそうなったのかという過去のいきさつ、時間の経過など、話のアウトラインを示したものです。
以下、『ベスト・エッセイ2016』所収、眉村卓「初めての東京」から引用します。

1:大阪生まれで大阪育ちの私が、初めて東京に行ったのは、昭和三十年である。
2:その年の当番校が東大で、試合も東大構内で行われることになっていたのである。
3:しかし、その後で、マネージャーに言われたのだ。
 「お前、東京駅からここへ来た道順、わかっとるな?」
4:自分はたしかに今東京に来ているのだな、と、実感したのである。


1は、「いつ、どこで」という説明。
2は、東京行きのいきさつの説明。
3は、セリフの主は誰かという説明。
4は、自分の内面の説明です。
説明文は、論理的で客観的です。だから、説明文の割合が多いと、説明的に説明した印象が強くなります。まとめるときはいいですが、場面は立ちません。お堅いエッセイに向きます。

描写文

描写文は、説明文を掘り下げたり追加したりして、いわく説明しがたい感じを表したもの。説明文と混然一体となり、紙の上で出来事をありありと再現します。
『ベスト・エッセイ2016』所収、佐藤雅彦「たしかに……」から引用します。引用箇所は、著者が、電車内で夢中で本を読んでいる小学校二年生くらいの子と隣り合った場面です。

ある瞬間、あるページのある行で目が止まったように思えた。(中略)
すると突然、今度は、ページを今まで読んできた方に向かって、勢いよく逆にめくりだしたのである。一体何が起こったのだ。逆に戻りながら、時々、手を止め拾い読みしたかと思うと、また勢いよくめくりだす。何かを探している、何かを探しているのだ、私にはそう思えた。(中略)そして、それまで何も発していなかったその小学生が一言つぶやいた。
「たしかに……」
私は、吹き出しそうになった。
何が、〝たしかに〞なんだよ!?

『ベスト・エッセイ2016』所収、佐藤雅彦「たしかに……」

描写文は、感覚的で映像的です。だから、描写文の多いエッセイは小説的で、出来事を再現したいときや、感覚的に理解してもらいたい場面に向きます。

会話文

セリフには直接話法と間接話法があります。以下、三浦哲郎『おふくろの夜回り』から引用します。

あ、シドケだ、と駆け寄って、引っこ抜こうとすると、お待ちなさい、と、そばにいた私の山遊びの師匠がいった。
「早まってはなんね。シドケはそいつの隣でやんす。」

三浦哲郎「毒について」

直接話法には、カッコを使う場合と使わない場合があります。

女人は私の顔に血の気がなくなっているのに驚いて、構わぬから坐ったまま吐くようにといった。

三浦哲郎「車椅子のマフィア」

間接話法は「構わないですから坐ったまま吐いてください」のように言ったのを間接的に書いたものです。
以上、説明文、描写文、会話文を説明しましたが、エッセイはこれらをうまく配分して書きます。
その割合はさまざまですが、硬派なエッセイは説明が主で、描写や会話は従。逆に親しみやすいエッセイは描写が主で、会話も多め、説明は補足的です。

 

※本記事は「公募ガイド2016年11月号」の記事を再掲載したものです。