第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 神の役割 白浜釘之
第7回結果発表
課 題
神さま
※応募数293編
神の役割
白浜釘之
白浜釘之
神になって最初に配属されたのが、このソーシャルゲーム担当の神という役職だった。
生前このゲームをよくプレイしていたのか、あるいはまったくゲームに触れていなかったからなのかはよくわからないが、とにかくこのゲームの『ガチャ』……くじ引きみたいなものだが……で引き当てることができるキャラクターを割り振るのが私の仕事だった。
「新人さん?」
隣のデスクの男が声を掛けてくる。
「ええ、たぶん……よくわからないんですが、どうやら神になってから最初の仕事がこのゲームの神らしいんです」
素直にそう答えると、
「あ、そうなんだ。ま、頑張んなよ。ゲームの神は数ある神の役職の中でも最近できたものだから、いわば花形なんだぜ」
彼はちょっと得意そうにそう言った。
「そうなんですか。ところで神の役職って何種類あるんですか」
「うーん。ヤオヨロズの神なんていうけど、最近じゃいろんな種類の神が増えてきてるから、誰も神の役職の数なんて把握してないよ。まあ億の桁はくだらないんじゃないかな。もっともなくなる役職も多いけどね」
確かに見渡すと遥か彼方までデスクが連なって遠くの方は霞んで見えた。
「なくなる役職もあるんですか」
彼の仕事を見よう見まねでやっているうちにコツがつかめてきた。“当たり”を適度に入れてやればいいだけの仕事のようだ。
「まあね。かくいう俺もちょっと前まであるパチンコ会社担当の神だったんだけど、その会社がつぶれちゃってね。それでこっちの部署に回されたってわけ」
「つぶれちゃったって……それって担当の神のあなたの責任じゃないですか」
「まあ、そう言われると弱っちゃうけどさ。神様ったって万能じゃないしね。特にこういうギャンブルの神ってのはさ、全員に幸運をもたらすってわけにいかないじゃない。まあ俺はそれでも生前、おぼろげながらパチンコで身を持ち崩した記憶があってさ、それでどうしてもお客の方に肩入れしすぎて、結局店の方をつぶしてしまったわけだけどさ」
そんな話をしているうちに休憩時間となった。休憩する必要も、そもそも時間という概念さえない神の社会にそんなものがあることも不思議だが、私は休憩室に行ってみることにした。
様々な神が思い思いの格好でくつろぎ、雑談を交わしたり、ゲームに興じたりしている。
「やっぱりさ、幸運を授けたくなるタイプの人間っているよね」
「わかる。明るくて素直で裏表のないタイプとかさ、ヘンに我々に媚びないとかな」
……今度生まれ変わったら参考にしよう。
そんな中、一風変わった雰囲気の一柱の神を見つけ、気になったので声を掛けてみる。
「ああ、僕は一神教の神だからね」
彼はこともなげにそう答えた。
「じゃあ一人ですべての事柄について決定している全知全能の神ってことですか?」
私が驚いて彼を見つめると、
「まさか! 何億人もの信者の運命を僕一人が決められるわけないじゃない。まあ僕は一神教という組織の中の一人ってとこかな」
それでは一神教とは言えないのではないかと思うが、信者が納得しているのならそれでいいのだろう。
「君たちの多神教では全ての事柄に個別に一柱の神が対応するって感じじゃない? こっちはある程度は人間たちの自由裁量に任せて、神っぽいことだけをみんなそれぞれ行うって感じかな。例えば奇跡を起こす、とかね」
「奇跡?」
「そう。たとえば十年間昏睡状態だった入院患者が突然目覚める、なんてニュースがたまにあるじゃない? あんな感じ」
「ずいぶんいい加減な仕事ですね」
「ゲームのくじを司ってるだけの君には言われたくないね」
私の言葉に傷ついたのか彼はちょっとむっとしてしまったようだ。
「言いすぎました。でもそれだけの力があるんだったらたとえば戦争なんかすぐに止めることだってできるのに、と思って」
「ああ、それは無理。我々神ってのは人間が作り上げた、いわば架空の存在なんだよ。人間が作り上げたものが創造主の思惑を超えて活動できるわけないじゃないか」
そう言って彼は読みさしのペーパーバックをポケットから取り出した。
「推理小説の登場人物にすぎない探偵が、それを書いた小説家より高度なトリックを解決できるはずがないだろう?」
仕事に戻った私はすっかり混乱してしまい、自分自身の存在そのものを疑うようになってしまった。そして消滅した。
神を信じない者に神は存在しないのだから。
(了)