公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」発表 選考会の模様が読める! 次作の指針になる!

タグ
小説・シナリオ
小説
小説でもどうぞ
結果発表

選考会では両先生が交互に感想を言い合い、採点しています。作品の内容にも触れていますので、ネタ割れを避けたい方は下記のリンクで事前に作品をお読みください。

1981年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、文藝賞などの選考委員を歴任。

1955年、東京生まれ。東京学芸大卒。90年、小説すばる新人賞、97年『女たちのジハード』で直木賞受賞。ほか著書多数。

小説の肝は、
話を考えること、
作ることにある
観念ではなく、
エピソードで
――最初の作品は「神の役割」(白浜釘之)です。

高橋神さまになり、ゲームをする人に幸運を授ける担当になるという話です。僕もギャンブルをするので、確かに神さまはいる(笑)と共感します。面白い話で、神が信じられなくて消滅してしまうというオチもなかなかいい。
 唯一気になったのが、「人間が作り上げたものが創造主の思惑を超えて活躍できるわけがないじゃないか」という一文。神の上に創造主がいるということですよね。

篠田人が創造主ということですよね。普通は創造主を神と呼びますが、それが逆転している。

高橋だから神といってもレベルの低い存在なんだな。そこは気になりましたが、面白く読みました。評価は△プラスです。

篠田創造主と人間の関係を逆転させ、最終的に自分の存在を疑ってしまって消滅するというところがいい。それと視覚イメージがいい。公務員みたいに神さまが机を並べて仕事している。このイメージが楽しいですね。
 ただ、小説は観念ではなく、エピソードで結論づけないといけない。観念で説明して、だから消滅するではなく、エピソードで締めてくれたら、それこそ初期の小松左京の作品のようになったんだろうなと。評価は△です。

――2番目は、「吾輩は神である」(ななし)です。

篠田人間も傲慢になって悪いことばかりしているから、いったんこの世界を終わりにしようと神さまが降臨してくる。そこで女の子と出会い、世の中捨てたもんじゃないと世界を壊すのをやめようと思い直したところで終わる。
 ハートウォーミングストーリーですが、もうひとひねり欲しい。最後に女の子が「じゃあ、おじさん、バイバイ」と言いますが、このあたりで神さまの考え方を変えさせるぐらいの何かが欲しい。
 それと最後に、借金返済で苦しみ、無理心中をしようとしている女の子の両親に二億円の宝くじを当てさせようとありますが、何かを壊すことで借金がチャラになるなど、これももうひとひねり欲しい。そこが小説の面白さだよということで、評価は△です。

高橋全く同感です。ひねりはないですね。神さまがいい人すぎて、この程度の神さまに世界を終わりにされたくない(笑)。それと、世の中を終わりにするっていったい何があったのか。それなのに女の子がかわいいからやめるって。この話はいい話で文句はありませんが、これをスタートにして、どこかをひねって終わりにするといいですね。僕も△です。

――3作目は「声神様」(齊藤想)という作品です。

高橋悪魔が石仏の中に入り込み、神さまのふりをする。悪意を持ってやっているのに、全部善行になってしまう。一揆を起こさせようと「クワを持て」と言ったのに、村人は開墾してしまう。逆転があってなかなか面白い。
 ただ、〈このおはぎを食べたい。悪魔は心からそう思った。〉という最後の一文。悪魔が改心したかのようになっていますが、僕はそうは受け取れなくて、やや唐突感があります。これも△です。

篠田悪魔は村人を武装蜂起させようとしますが、武装蜂起自体しないのは残念であり、原因になった殿様はどうなっているのよと。せめて武装蜂起のための決起集会ぐらいまではいってほしい。災害で悪い殿様が死に、住んでいた土地も全部流されるが、村人は別の土地を開墾していたので助かりましたとか、それぐらいは考えてほしい。小説の肝は話を考えることにあります。評価は△です。

最初に読者に提示
しなければならない
ものが抜けている
愛人なら愛人と
書いたほうがいい
――4番目は「神さま」(貴田雄介)です。

篠田小3と小1の兄弟が、クリスマスプレゼントが来ないといつまでも泣きやまないので、ついにお母さんが怒り、今夜、食事はないかもしれないけれどと言って何か買ってくれる。それでお母さんがサンタさんだとわかってお兄ちゃんはショックを受けるという話。
 このお母さんはシングルマザーなんでしょうか。でも、給料は入れてもらっているから愛人なのか。そのことは書いておいてほしい。それとサンタの正体を知るには、小3は大きくなりすぎている。
 何がテーマなのかと考えると、どうもはっきりしませんが、書き方によっては面白くなりそうだということで、△プラスです。

高橋よくわからないのは、お父さんの存在。サンタとしては来ないので、一緒には住んでいなさそうだと。となると愛人か。それならそう書いたほうが面白いよね。

篠田それか、もう一つ別に家庭を作って出ていってしまったか。

高橋この作者が書きたかったのは最後の〈神は死んだ。〉だけだと思います。これを書くために延々と話を作った。僕はこういうの、けっこう好きなんです。個人的に好みなので、△プラスです。

――5作目は「スサノオ対ヤマタノオロチ」(酒井聡)です。

高橋これは好き嫌いが分かれますね。スサノオが肛門、ヤマタノオロチが内部にあるもので、それが漏れちゃうという話。スサノオとヤマタノオロチだから対立はするが、それを神と呼べるかと言うと、根拠が薄い。エロいのもグロいのも嫌いじゃないけど、薄皮一枚で下品かなあ。面白いかどうかも微妙。この設定で別のものが書けたんじゃないかということと、最後まで神ということが納得できなかった。△?ですが、評価としては△マイナスにします。

篠田これは×ですね。最後、男はやっとの思いでトイレにたどりつきますが、そこには縛られた少年が座っている。これは導入部なんです。漏らしそうな男と縛られた少年の間に何が起きるの?と。枚数制限がないなら、このあと、どうなったかを考えてほしい。ここで終わらせるなら、私なら相手は絶対に美女にします。ようやく排出できるというところで、半ば裸の美女が縛られていると。
 それと伏線が弱い。たとえば、地下鉄の電車の中で漏れそうなっているとき、誘拐事件発生。電車は止まり、主人公は脂汗。その後、電車は動き出しますが、トイレに駆け込むと誘拐された人がいるとか。

高橋いやあ、参考になるなあ。

――6番目は「娘と父」(瀬島純樹)です。

篠田創業者の父親がいて、娘に実権を渡すと、娘はいろいろな改革をします。会社を守っていたやしろを撤去する。海外進出し、家訓を破って銀行から融資を受ける。その後、娘がお見舞いにやってきて、父親に新薬を試すが、配合を間違えて父親は死んでしまいます。
 父親が病気だということがあとでわかるけれど、先に書いておかないと意味がわからないよね。なんの会社かも書いていませんが、どうも製薬会社らしい。最初に読者に提示しなければならないものが抜けている。最後は、父親は配合を司っている神さまだったんだよとなっているが、これがわかりにくい。もう少しわからせてくれないと納得いく結果にはなりません。評価は△です。

高橋最後に〈ながらく神様の見習いをしておりましたが、ようやく卒業できます。そのうち、そうですね、うちの礼拝堂で、あの子にこっそり告げてやります。神業の配合を。〉って、これどういう意味ですかね。「神様の見習い」ってここまでのどこにも書いてない。「礼拝堂」はどこにあるのか。薬の配合も社長はやらない。意図がわかるようには書かれていないので、評価は?。得点不能です。

びっくりさせて
なんぼ。大胆に
虚構にしてほしい
神さまに関する
想像力が乏しい
――7番目は「復活祭」(樺島ざくろ)です。

高橋団地の跡地にすでに死滅した恐竜たちがいて、神さまが復活させたという話。神さまが作る世界は映像化されていて、神さまの仕事としては大したことありませんね。最後に〈この世の続きが楽しみになった。〉とあるけど、この続きが見たいの?と思ってしまいます。△マイナスです。

篠田暇さえあれば「ナショナルジオグラフィック」や「アニマルプラネット」を見ている私としては好きですね。絶滅生物と創造主を組み合わせ、キリスト教的な復活祭ではなく、リアルに復活させてお祭りにしている。一種の幻想小説として読むと楽しい。
 ただ、途中で酔っぱらってありえないものを見ていますが、これはしらふのほうが良い。テレビにリョコウバトがでてくる場面はレポーターに説明させるのではなく、画面全体にリョコウバトが飛んでいる描写をしたい。その際、普通の人はリョコウバトとわからないので、生物オタクを主人公にする。気になるところはありますが、発想がいいので、△プラスです。

――最後は「テレビの神さま」(伊丹秦ノ助)です。

篠田男がテレビを観ていると画面に少年が現れ、お前の願いを叶えてやろうと言う。ジェイコブズの『猿の手』のパターンですね。こうくるとかなり期待してしまうのですが、若者のテレビ離れを食い止めるようなドラマを書きたいのでアイデアをくれと言うのはものたりない。神さまに頼むのなら、大ヒットを飛ばす脚本家にしてくれぐらい言ってもいい。
 また、脚本家であることはあとでわかりますが、サプライズにならないものは最初に出すべき。結末もアイデアを書き留めるところで終わるのではなく、大ヒットするところまで書いたほうが面白い。このような作品はびっくりさせてなんぼなので、大胆に虚構にしてほしいです。評価は△です。

高橋神さまって道具としてなんでも使えると思うんですよね。神さまに関する想像力が乏しいかな。神さまに能力がないのが問題なんです。最後に「すげえ、やっぱり神さまだ」となると面白いよね。「ネタバレすんなよ!」といういじましい終わり方もいいけど、最後はもっとスカッとさせてほしいです。評価は△です。

――総得点では「神さま」が△プラスが二つでトップですね。

高橋篠田さんの一推し、二推しはどれですか。

篠田一推しが「復活祭」。二推しは「神さま」ですかね。

高橋では、ゲスト選考委員の意見を優先して、「復活祭」を最優秀賞にしたいと思います。「神さま」は惜しかったですね。