第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 神さま 貴田雄介
第7回結果発表
課 題
神さま
※応募数293編
神さま
貴田雄介
貴田雄介
僕と弟はその日
でも、それとこれとは話が別だ。同じ団地に住む鈴本くんと小橋くんだって誰かと喧嘩をすることもあったはずだ。だけど、二人にはサンタさんは来た。だから、喧嘩の一つや二つ、十や二十ぐらいはサンタさんは寛容に許してくれるだろう。ホホホという声を出して、喧嘩の仲裁さえしてくれるかもしれない。アンパンマンが喧嘩はいけないよと言って顔を千切って差し出してくれるように。なんと言ったってサンタさんは僕たちの神さまなんだから。
小学三年生と一年生の僕たち兄弟にとって神さまは二人いる。一人はサンタさんでもう一人はお父さんだ。お父さんは毎年お正月にお年玉をくれる。お父さんはおかあさんに言わせれば仕事が忙しくて沢山働いているからその分お給料も沢山もらっているらしくて毎月お父さんが給料の入った封筒をもらって帰って、おかあさんがいつもありがとうございますと言い、頭を下げながらその封筒を受け取るその光景を子どもながら一つの儀式のようだと思って見ていた。だから僕たちもお正月にお父さんからお年玉をもらうときはおかあさんがしていたような格好をして頭を下げてお年玉のポチ袋をうやうやしく受け取った。
サンタさんとは直接会ったことがなかったからいつもおかあさんを通して、サンタさんに欲しいものを伝えることになっていた。その年のクリスマスにはゴジラの人形が欲しいと伝えていた。ゴジラの人形は去年ゴジラとメカゴジラをもらっていたので今年で二回目だった。そして今年はスペースゴジラが欲しいと言っていて、スペースゴジラはゴジラとメカゴジラに比べて大きいから僕と弟と二人で一つの人形になるってサンタさん言ってたよとおかあさんから伝えられた。僕たちは不満だったけれどそれでも良いと言った。
そして、僕たちはイブの日に毎年のように、いつもより早く布団に入り、寝る体勢を取った。明日の朝枕元にプレゼントが届くことを心待ちにしてワクワクして眠りについた。プレゼントが届かないなんてことが起こるなんて万に一つも考えなかった。
クリスマスの朝僕たちはいつもより早く目を覚まし、枕元にプレゼントが置いてあるか確かめた。なかった。足元の方にあるんじゃないかと思いそちら側を見たが、そこにもなかった。もしかしたら、別の部屋に間違って届いたんじゃないかと思ってそっちも探してみたけれどどこにもなかった。そのときに僕たちは気づいた。今年はサンタクロースは来なかった。僕たちにはプレゼントはないのだ。僕たち兄弟はたった一つのプレゼントを得ることすらも値しないと判断されたのだと。一年間の自らの行いを振り返った。どこが悪かったのか。何が悪かったのか。
クリスマスの朝は生憎の雨だった。雨は昨日から降り続いていた。おかあさんは雨だったからサンタクロースは来られなかったんじゃないかと言った。でも僕は知っている。今日同じ団地の鈴本くんと小橋くんと会ったけれど二人ともプレゼントをもらっていた。同じ団地に住んでいるのだから雨という条件は同じのはずだった。僕と弟はその話をおかあさんにした。そしてまた泣いた。とうとう観念したのかおかあさんは怒気を含んだ声で僕たちに宣告した。今日の夕食はもうどうなるかわからないよ。それでも良ければ今からおかあさんが買ってくるから。僕たちは泣きながらそれで良いと言った。そして、僕たちはおかあさんのママチャリの前後に座らされ雨の中を一緒に走った。家から少し遠いスーパーの西友のおもちゃ売り場に僕たちが欲しがったスペースゴジラの人形があった。それを一つ買ってもらい僕たちは家に帰った。
僕たちは目当ての品を買ってもらったにも関わらずまた泣いた。それはおかあさんの怒りを感じ、悲しくなったからだった。そして、もう一つにはサンタクロースの秘密に気づいてしまったからだった。あの日まで僕たちはサンタクロースは本当にいると信じていた。でもあの日以来サンタクロースは実はおかあさんだったのだと知ってしまった。そして、僕たちの夢の世界に生きていたサンタクロースはあの日を境に死んでしまった。そしてそのサンタクロースを殺したのはほかでもないうちのおかあさんだった。神は死んだ。
(了)