第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 神頼み はるな
第7回結果発表
課 題
神さま
※応募数293編
選外佳作
神頼み はるな
神頼み はるな
泥沼の熟年離婚の末、男が行きついたのは四畳半のボロアパートだった。もうすぐ定年を迎える身だというのに、仕事だけではなく、まさか家族まで失うことになるとは。これからどうしていけばいいのか。男は途方にくれていた。
会社にはなんとか延長雇用で残れることになったものの、もともと有能とは言えない男に居場所などあるはずもない。毎日自分の息子と同じくらいの年齢の上司に怒鳴られながら働いた。
アパートの隣に神社があるのに気が付いたのは、引っ越してから一年以上経った頃だった。伸び放題の樹木に飲み込まれるように、小さな社があった。いたずらなのか至るところにチラシのような紙が貼り付けられている。ぼろぼろになって落ちた紙を拾い上げてみると、なにやら文字が書かれているようだったが、男には読めなかった。社というより廃屋のようなその姿に妙に親近感を覚えて、毎日会社に行く前に手を合わせるのが習慣になった。どうか幸せがおとずれますように。毎日続けているうちに、男の周りで小さな変化が起こりはじめた。
上司が車に轢かれて入院したり、別れた元嫁が詐欺にあって泣きながら電話してきたり。男にとっては嬉しい出来事が続いた。一人娘から結婚招待状が届いて、一緒にバージンロードを歩いてほしいと言われたときには涙が止まらなかった。
そんなある晩、男の枕もとに神様がひょっこり現れた。初めて見る神様の姿は、想像とは全く違っていた。神様は車いすに座った老人だった。鼻には酸素を吸入するためのチューブまでつけている。
「毎日毎日、馬鹿みたいに祈りおってぇ」
「へっ?」
「貴様が祈るせいでわしはこんなに老いてしまったんじゃ」
「そ、そんな馬鹿な」
神様は顔を真っ赤にしながら、骨に薄皮が張り付いたような腕をぶるぶるふるわせて、拳を振り上げた。
「とぼけるんじゃあないっ! わしは自分を犠牲にして、貴様のくだらない願いを毎日叶えてやっていたというのに。賽銭も入れなければ、供え物の一つも持ってこない。屑のような貴様を幸せにするために、わしは一千歳も老いてしまったんじゃぞぉぉぉ」
神様の声はまるで雷鳴のように部屋中に轟いた。男は慌てて布団から飛び起きると、畳に頭をめり込ませながら土下座した。
「も、申し訳ありませんでした! これからは必ずお賽銭を入れさせていただきますので、どうかお許し下さい」
神様は車いすから立ち上がると、土下座している男の頭を足でなんども蹴り上げた。蹴られるたびに爽やかな風が吹き、男の顔に血が滲んだ。
「いまさら、小銭を入れたところで焼け石に水じゃよう」
「で、では、どうすれば……」
神様は溜息をつき、車いすに深く腰掛けた。腕を組みしばらく考えていたが、
「一千万。一千万用意しろ。そうすればわしは元の若くてイケメンの姿に戻ることができる」
「そんなお金、持っていません」
「そんなこと知らん。貴様が祈ったせいなんじゃから、責任を取るのが筋じゃろう?」
男はただうなだれてるしかなかった。
「お前のようにただ歳くった人間をみているとつくづく腹が立ってくるわ」
「申し訳ありません」
「人に聞いてばかりじゃなくて少しは自分の頭で考えたらどうなんじゃ」
「おっしゃる通りです」
「期限は一週間。一週間で準備出来なけりゃ、貴様の魂でも売ろうかの。ゴミ同然の魂でも何かしら使い道があるかもしれん」
男はふらつきながら立ち上がり、財布から五千円だした。全財産だったが、やむを得ない。
「あの……このお金を差し上げるので、私にどうすればいいのか教えて下さい」
神様は黙ってお金を受け取ると、口を大きく開けて笑った。
「仕事を紹介してやろう。なに、お前のような馬鹿にもできる簡単な仕事だ。電話をかけるだけで日当二万円がもらえるんじゃ。いい話じゃろう?」
途端に神様の干からびた体からぼこぼこと筋肉がもりあがり、頭からにょきりと角が生えた。男は体が硬直して動けない。自分は一体何に祈っていたのだろう。一生懸命考えようとしたものの、鈍い頭はきしんだ音をたてるばかりで、男はぐぅと
(了)