もう一度やり直す日本語綴り方講座②:3時間目・4時間目


3時間目:ないようである、テンの打ち方
テンは係り受け距離による
テンの打ち方は自由とは言え、作文の授業で「ぼくはクラスで一番になりたいです」と書いて、「ぼくは、クラスで一番になりたいです」に直されたりした人
も多いのではないでしょうか。
しかし、論理的なテンの打ち方を教えるのは難しいので、直された文を見て、「は」のあとには機械的にテンを打つものと思い込んでしまっている人も多いようです。
では、どうしたら?
いい目安があります。
前章で、「(係る言葉が複数ある場合は)長い順に並べる」と書きましたが、なんらかの理由があって長い順にできないとき、係る言葉の間にテンを打つ、というものです。
のちの日本語ブームを生むきっかけをこの論文は作った。
「のちの日本語ブームを生むきっかけを」も「この論文は」も「作った」に係っており、長い順に並んでいます。
しかし、普通は「この論文は」を先に書くでしょう。すると、長い順でなくなってしまいます。このようなときは、「係り受け距離が遠いので、ここでいったん文を切りますね」という意味でテンを入れるといいです。
この論文は、のちの日本語ブームを生むきっかけを作った。
「長い順でない」「係る言葉がともに長い」などの理由で係り受け距離が遠くなってしまう。そのようなときにテンを打つ、ということです。
テンの有無が問題となる場合
少ないながら、「このテンはいかがなものでしょう?」という例もあります。
生徒の間からサークルを作り、定期的に学んでいこうとの声が出た。
このテンは重文の境目にあるような印象があります。つまり、「生徒の間からサークルを作り」と「定期的に学んでいこうとの声が出た」でひとまとまりのように見えます。
しかし、係り受けは、「生徒の間から→出た」です。係り受け距離が遠いので、テンが必要でしょう。
生徒の間から、サークルを作り、定期的に学んでいこうとの声が出た。
以下のテンはどうでしょうか。
君が、今日まで書き続けてきたことには大きな意味がある。
この「が」は、「君が→笑った」のような主格の「が」ではなく、名詞と名詞をくっつける「が」です。
つまり、「君」「今日まで書き続けてきたこと」という名詞を「が」でくっつけたもの。「君が今日まで書き続けてきたこと」でひとまとまりです。
まとまりのあるものをテンで分断してしまうと、「君が」が浮いて、何か遠くにある述語(例文なら「意味がある」)に係るかのように思われてしまいます。
ほとんどのテンは、あってもなくても自由なテンですが、なかにはテンの有無で意味が取りにくくなったり、意味自体、分からなくなったりする場合もあります。適当に打たず、適切な位置に打ちましょう。
4時間目:送り仮名と漢字表記
活用語尾から送るのが原則
もともと日本にあった言葉を和語と言います。たとえば、「やま」「かく」などです。そこに「山」「書」など漢字が中国から入ってきて、読みは「サン」「ショ」だと言う。それなら「山」と書いて「やま」、 「書」と書いて「かく」と読ませよう、というのが漢字の訓読みです。名詞の場合は、 「山」で「やま」と読む、これで済みます。しかし、「書く」の場合はそうはいきません。
「書」一字で「かく」と読むとしましょう。すると「かけ」はどう書き表せばいい? 「書け」と書いたら「かくけ」と読まれてしまいそうです。
そこで動詞の活用を調べて、共通する読みを漢字に当てることになりました。
これが送り仮名の原則です。
送り仮名に変わる場合
名詞は活用しません。だから、送り仮名はつきません。「話」「隣」一語で「はなし」「となり」と読みます。
しかし、動詞の場合は送り仮名がつき、「話し手」「隣り合う」のようになります。
複合語の場合は、送り仮名がつく場合とつかない場合があります。
たとえば、「もうしこむ」なら複合語になる前の送り仮名に準じ、「申し込む」となりますが、下に特定の言葉がつく場合は、「申込書」のようになります。片方だけ送って「申込む」とか「申し込」とはしません。
求人の紙面では、よく「問い合わせ」が「問合せ」になっていたりします。それでも誤りとは言えませんが、「この人、送り仮名も知らないの?」と思われても損ですから、迷ったら確認しましょう。
仮名書きにするもの
次に、漢字で書くか、ひらがなで書くかですが、では、仮名書きが望ましいものを挙げましょう。
(ア)難読漢字
常用漢字にないもの、特に難読漢字は仮名書きにします。ただ、「ち密」のような交ぜ書きはせず、別の言い方にするか、読み手にとって難読と判断されるなら、ふりがなを付けましょう。
(イ)接続詞・副詞
「また」「しかし」「ただし」「および」など接続詞、「まず」「そのうち」「ようやく」「しばらく」「おおむね」など副詞も大半が仮名書きです。
(ウ)形式名詞
「○○したとき」「したところ」「したため」「したこと」など。
(エ)漢字の意味が薄いもの
「作家という夢」、「そんなふうに」「そのくらいは」「大人になる」「書くことがない」「そのうちに」など。
(オ)補助動詞
「見ていただく」など「て」のあとの動詞のようなものは、動詞ではなく補助動詞。つまり、「見て、頂く」ではなく、「見ていただく」で一語ですから、 「見て頂く」とはしません。
(カ)接尾辞
「僕たち」「彼ら」など。
もちろん、これらは目安であって、使用の制限ではありませんが、
「原稿を見て頂き、この様な事に成って嬉しい。今後共、作家と言う頂点を極める為に努力したい。そんな風に思って居る。漸く先が見えて来たと思う今日この頃で有る」
このようなほとんど意味のない漢字表記はしないほうがいいでしょう。
※本記事は「公募ガイド2011年8月号」の記事を再掲載したものです。