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第27回「小説でもどうぞ」選外佳作 勇者たち 齊藤想

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第27回結果発表
課 題

※応募数314編
選外佳作 
勇者たち 齊藤想

「さあ、今週も和気有病院内恒例の病気コンテストが始まりました。出場条件は余命一週間以内であることです。さあ、出場者は自己紹介をお願いします!」
 ステージの上に、車いすに座った老人が押し出されてきた。もちろん点滴チューブ、酸素ボンベなどフル装備だ。
 老人は酸素吸入器を外して、マイクを手に取った。
「えーっと、全身がガンに侵されており、モルヒネを中毒になるまで打ちまくって、なんとかこのステージに立ちました。よろしくお願いいたします」
 会場から容赦ないヤジが飛ぶ。
「全身ガンではどこが悪いのか分からん。おれらを病気の素人扱いするな」
「モルヒネ中毒のわりには、まともじゃないか。この程度で中毒を名乗るとは、おこがましい」
「まだまだ死にそうにないな。来週、でなおしてこい!」
 老人は再びマイクを取ろうとしたが、ドクターストップがかかった。彼は名残惜しそうに退場した。
 次の出場者はベッドから起き上がれない寝たきりの老人だ。
 ベッドからモガモガと喋るが、よく聞き取れない。仕方なく看護師が通訳する。
「重度の糖尿病と痛風で体が動きません。人工関節だらけでロボットのようです。人工透析も欠かせません。あと……」
 看護師が少し戸惑った。
「美雪さんのことを愛しています」
 会場から一斉に歓声が上がる。
「美雪とはだれだ」
「奥さんのことじゃないか?」
「いや、アイツは連れ合いには死に別れたと言っていたぞ」
「あの看護師の表情を見ろ。もしかしたら美雪とはあの看護師のことではないか」
 会場がガヤガヤする中で、出場者はベッドの中から親指を突きあげながら退場した。会場からは温かな拍手が送られた。
 次の出場者は病室からも出られないので、リモートでの出場だった。小柄な白髪姿が写ると、会場からは「あの婆はだれだ」という声が上がった。彼女は個室だったので、だれも彼女のことを知らなかった。
 どうやら孫娘と一緒のようだ。孫娘がカメラに向かって手を振り、反応を確かめてから老婆にマイクを渡す。
「私は老衰です」
 会場から「漏水か。おれも夜は困って……」との声が上がったが、速攻で頭をはたかれている。
「いままでの私は、何のやる気もなく、死を待つだけの日々でした。あの世は本当にあるのだろうか。死後はどこに行くのだろうか。そんな答えのない問いを繰り返して、残り少ない時間をすり減らしていました」
 会場から「哲学的だなあ」という否定的な声が聞こえてくる。遠からず死を迎える彼らは、こうした話を聞き飽きているのだ。
「けど、この奇妙なコンテストの話を聞き、少し考えが変わりました。もちろん、最初は人の死を揶揄やゆするようなコンテストに嫌悪感を覚えました。けど、このコンテスに出るまで死ねないなあという声を聞くと、そういう考え方もあるのかなと」
 いつものように、会場から好き勝手な雑談が始まる。
「このコンテストに本気出されてもなあ」
「こんなにしっかりと会話ができるなら、まだまだ生きられそうだ」
「ちょっと出場が早すぎたなあ」
 その声をシャットアウトしたのが、老婆の次のひとことだった。
「ぜひともあなたと一緒に出場したかったから、思い切って参加しました。ありがとう、ヒロシさん」
 会場が一斉にざわめく。
「ヒロシはさっき出場したベッドから起き上がれない死にぞこないじゃないか」
「寝たきりがナンパなんて初めて聞いたぞ」
「先ほど看護師が手助けしたに違いない。だから突然の告白に困惑したのだ」
「おれも手助けして欲しいものだ。最後の恋を燃えあがらせる最後のチャンスだ」
「バカ。お前はまだ奥さんが生きてるだろ」
 孫娘のバイバイの手振りとともに中継は終わった。
 あとは会場による投票だ。満場一致で、ヒロシの優勝が決まった。寝たきりの重病人にも関わらず、ナンパを敢行する勇者に温かな拍手が送られた。
 今週のコンテストも無事に終了した。
 歴代の優勝者と出場者は額となり、病院の特別室に飾られる。
 最後の一分一秒まで人生を満喫した、真の勇者として。
(了)