第27回結果発表
※応募数314編
季節性の偏頭痛のせいか、ここ数日頭が痛い。これは俺の持病で、しばらく薬を飲んで安静にしていればじきに治るはずだが、くしゃみや鼻水まで併発し、身体も熱っぽくなってきた。今日、有給を使えば四連休になるはずだったが、大事をとって休みのすべてを療養にあてることにした。
一人暮らしにとって病気のときほど死や孤独を意識することはない。偏頭痛の症状で、眼裏でチカチカと明滅する光は、孤独死の通報で駆けつけたパトカーや消防車のランプに形を変えて、心を抉る寂しさをもたらす。熱で潤んだ瞳と鼻水を啜る音は、自分が泣いているみたいで惨めな気持ちになる。俺は頭の中を跳ね回る痛みを堪え、ベッドから体を起こした。大学時代から使い続けている小さなテーブルの上には、市販薬のシート、スープが残ったままのカップラーメンや飲みかけのスポーツドリンクが並ぶ。床には服が散らかっているし、空気も淀んでいる。いつかニュースで見た引きこもりの部屋に似てきている。気まで病みそうだ。少しは片付けるか、と思って立ち上がるが熱のせいか関節痛まで出てきた。
最後のティッシュがなくなったので、仕方なくユニットバスのトイレットペーパーで鼻をかむ。便器に投げ込んだものを何気なく見たら、鼻血で真っ赤だった。急いで紙を鼻に捩じ込み、上を向いたところ、貧血で倒れそうになる。仕方なく便座に腰を下ろして鼻血が止まるのを待っていたが、だんだん吐き気が嵩じてきた。床に座って便器を覗き込む。胃の内容物がせり上がってきて、俺は嘔吐した。カチッ、カチカチカチッという音がする。見ると、便器の中に麺やコーン、小エビに混じって歯が四本落ちている。慌てて口の中を舌で探る。奥歯がない。それどころか、残りの歯がすべてぐらついてる。そんなはずはないと思い、指でちょっと押す。チカチカした光が濃い紫色の空に変わり、気づけば一瞬だけ気絶していた。が、次の瞬間にはパンクバンドが同時に轟音ギグをやっているような痛みが爆発し、堪らず叫んだが、耳鳴りで自分の声は聴こえない。その上、シャツに吐瀉物が飛び散っているし、失禁してズボンはビチャビチャになっていた。なんだこれは。なにが起きている? そうだ。いったん、冷静になろう。俺は痛みを堪えて服を脱ぎ、バスタブへ入った。蛇口を捻ったところで、腕に赤、青、黄、各色の痣ができているのに気がついた。「他の部分は?」自分の性器が視界の隅に入る。見慣れたやつとは明らかに違う形になっていた。恐る恐る薄目で確認する。先っちょから緑の膿を浮かせた、ピンクのカリフラワーが生えていた。俺はバスタブにへたり込んだ。髪の毛がバラバラと抜け落ちていった。落ち着こう、いい加減、落ち着くんだ。膝を抱えて目を瞑ると、耳鳴りを分け入るようにどこからか話し声がする。右膝に赤痣の、左膝に青痣の人面瘡。だんだん、俺の両親に似てきて、青痣「マム、今日のディナーはなんだい?」、赤痣「カリフラワーのアーリオオーリオよ、ダッド」、青痣「それはディナーとして、大いに有ーりよ、マム」、赤痣「マア! ダッド! chu! うるさいうるさいうるさい、直接、脳に語りかけるな、人面瘡よ。俺の股間から声がした。「君は騙されているんだよ、だってそうじゃないか、君のご両親は膝じゃないだろう? 第一、カリフラワーのアーリオオーリオなんて作ったことないじゃないか! 君を騙そうとしているんだよ」ペニスも話しかけてきた、しかも裏声で。「それか、ある時点で君のご両親と人面瘡が入れ替わってしまったんだ、だから今、膝にいるのが本当のご両親で、本当のご両親が人面瘡。ところでアーリオオーリオとペペロンチーノの違いは知ってる?」黙れ、頼むから黙ってくれ。今はそれどころじゃないんだ。「おっと、ごめんよ。随分とつらそうだね? 大丈夫かい。そろそろ病院に行かないと」妙に優しくされて、俺は藁をも掴む気持ちで話しかけてしまう。なあ、お前でいいから俺を助けてくれないか。「オーケイ! でも君は何科に行けばいいんだろうね?」こんなとき、なにをどこから、どうすればいいのか。俺は頭が痛いよ。
(了)