せきしろの自由律俳句 第83回「箱」結果発表 (2/3)
第 83回 課題: 箱
佳作
弁当の中身をまだ知らない
(大阪府 パスカ 36歳)
ケーキ箱を畳む
(福島県 きりんのき 22歳)
秘密めく課長席の文箱
(山口県 与志朗 84歳)
抱えた箱で押すボタン
(長崎県 毎日ハッピー 45歳)
まだ思い出じゃないものを入れておく
(和歌山県 中村マコト 50歳)
思い出あふれフタ閉じる
(愛知県 もんがまえ 51歳)
ひと目でわかる海を渡って来ました
(千葉県 桜那恵 26歳)
冬の陽を箱にしまっておく
(茨城県 さくらんぼ 69歳)
鈴蘭の絵の箱に鈴を貯めてる
(岡山県 森野みどり 74歳)
久方に開けし裁縫箱眠れるはぎれ
(大阪府 のぶこ 80歳)
遺骨と暮らしている
(岩手県 富士 36歳)
見たこと聞いたこと言いたいことも箱の中
(岡山県 ロンドンベアパディントン 11歳)
段ボールから溢れ出てきたクリスマス
(岡山県 サンタゴア 14歳)
テトラポッド用の段ボールを思い描く休日
(神奈川県 高セメント 15歳)
歳をとる箱思い出せないならそれは開けたあと
(北海道 ふんふん丸 15歳)
土を掘って子供の頃の答え合わせ
(滋賀県 ぴえん 16歳)
道端に落ちてる命を包んでいる
(東京都 めめめい 16歳)
馬鹿が箱を開けずに捨てた
(千葉県 中村虚謙 19歳)
折り方様々なアンケートが入った箱
(神奈川県 へやぼし 34歳)
奇麗な箱を溜めている箱
(大阪府 古賀 39歳)
ごみ箱無くいつまでも手にBOSSの空き缶
(大阪府 石川聡 42歳)
故郷の旬を開ける
(東京都 稲葉智子 44歳)
想い出と書いてある父の筆跡
(埼玉県 さっちも 51歳)
ここでもなかったかと雑に蓋を閉める
(東京都 ビールおかわり 52歳)
殴れぶっ潰せ捨てろ資源ゴミの日に
(東京都 根本史紀 53歳)
靴箱に居候の靴ひとつ
(京都府 梅野なお 55歳)
ビニールの強い張り引きちぎりティッシュ出す
(愛知県 青りんご 65歳)
段ボールが命つなぐ冬
(愛知県 河村けい瑚 72歳)
『弁当の中身をまだ知らない』。何が入っているのか、どんな状態なのか、そもそも弁当が入っているの開けるまでかわからない。まるで思考実験のような句だ。『ケーキ箱を畳む』。楽しい時間の後。丁寧さが伝わってくる句である。『秘密めく課長席の文箱』。想像が膨らむ文箱だ。『抱えた箱で押すボタン』。ダンボールの箱の角を上手く使ってエレベーターのボタンを押す。私にも経験がある。『まだ思い出じゃないものを入れておく』。単なる片付けとして段ボール箱に詰め込んでいく。そこにまだ思い出はない。しかし時は流れ、『思い出あふれフタ閉じる』ようになる。いつしかすべてが思い出になっている。『ひと目でわかる海を渡って来ました』。国際小包の独特な佇まい。『冬の陽を箱にしまっておく』。穏やかな句。ずっと眺めていたい光景。『鈴蘭の絵の箱に鈴を貯めてる』『久方に開けし裁縫箱眠れるはぎれ』。どちらも美しい。『遺骨と暮らしている』。静かなる客観視。