絵本作家になる方法
「絵が描けない」「物語が作れない」だけであきらめるのはまだ早い!
「絵本ブーム」という言葉は、何年かに一度の周期でやってくる。大人が読んで教訓を得られる子供の絵本のブーム、とにかくセンシティブな絵と内容が「癒やし」を与えてくれる芸術的な絵本のブーム、可愛いキャラクターでシンプルなストーリーが「読み聞かせママ」に受け入れられた絵本のブーム……受け入られる種類が違うだけで、実は世の中では常に「絵本は愛されている」のかもしれない。
「絵本作家」は、とにかく夢のある仕事だ。子供たちの人間形成に影響を与えられる。
大人たちには癒やしを与えられる。それだけに、「絵本作家になりたい」という夢を潜在的に持っている人の数は、驚くほど多い。
少年少女時代に持っていた夢は、年を追うごとに自分の中で可能性が狭まってくるように思えてくる。特に、「絵」と「物語」の両方を、自分で一から作り上げなければならない絵本作家の仕事は、どちらか一方の才能が自分に欠けていると自覚すると、とても無理な「将来の夢」に思えてくるものだ。
そこで夢をあきらめてしまっていいものなのか?
答えは、現実に絵本の世界で活躍する先輩たちの中にある。どうしても絵が上達せずに、物語だけを作る童話作家になる人もいれば、その逆に絵本画家になる人もいる。あるいは、どちらかの苦手をなんとか克服して、絵本作家になった人もいる。
シゲタサヤカさんへのインタビューでは、夢を現実にするまでのプロセスをうかがっている。その中に、「あきらめるにはまだ早い」というヒントが見つけられるかもしれない。
シゲタサヤカさんインタビュー
とにかく「描くこと」から離れたくなかった時代が今を支える
―最新作『オニじゃないよ おにぎりだよ』(えほんの杜)も大ヒット中のシゲタさん。小さな頃からずっと絵本作家になりたくて……というわけではなかった、というのは本当ですか?
そうですね。絵を描くのは好きでしたけど、絵本作家になるというのは考えていなかった。短大を卒業して、印刷会社に普通に就職して。そこでの仕事の中で、イラストを入れる作業があって。その頃から本格的に、「絵を描く仕事がしたいな」って思い始めました。
―その時点でもまだ、絵本作家の仕事は頭になかった?
イラストレーターになりたいと思って、イラストの学校をいろいろ探しているうちに、絵本コースのあるところを見つけたんです。そのコースの講師の名前を見たら、小さい頃から大好きで読んでいた絵本作家の方々がたくさんいて……。「この人たちに会うだけでも!」と思って、迷わず決めました。
―そこで、絵本作家という仕事が現実的になってくるわけですか。
とにかく、絵本作家という仕事の楽しさを徹底的に教わりました。それに、学校の友だちもみんな「絶対に絵本作家になる!」という人たちばかりで、すごく刺激を受けました。それと、イラストと絵本の仕事の決定的な違いも教わりました。イラストは、文章に即した絵を要求される仕事で、絶対に文章を消してはいけない。私の絵はその頃から、少しアクが強かったので、文章の世界を壊してしまうことになるな、と。文章も絵も、両方自分で作る絵本の世界の方が私には向いていると、気付かせてもらえました。
―その学校を卒業して、しばらくは「絵本公募に挑戦」の日々なわけですね。
6年ちょっとですね。とにかく「描く」時間が欲しかったから、時間が自由になる週3〜4日勤務のアルバイトを転々としながら。DTPのオペレーターやプリントゴッコの販売員、スターバックスコーヒーの店員に、テレビのテロップ打ち……いろいろやりましたけど、「描くこと」からは離れたくなくて。スタバではタンブラーに絵を描いてお店に並べてもらったり、チョークボードの端にちょっとした絵を入れさせてもらったり。
―その間に、講談社絵本新人賞という大きな賞で、佳作を3回受賞して。
とにかく大賞をいただきたくて応募を続けていましたから、3回目の時は受賞の嬉しさも中くらい(笑)。でも、そこで初めて「本にしませんか?」というお話をいただいたんです。本来この賞は、大賞を受賞した人しか出版はかなわないものなんですけど。
嬉しかったですね。本が出ることはもちろんだけど、初めてプロの編集者の方と絵本を作り上げる作業をともにできることが。この作業で、「自分が読みたいもの」と「読者に読んでいただくもの」との違いを、しっかりと教えてもらいました。
あきらめず、経験を積み上げることが「絵と物語」両立のカギ
―デビュー作が店頭に並んだときの気持ちは覚えていますか?
感無量でしたね。何軒も本屋さんをはしごして、自分の本が並んでいるのをいちいち見に行きました。私、2冊目までは、自分で本の宣伝用のPOPを手作りして、本屋さんを回って歩いたんですよ(笑)。
―それから2年半の間に、5冊の著作をコンスタントに出されて。「コック」「キャベツ」「おにぎり」と食べ物がテーマで、シリーズとしても人気です。発想はどこから出てくるものですか?
とにかく私、食べることが大好きで、話を考えようとすると食べ物ばかりが出てくるんです(笑)。残念ながら作る方は才能がなさそうなので、お話の中でコックさんたちに活躍してもらっているのかもしれないですね。
物語を作る作業は、ほとんど独学に近いと思います。ただ、絵本の学校を出たばかりの頃にある方から、「話を作る練習には、4コマ漫画がいい」と教わりました。
「4コマ漫画には、物語に必要な起承転結が全て入っているから」って。その頃は千本ノックのようにいくつも4コマを作って、その方に見てもらっていましたね。その経験が、基礎になっていると思います。
―物語を作れない、あるいは絵を上手に描けないと、絵本作家になる夢をあきらめてしまう人もいます。両方をこなせないと、絵本作家になるのは難しいですか?
そんなことはないですね、きっと。私も絵には全然自信がなかった。たくさん描いていくうちに、下手でも自分の味が出てきて、何とかなるものだと思います。物語を作るとうことも、数を重ねていくうちに、まとまってくると思いますけど。
空想することが好きだったり、一人で家にこもって、もの作りの時間を楽しめたりする人は、絵本作家には向いていると思います。自分が頭に思い描いたことを、文章と絵の両方で表してみればいい。最初は絵本っぽくなくても、あきらめないで作り込んでいくうちにちゃんと『絵本』になっていくと思いますね。
―絵本作家という仕事の、いちばんの「やりがい」は何ですか?
私の本を読んでくれた人が、いろんな解釈や感想をぶつけてきてくれるのを目にしたときですね。やっててよかったなぁと思います。「絵本作家は、10冊著作を出して、初めて食べていける」って、先輩や編集者の方に言われます。私はまだ5冊で、つい最近までバイトもしていたし、締切前はとことん追いつめられて、自作の「地獄カレンダー」を塗りつぶすのだけが楽しみだったりしますけど(笑)、やりがいに溢れた仕事だとは思います。
「これから」を目指す人に言いたいのは、とにかくあきらめないこと。絵本作家は定年のない仕事だし、描き続けていれば絶対にいいことがある。「あきらめない」を決意するために、公募はきっといいきっかけになるはず。挑戦してみてもらいたいですね。
「絵本作家」へと続くルート
絵本作家になるためのルートはいくつか考えられる。
ひとつはコンテストに応募して入選すること。もっとも手堅く、知られているルートだ。もちろん狭き門ではあるが、入選すれば実力がすばやく評価され、すぐにデビュー、あるいは出版社から、担当編集者がつくなど強力な後押しを得ることができる。近年の絵本新人賞では、最高賞の受賞者には出版が約束されていることも多いので、確実にデビューしたければ、何度か失敗したとしても、こうしたコンペティションに参加し続けることこそ、最大の近道と言える。
次に確率が高いのが、「持ち込み」。出版社に作成した原稿を直接持ち込んで読んでもらう方法だ。こちらはプロの編集者に、作品の感想を直接聞くことができるチャンスともなるため、デビューへのルートとしてだけでなく、最近の人気傾向や、プロになるために欠けている自分のウィークポイントなどを知ることができるので、勉強にもなる。ただ、出版社ごとに重視しているジャンルや絵柄、作風、対象年齢などが異なってくるため、持ち込む出版社を事前に選別し、慎重に判断することが必要になるだろう。
他には、サークルで同人誌を発表し、それが出版社の目に留まってデビューのきっかけを得る、というケースもあるが、この形式でデビューにこぎ着けているのは、コミックやライトノベルの場合がほとんど。チャンスは少ないが、仲間同士でのグループ展や同人誌などでの活動は、切磋琢磨により自分の力量の向上につながる。人の目に触れることを意識した作品作りは間違いなく糧になる。このルートでデビューする可能性もゼロではないので、持続することが大事。
※本記事は「公募ガイド2012年4月号」の記事を再掲載したものです。