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1週間で文章力を上げる!7:仕掛けトレーニング

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伏線を張る

伏線は、のちの展開に備えて前もってほのめかしておくことです。
たとえば、童話「シンデレラ」であれば「ガラスの靴を置いてきてしまう」というのが伏線と言えます。この場面なしに王子が現れ、いきなり「あなたがあのときの……」と断定したとしたら唐突ですし、説得力がないですね。
一方、のちの展開というより、設定に説得力を持たせる伏線もあります。映画「ホーム・アローン」を例にとると、「家族旅行に行ったが、息子を家に置き忘れてしまった」というだけでは、「ありえない」と言われそうです。
しかし、クリスマス休暇中に総勢15名で家族旅行、しかも、寝坊して大わらわ。
そのうえ主人公のケビンは叱られて屋根裏部屋にいるという状況を作り、息子を置き忘れることにリアリティーを持たせています。こうしたエピソードの積み重ねも伏線と言っていいでしょう。

実習課題

浦島太郎は玉手箱を開けておじいさんになりますが、この伏線となる説明または場面を書いてください。

クレショフ効果

映画理論家のレフ・クレショフは、ある俳優の無表情のカットを選び、その前に三つのカット(①スープ皿②棺の中の遺体③ソファに横たわる女性)を置きました。すると、俳優の表情は①では空腹そうに、②では悲しそうに、③では欲望を感じているように見えました。
これをクレショフ効果と言いますが、小説でも、特にだからどうだとは言わずとも、単に二つのシーンを並べるだけでなんらかの意味が生まれたりします。
たとえば、「老人は少女を見つめていた」とだけ書いておき、そのあと、亡くなった孫娘のエピソードを入れればそういう目で見ていると思わせられ、ロリコン趣味について書けばそういう嗜好の人物のような印象を与えられます。
しかし、老人は孫娘のことを切なく思い出しているとも、少女を性の対象として見ているとも書かれていないため、押しつけがましい感じもなくなります。
また、読み手が勝手に意味を加えて読んでしまうということを逆手にとれば、読み手をあらぬ方向へとミスリードさせる手段にもなってくれます。

実習課題

複数のシーンを並べることで、(こういうことが言いたい)とは書かずに、それを行間で表現してください。

空白補填効果

映画「ペイ・フォワード」は、以下のような流れで始まります。
A:主人公トレバーは、学校の授業で、世界を変える方法として、受けた恩を別の三人に送るという案を提案する。
B:学校の帰り、トレバーは食いつめたホームレスを見かける。
C:家に帰り、母親から電話で、街のホームレスと関わらないよう注意される。
D:電話するトレバーの後ろでは、ホームレスがトレバーのおやつを食べている。
人は途中を省略されると、前後関係から空白を推測してしまうもので、これを空白補完効果と言います。「ペイ・フォワード」でも、Bのシーンでは「このホームレスに恩を送ろう」などとは言っていませんが、映画を見ている人はDのシーンを見た瞬間、そうだと悟ります。
加えて、余計な説明が省かれていますから、話がぽんっと飛んでスピード感も出ます。

実習課題

間を省略しても、前後関係からそこで何があったのかが分かるように複数のシーンを並べてみましょう。

小説だけが参考書ではない

映画は小説より新しいメディアではありますが、エンターテインメントということでは小説以上に研究されています。
もちろん、小説に応用できるテクニックもたくさんあります。以前にあったことを瞬間的に思い出すフラッシュバックといった小技もそうですし、意外な、しかし、説得力あるストーリー展開も参考になります。
映像ではできても活字ではやりにくい技もありますのでなんでもかんでもとはいきませんが、映画やシナリオの勉強は小説の勉強にもなります。

実習課題

お好きな小説を読み、途中でページを閉じ、次のページでの展開を当ててください。

 

※本記事は「公募ガイド2012年6月号」の記事を再掲載したものです。