せきしろの自由律俳句 第84回「書く」結果発表 (2/3)
第 84回 課題: 書く
佳作
偽名を書く偽名で呼ばれる
(千葉県 xissa 58歳)
あみだくじ遠くに着地する
(岐阜県 日野うた 45歳)
手でノートに話しかける
(東京都 めめめい 16歳)
ふでばこの中をせのじゅんに
(京都府 よこお 17歳)
書道家の年収を考える
(大阪府 反時計 24歳)
グラウンドに書いた線はまっすぐじゃない
(京都府 どらまにあ 59歳)
どんどん狭くなる机と
(千葉県 桜那恵 26歳)
名前をアルファベットでパンツに
(岐阜県 場外 53歳)
朝からずーっと墨を磨っている
(大阪府 雨あめ 83歳)
無言の朝食と裏写りしたテーブル
(静岡県 のに 48歳)
素振りしてくると置き手紙
(東京都 しまけん 43歳)
知らない土地であたらしい住所を書く
(大阪府 軒下の桜 22歳)
達筆のつづく芳名帳殴り書きで逃げる
(山形県 仮住くん 49歳)
ノートを取る君のものすごい猫背に西日
(神奈川県 織井陸 23歳)
「明日楽しみ」の字が踊ってる
(愛知県 雪うみうし 13歳)
母の日記を覗いたら僕が居た
(愛知県 受験生 16歳)
書き順ごときで揺らぐ好意
(大阪府 フルカワ 32歳)
冬と書いて寒くなる
(東京都 水面叩 32歳)
日記に書いたから身軽
(鹿児島県 さやか 34歳)
泥酔が割り箸で書く電話番号は見えない
(群馬県 伊藤どらやき 50歳)
書初めの香り冬休みの終わり
(静岡県 清水星(きよみずのほし) 56歳)
手の甲になにか書いてある人が忙しそう
(愛知県 青りんご 65歳)
孫が書く鏡文字に見とれる
(大阪府 和悟 69歳)
誰の字だろう私の字だろうか
(福岡県 セイマ 71歳)
走らないペンが眠くなる
(東京都 マモー摩擦 73歳)
『偽名を書く偽名で呼ばれる』。これは私にも身に覚えのあることで、かつてのクラスメイトだった人の苗字を書いて、かつてのクラスメイトの名前で呼ばれて、店内へと向かうことが多々ある。
『あみだくじ遠くに着地する』。「遠くに着地」の表現が良い。
『手でノートに話しかける』『ふでばこの中をせのじゅんに』。どちらも素直でまるで絵本のような句である。
その対極にあるような『書道家の年収を考える』。これもまた良い。他人の年収を考えることは珍しいことではないだろうが、それを言語化するところがたまらない。
『グラウンドに書いた線はまっすぐじゃない』もまたそのひとつだ。
『どんどん狭くなる机と』。私の机の話をされているようである。
『名前をアルファベットでパンツに』。パンツに名前を書く文化は廃れていないのだろうか。自分も何かのタイミングで表記をアルファベットに変えた記憶があるがそれは羞恥心からだったのか。それともただカッコつけただけなのか。定かではない。
『朝からずーっと墨を磨っている』。音がある静かな午前。
『無言の朝食と裏写りしたテーブル』。この朝の描写が好きだ。「裏写り」の生活感。
『素振りしてくると置き手紙』。「素振り」のリアリティ。
『知らない土地であたらしい住所を書く』。なぜか突然無意識に昔の郵便番号を書いてしまうことがあるが、それは私だけなのか?
『達筆のつづく芳名帳殴り書きで逃げる』。字が綺麗だったらなあと思う瞬間のひとつである。
『ノートを取る君のものすごい猫背に西日』。こちら大好きな句なのだが、「君の」がなくても意味は通じ、そちらの方がリズムが良くなる。その辺りの添削の話は公募ガイド本誌の方で行っているので是非参照していただきたい。今回惜しくも選ばれなかった句もいくつかそちらで取り上げさせていただく予定だ。