エンタメ技法を盗め!小説に活かす映像のテクニック2:映画に学ぶ 設定・人物・構成


リアリティーを持たせる
小説でも映画でも、「そんなこと普通は起こらない、ありえない」と評されることほどつらいものはありません。そこで作家は様々な工夫をします。
マコーレー・カルキン主演の映画『ホーム・アローン』は、家族旅行の際、主人公のケビンが置き去りにされることから物語が始まります。
常識的に考えると、そんなことはまず起こりません。そこで映画では、
- 叱られて屋根裏部屋に追いやられる。
- クリスマス休暇でばたばたしている。
- 総勢15名の家族旅行。
- 当日、寝坊し、パニック状態の母親。
という設定にし、置き去りにしてもおかしくないという状況を作っています。
目的を阻む障害の設定
どの主人公も物語上の目的を与えられているはずですが、「こうしたいと思いました。はい、そうなりました」ではおもしろくなりませんから、普通は何かトラブルが起こり、目的はなかなか実現しないように設定されます。
こうした障害をカセ(枷)と言います。人物の行動を束縛するもの、邪魔するもののことです。
カセには時間的なカセ、人間関係のカセなどがあります。
時間的なカセは、「○○までに○○しないといけない」というようなリミットのこと。人間関係のカセは、三角関係や生さぬ仲といったもの。その他、病気や障害、約束、密室、ライバル、自然の猛威などもカセになります。
映画『ターミネーター』のカイルの目的はターミネーターからサラを守ることですが、ターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)は「また?」というぐらい何度も復活します。
そして、それを乗り越えようとすることで物語はドラマチックになり、観客は必死になるカイルとサラに感情移入するわけです。
起にアンチを配す
アンチとは「反対」という意味。
「世界チャンピオンになれそうな人が世界チャンピオンになる」「美男美女が互いに一目惚れして結婚」……これだとあたりまえすぎておもしろくありません。
そうならないためには、起では結末とは反対の状況にする。恋愛映画では、当初は対立、反目し合う二人として始まるケースが多いですし、「シンデレラ」のようなサクセスストーリーでは始まりは不幸のどん底ということが多いです。
周防正行監督、本木雅弘主演の映画『シコふんじゃった』も、卒業のための単位の見返りに、「こんなにカッコ悪いスポーツはない」と廃部寸前の相撲部にいやいや入るのが発端でした。
単に起で結末と反対の状況にすればいいわけではありませんが、最初と最後の変化が大きければ大きいほど、物語はおもしろくなります。
大小様々な伏線を
伏線とは、あとで起きる事件や展開のために、前もって何かをさりげなく示しておくことです。
この伏線がない状態を「あとだし」と言います。つまり、事が起きてから「実は……」と説明するやり方で、これだといかにもあとになって辻褄を合わせた感が強く、作品が嘘くさくなります。
伏線には、大きい伏線と小さい伏線があります。大きい伏線は、結末のどんでん返しにつながるような伏線です。
映画『シックス・センス』で言えば、ブルース・ウィリス扮するマルコムを無視する妻アンナ、死者が見えるという少年コールと、死者が現れると気温が冷えて息が白くなるといったあたりが大きな伏線と言えます。
小さな伏線は、物語の展開というより、話や人物の性格に説得力を持たせるようなもの。たとえば、「短気な性格」と書くのは簡単ですが、それでは説明的で、観客は実感できません。
そんなときは説明せず、「短気な性格」であることがわかるようなシーンを見せることで伝えます。
二面性を持たせ、必死にさせる
映画やドラマではキャラクターに重きが置かれますが、人物を魅力的にするには、まず「二面性」ということが挙げられます。二面性とは、相反する二つの面ということです。
「正義感」「紳士」といった一面しか持っていないと、類型的な人物になりがちです。正義感だけどお金に細かいとか、紳士だけど融通が利かないなど、プラスが目立つ主人公ほど欠点を与える。それが魅力ある人物にするコツです。
次に重要なのは、「一般人が持ちにくい個性があり、人ができないことをやってしまう。しかし、一般人に共通する感性も持っている」こと。
映画『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)は超人的な活躍をしますが、この世に存在しないようなスーパーマンではなく、妻のホリーとは離婚の危機にあり、別居中です。
人物を魅力的にするその三は、「人物に葛藤させる、戦わせる、必死にさせる」こと。
映画『マディソン郡の橋』のような不倫ものでは人物は愛と倫理の間で揺れ、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ロミオとジュリエット』でも葛藤しつつ命を賭して愛し合っています。ほか、スポーツ、勝負、バトルもので主人公が必死になるのは周知のとおり。
対照的な二人
映画にはたくさんの人物が登場する場合もありますが、同じ役割を持つ人物は要りませんし、同じ性格の人物も二人は要りません。
もっと言うと、主人公とその相棒などは対照的な人物であるほうが(相互補完的になるという意味でも)いいです。
物語の一つの型に「バディ・ムービー」がありますが、このバディ(相棒)はだいたいデコボココンビで、性別が違う場合も少なくありません。
有名なところでは、ジャック・レモンとウォルター・マッソーの映画『おかしな二人』。極端に異なる男二人が同居することになり、対立、葛藤するところにドラマと笑いが生まれています。
ミステリーとサスペンス
映画を盛り上げる要素にミステリーとサスペンスがあり、これは今やジャンルを問わず、すべての映画に不可欠な要素になっています。
たとえば、ほのぼのとした恋愛映画でもホームドラマでも、彼氏に浮気疑惑が発生してドタバタとか、突然の訪問者が殺人犯にそっくりで……というような先を読みたくなる工夫がないと退屈します。
ミステリー&サスペンスの最高傑作は、名作中の名作『第三の男』。内容は書けませんが、人物の造形、セリフ、役割分担、伏線、構成、どれもお手本になります。見たことのない人はもちろん、見たことがある人も、ワンシーンワンシーン、箇条書きにしていき、物語がどのように作られているか確認してみましょう。
基本は起承転結で
構成法にはいろいろありますが、基本的には起承転結で考えるといいです。
起は、物語の発端であり、今後の展開を示唆する部分。また、観客の気持ちをつかむ重要な部分です。ここには前述のアンチを配します。
承では、三つの「事」を盛り込みます。
- 事件:発生した事件に人物たちがどうリアクションするか。
- 事情:人物の背景や抱えていた事情(出生、境遇、秘密など)が次第に明かされていく。
- 事実:歴史的な既成事実。その世界でなくてはいけないディテールをおもしろく見せていく。
転はクライマックス。結では冒頭付近に配しておいた伏線を最後に回収する。
最後の最後にひとくさり。
構成がどう違うかは、既存の作品をもとに、その作品のプロット(長めのあらすじでもいいですが)を作ってみるのが一番です。そうした分析をできるだけたくさんやる。その蓄積が構成力と呼ばれるものの実態かもしれません。
※本記事は「公募ガイド2013年10月号」の記事を再掲載したものです。