エンタメ技法を盗め!小説に活かす映像のテクニック5:映画にする小説の書き方・選び方


「日本エンタメ小説大賞」 審査委員&受賞者インタビュー
映画の原作小説を募集する「第1回日本エンタメ小説大賞」の受賞作が決定した。映画化を前提とした小説はどう書くのか、映画化したい作品をどう選ぶのか…… 審査委員長の石田雄治プロデューサー、大賞受賞の中得一美さん、事務局の小谷正彰さんにお話を伺いました。
重要なのはキャラクター
――募集のきっかけは?
小谷:文学新人賞を受賞しても、食べていける作家は年間一人いるかどうか。毎年何万冊と出版される中で、書棚に埋もれないためにも、あらゆるところで作品を目にするかたちにしていく、というのがまずありました。
――それで映画原作となる小説を?
小谷:まずは、国内で一番多くチェーンを持っている書店に並べ、文庫本として日本中で広く売っていきたい。そして、映像化されれば、また作品を見てもらえます。長く愛され、ご飯が食べられる、そんな作家を育てたいですね。
――応募作の中から、映像化したい小説を決められたポイントは何ですか?
石田P:人物がどれだけ魅力的かが一番のポイント。登場人物が魅力的であれば、原作のテイストを崩さず映画化できます。
ほか、発想、題材、設定、構成のおもしろさにオリジナリティーがあれば。大賞作品は、今までにない主人公のキャラクターと設定がおもしろかった。また、飽きさせない構成もよかったです。
――キャラクターが重要なんですね。
石田P:まず、主人公を実写にしたらおもしろいだろうな、から始まります。原作段階から役者の想定もするので、この役者で映画を作ったらおもしろいんじゃないか、実写を自分が見てみたい、そういう観点で選びました。
――原作を読んでこれは売れる!と思う瞬間はありますか?
石田P:映画の宣伝コピーと主要キャストがパッと浮かんだとき。僕が手掛けた『八日目の蝉』のときはすぐに浮かび、これは勝てるなと思いました。
――反対に映像化しにくい作品は?
石田P:ミステリーの叙述トリックのように、文章なら成立する作品ですね。
――主人公の内面が多く描かれている小説はどうでしょう。
石田P:それは大丈夫です。キャラクター造形をする際の参考になります。
――最終に残る作品の傾向は?
小谷:ツイスト感がある作品ですね。ドラマのように起承転結、波があっておもしろいものが残ります。
――最終に残らない作品の傾向は?
小谷:出だしはいいんだけど、後半になるとだらだらと何が言いたいのかわからないものや、文章は読めるがワクワク感がないものはダメですね。
構成力はシナリオで培った
――映像化を想定しながら小説を書きあげられたのでしょうか。
中得 主人公の大女が、旅をして磨かれ、最後は成長して美しくなる姿を描きたかったんです。最初に旅のシーンが浮かんだので、それにストーリーをつけていくというスタイルで書き進めました。
――中得さんは、受賞作で初めて小説を書かれたとか。
中得 今までシナリオを書いていたのでシナリオ脳だったんです。初めて書くのでハードルは高かったのですが、文章を足して足して完成させた感じですね。
――シナリオの知識が役立った部分はありますか。
中得 構成ですね。それがないと最後まで書ききることができないんです。構成を最初に作っておけば、迷ってもそれを見直せば戻ることができる。途中で息切れしても書き続けることができました。
――今後「日本エンタメ小説大賞」をどのように発展させていきたいですか。
小谷 毎年審査するプロデューサーが変わるので、今年ダメでも来年は通る人がいるかもしれない。実際に映画を作っている方と一緒に開発するので可能性も大きいです。原石を引っぱり上げて小説家として売り出していく。その手段の一つとしてこの賞を発展させたいですね。
小説のためにシナリオを書く効用と課題(柏田道夫インタビュー)
イメージ脳を鍛える
――小説のためにシナリオを学ぶ効用はどんなことでしょうか。
シナリオは映像の設計図なので、脚本家自身、映像を思い浮かべながら書きます。だから、場面を客観的に眺める習慣が養われます。
――小説の初心者は「いつ、どこで」を書きもらしたりしますが?
シナリオなら最初に天地人(いつ、どこで、誰が)を書く発想になります。
――初心者の原稿では、電車の中のシーンがあって、なんの説明もないまま電車を降りたことになっていたり……。
それもシナリオを書いていれば、シーンが変わったら柱とト書きで時間と状況を示す発想になるから直ります。
――うまいけれど、絵が浮かばない文章を書いてしまう人もいます。
右脳はイメージ脳、左脳は言語脳で、文章を書くときは言語脳が大事なんだけど、実は決め手になっているのはイメージ脳。これが養われていないと説明的な文章になります。
――シナリオを書いているとイメージ脳が働くようになる?
逆に働かさないと、いい脚本家にはなれません。
――シナリオは、書きだす前に設定や構成をきっちり考えますよね。
シナリオでは、人物にどれだけ魅力づけをするかが決め手になります。構成にしても、決められた時間の中で、始まりがあって、盛り上げて終わらせる。どのように物語をおもしろくするかを必死になって考えます。
――話をおもしろくする要素に葛藤や二面性がありますが、これを言いだしたのは小説より映像のほうが先ですか。
というより芝居が先です。芝居が一番古いのですから。ギリシャ時代の頃から物語を語る人はいました。
――その時代から、葛藤とかカセといった物語をおもしろくする条件はあった?
言い方は別として、語りのうまい人はそういう要素を盛り込んだでしょうし、どうしたら物語に引きつけられるか、いろんな方法を考えたでしょう。
小説は描写力が決め手
――シナリオでは、次のシーンへの引きというテクニックが使われます。
それは連続ドラマで駆使されているテクニックですね。
――小説にも生かせますか。
長編小説を書くときに、たとえば、連ドラ10話分で構成する。第1話で主人公が登場、毎回必ず最後にクライマックスがあり、話はいったん終結するが、また新たな課題ができて次回へとつながる。
500枚の長編というと途方もない長さのような気がしますが、1話50 枚なら10話で500枚、そして全体を貫くストーリーがあるようにする。
――章立てもされていていいですね。
章立てされていない長編もありますが、それって読んでいるほうはめちゃめちゃつらいんですよ。ある程度の分量で章立てしてあると、息も抜けるのですが。
――今までシナリオを書いていた人が小説を書くときの課題は?
プロットの文章みたいになっちゃうことは多いですね。また、ト書きのように《○○するヒロシ。》といったように書いてしまったり。
――視点についてはどうですか。
シナリオは三人称多視点ですが、小説は一人称でも三人称でも視点を定めないといけません。そこが問題。
――小説では、誰の目を借りて描写するかが問題になりますね。
小説の場合、情景描写にしても心理描写にしても、文章でやらなければなりません。それが決め手になります。脚本に慣れた人の課題はそこですね。
※本記事は「公募ガイド2013年10月号」の記事を再掲載したものです。