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小説・エッセイ推敲のポイント4:校正者になったつもりで一文を練り上げる

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文字を記号として見る

ワープロで原稿を書く人は、修正ももっぱら画面上ということになりますが、第一稿、第二稿、第三稿……と、大きな区切りではプリントアウトし、紙ベースで推敲することをお勧めします。紙に落とし込んでみると、意外と、思わぬ粗に気づいたりするからです。
さて、推敲の第4段階では、原稿の細部を見ていきます。そのとき、意識したいのは、原稿を読まないことです。
たとえば、こんな原稿。

 

これでニ度目だぞーー。

 

漢数字の「二」を書くべきところがカタカナの「ニ」となっていますし、ダッシュを二つ重ねて「――」とするべきところが音引き(長音)二つ、つまり、「ーー」となっています。
こうした誤記を探すには、一文字一文字を記号として見ていくことです。そうすれば「載」と「戴」、「裁」と「栽」といった似た漢字も見分けられ、「絶体絶命」を「絶対絶命」と書いてしまった場合も気づきやすくなります。

表記の不統一を探す

アマチュアの方が意外と無頓着なのが、表記の不統一です。ある行では、
「彼は、昔のことだとわたしに言った」
と書き、その次の行で、
「私は、そんな事はないと思った」
と書いたりします。
「わたし」と「私」、「こと」と「事」が混在しています。この手の不統一は、誤記と思って修正しましょう。
ただし、用法が違えば、必ずしも不統一とはなりません。たとえば、以下のような場合は、送りがなが違いますが、問題ありません。

〈固有名詞と普通名詞〉

固有名詞 日清焼そば
普通名詞 カップ焼きそば
常用漢字では「焼き……」と書きますが、固有名詞はそのままの表記でOK。

〈名詞と動詞〉

名詞 お話をする
動詞 お話しする
動詞は活用しますので送りがながつきますが、名詞にはつきません。

〈動詞と補助動詞〉

動詞 頂く
補助動詞 見ていただく
「見て頂く」のように書くと「見て+頂く」である印象が強くなるため、補助動詞をかな書きにしたりします。

また、以下のような場合は、品詞や用法によって漢字表記になったり、かな書きになったりしてもかまいません。

〈動詞と副詞〉

動詞 商品が余っている
副詞 あまりよくない

〈熟語と接尾辞(接頭辞)〉

熟語 発達
接尾辞 君たち

なお、ワープロをお使いの方は、検索機能を使えば表記の不統一がすべてチェックできます。

ワープロゆえの不備

手書きならまず起こりえないようなミスが、ワープロゆえに起こることがあります。たとえば、誤変換。

 

「これも文章修行のうち」

 

「修行」は宗教や武道を修めることで、学芸や職業の場合は「修業」ですが、その違いを知っていても、漢字変換の際に誤って選択してしまうことも。

 

「そうなんdす」

 

これもワープロならではの誤記。ローマ字変換で「desu」と打つところ、「e」を打ち損じた場合に起こります。

 

「それがきかっけでした」

 

本当は「きっかけ」と入力したかったのですが、「か」と「っ」が入れかわってしまいました。これもよくあります。

また、原稿は書き出しが一字空きになっているのは正解ですが、ワープロが一字空きを学習してしまい、二行目以降も一字空きになってしまうこともあります。
こうしたことはワープロ原稿ではまま起こります。書いているときは見過ごしても、最終段階では漏れなくチェック!

第4段階のまとめ

ここまでのチェック項目です。

  • 一文字一文字、記号として見る。
  • 表記の不統一をなくす。
  • 誤変換や体裁の不備を確認。

以下、確認事項は無数にありますが、主だったところを挙げてみます。

  • 重複表現を修正
    〈その日は、僕が生まれた日だった。〉 は、「その日は……日だった」で言葉がダブっています。一文の中で、あるいは近くに同じ語句、同じ表現があったら、違う言いまわしに変えましょう。
  • 意味不明な指示代名詞
    「あの」「その」といった指示代名詞は、指すものが明確か確認しましょう。
  • 不要な指示代名詞
    指示代名詞は強調して指示する場合以外は必要ありません。
    〈東京スカイツリーに行った。その高さは六三四メートルだ。〉この「その」は要りません。
  • なくていい接続詞を削る
    なくても通じる接続詞は削ります。ないと通じない接続詞はそのままにするか、接続の意図が残るように文そのものを書きかえます。
  • 同じ接続詞、接続助詞の連続
    同じ文の中に、同じ接続詞や接続助詞は使わないようにします。以下は悪い例。
    〈君には買うなと言われたが、高かったが、ローンで買った。〉
  • よじれ文をチェック
    〈原稿を書かなかったのは、にわかに夏の疲れに襲われてしまった。〉はよじれ文ですね。「襲われてしまったからだ」のように修正しましょう。
  • 係り受け関係が不明
    「真っ赤な荷台付きの車」だと、「真っ赤な荷台」なのか「真っ赤な車」なのか不明です。語順を変えるなどして、係り受け関係をはっきりさせましょう。
  • 読みやすい語順
    同じ文節に係る修飾語が二つ以上ある場合、たとえば、〈苦労して絵を描いた〉なら、「苦労して→描いた」と「絵を→描いた」の二つの係り受け関係がありますが、このような場合、長いほうを先にし、〈苦労して絵を描いた〉としたほうが読みやすくなります。
  • を格と動詞の距離
    を格(○○を)はこれを強調する場合を除き、動詞の近くに置きます。動詞との親和性が高いからです。
  • 主語の位置
    「○○は」など、主語を強調、明示したい場合は文頭に置きます。
  • 省略できる主語
    「私は大学生です。私は二年生です」のように、同じ主語が続く場合、最初の主語に二つ目の主語を兼ねさせ、「私は大学生です。二年生です」とできます。
  • 省略した主語との係り受け
    「彼は先生に呼び出され、トイレ掃除を命じた」は、「彼は先生に呼び出された。
    彼はトイレ掃除を命じた」ですから変です。後続の文は「命じられた」ですね。
  • 省略できない主語
    「私は大学生です。弟は高校生です」のように、主語が変わった場合はまずそれを明示します。省略はできません。
  • 副詞の位置
    「第一に」といった文全体に係る副詞は文頭に置きます。一方、程度を表す副詞は係る語句の直前に置きます。たとえば、「最近はごくつまらない」を「ごく最近はつまらない」としてしまうと、係り受け関係が変わり、「ごく→つまらない」が「ごく→最近」となってしまいます。
  • 連用中止法を続けない
    〈男は立ちあがり、靴を履き……〉のように、同じ用法の語尾が続いてリズムが単調になってしまう場合は、(一例ですが)〈男は立ちあがると、靴を履き……〉のようにするとリズムがよくなります。
  • 略語、新語、流行語
    こうした言葉は、小説やエッセイでは使わないようにしましょう。

誰かに読んでもらう手も

原稿が書きあがり、推敲も重ねてきたが、自分にはわからない欠陥があるのではないか、と思ったら、家族や友人などに見てもらうのも手です。その中には、作者にない知識や見識を持っていたりする人もいるでしょうから、大いに参考になるでしょう。
原稿を読んでもらう人は、小説に詳しくなくてもかまいません。もちろん、小説通であってもいいですが、詳しくない人には詳しくない人なりの意見があり、それも参考になります。
たとえば、作家のAさんは、原稿が書きあがると家族に読んでもらうそうですが、家族は家族であるがゆえに、歯に衣着せず、「伏線がわかりにくい」と言ったりするそうです。プロであるAさんは、内心、「これ以上、わかりやすくしたらバレバレだ。これだから素人は」と思ってしまうそうですが、しかし、時間をおいて冷静に再考するそうです。なぜなら「読者は素人だから」だそうです。
ただし、第三者の意見をなんでも受け入れてしまうと、自分というものがまったくない作品になってしまいます。聞かないのもいけませんが、聞きすぎもだめ。
多くの意見を素直に受けとめ、そして、それを反映させるかどうかは自分で判断するという姿勢が望ましいです。

 

※本記事は「公募ガイド2013年10月号」の記事を再掲載したものです。