エッセイを書く欲と力1:ワンランク上のエッセイを書くために
エッセイの定義
エッセイってなに?
エッセイの語源はフランス語のエッセ(essai)で、これは試みという意味だそうです。
一方、日本語で随筆と言った場合、随には勝手気ままという意味がありますから、筆のおもむくままに書いたものという印象が強くなります。
エッセイを辞書で引くと、
- 自由な形式で意見・感想などを述べた散文。随筆。随想。
- 特定の主題について述べる試論。小論文。論説。
(『デジタル大辞泉』より)
とありますが、1はエッセイを随筆の面から捉えたもの、2はエッセイをフランス語のessai の面から捉えたものではないでしょうか。
このように随筆と試論、二つの意味があるエッセイですが、共通して言えるのは、《フィクションではなく、自分のこと、自分が体験したことなどを題材に、自分が考えたことを書いたもの》ということ。この点は共通しています。
エッセイの種類
エッセイの種類を題材で分けるのは不可能に近く、笑えるエッセイ、泣けるエッセイ、怒ったエッセイなど分類していけばキリがありませんが、図のように、
X軸 「私」の濃度
Y軸 論の度合い
で分類すると、四つに分けられます。
Aの領域は、「私」の濃度が強く、論が立ったもので、体験を踏まえた意見、提言などがこれにあたります。
Bの領域は、体験は書いても「私」の濃度は高くなく、かつ、論が立ったもので、学術エッセイなどがそうです。
Cは、「私」を書くでもなく、特に論でもないということで、言葉遊びやギャグ的な文章を指します。
Dは、自分が体験したこと、感じたことなどを中心にまとめたものです。
ただし、一般的にエッセイと呼ばれるのは、Dの領域が多いでしょう。Aは投書、Bは論文、Cは面白おかしい雑文として扱われることもあります。
エッセイの目的
エッセイを書く目的は、誰のために書くかによって異なります。
誰に見せるわけでもなく、応募するわけでもなく、公表もしない、もっぱら自分のためだけに書くというのであれば、書いたことで自分の気持ちが整理されたり、落ち着いたり、記録として残せたりすればいいでしょう。
一方、公募の応募作を含め、不特定多数の第三者に読まれるものは、
「共感と感銘」
を与えることが求められます。
「分かるなあ」とか「すごいなあ」という気持ちにさせられなければ、読むほうも読む甲斐がありません。読者不在ではならないわけですが、しかし、それはある種の娯楽小説のようにもっぱら読者を喜ばせるためだけに書くことではありません。
書いていることは自分の体験ですし、自分に向かって書いてもいるのですが、書かれたものが第三者の鑑賞に堪えるということです。
エッセイを書く前に
自慢と批判に注意
身辺雑記的なエッセイでよくある二大パターンは、清少納言の『枕草子』のように新たな発見を書いたもの、そして、鴨長明の『方丈記』のように世間や過去を観察、回顧し(誤解を恐れずに言えば愚痴を)書いたものです。
『枕草子』タイプのエッセイで気をつけたいのは、「私、こんなことに気づきました。センスいいでしょ」という内容が自慢話になること。
人は人の自慢話が大嫌いですから、よほど卓越した内容でなければ、不愉快に思う人もいます。
『方丈記』タイプのエッセイで注意したいのは、誰かを批判したり糾弾したりするときです。この場合、たとえば、「東京オリンピックを控え、アダルト雑誌は発売禁止にすべきだ」と書いた場合、批判された対象は法に触れるものではありませんから、一方的に「発売禁止」とだけ言ってしまうと、振りかざした拳が自分に返ってきてしまいます。つまり、批判したあなたのほうが批判的な目で見られることになります。
こころの壁を取り払う
文章表現上のテクニックというのはもちろんあります。たとえば、文章指南書によく出てくるのは、
- 書き出しにインパクトがない
- 無駄な一文が多い
- 段落と段落の関係が不明
- 具体性がない
- 説明不足、説明が下手
- 主題がはっきりしない
- 論理的に展開していない
挙げればきりがありません。
こうしたテクニックを知っておけば、執筆時や推敲時に役立ちます。
しかし、部分的に修正したり、前後を入れ替えたりすればいいという問題ではないという場合もあります。それは作者の心に壁があるような場合です。
心に壁がある理由にはいろいろあると思いますが、主だったところを挙げれば、
- 本音を書くのが恥ずかしい。
- 自信がない。
- 虚勢を張っている。
といったところでしょう。
つまり、読んだ人の反応が怖くて素直に書けないということ。まずはここを乗り越えましょう。
心に壁があったら伝わるものも伝わりませんし、逆に心から書いたものは文章を飛び越えて相手に伝わるものです。
ここに野口英世の母シカが英世に宛てた手紙があります。抜粋して紹介します。
母親の気持ちが伝わってきます。上手な文章ではないですが、文章の目的が達意であるのなら、これは名文です。テクニックが必要となるのはこのあとです。
※本記事は「公募ガイド2014年8月号」の記事を再掲載したものです。