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第30回「小説でもどうぞ」佳作 マジシャン・ロロ 中村圭汰

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
第30回結果発表
課 題

トリック

※応募数237編
マジシャン・ロロ 
中村圭汰

 人の体が半分……いや、八頭分に裂け、帽子からは鳩に犬に人間の子供が次々と出てくる。
 客席からは空気を震わせるほどの歓声が沸き、凄まじい喝采と共に締めくくる。
 不思議さとド派手さが渦巻くエンターテインメント……、そんな謳い文句を掲げた舞台の中心のいたのは、トリックマスター・ロロ――世界一のマジシャンと名高い男だ。 
「今日も実に愉快な公演であった!」
 動員数約五百人、マジシャンとしてはそこそこ大きい箱での公演の帰り道……、一日を振り返り一言締めるのがロロの日課になっている。
 仕事柄大声を出すのが癖になっているロロの独り言は思いの外大きく、案の定周りの人たちがロロに気づく。
 有名人を一目見ようと集まりだす人々――ロロは、またやってしまったと苦笑いを浮かべ……ここで何もせず帰ったらマジシャンの沽券に関わる……そこで一つのマジックを披露することにした。
 道端に捨ててあった雑誌と飲みかけのペットボトルを拾い上げ、雑誌の中に水を注ぐと雑誌が濡れることなく水が消える。
 即興でやった簡易的なトリックのマジックだが思いの他ウケがいい。
 すると、一人の少年が声をかけてきた。
「今のトリック給水ポリマーだよね?」
「なんだ、少年マジック好きなのか?」
「全然、そんなんじゃないよ」
 変な少年……そんな第一印象を与えた少年はこう続ける。
「ねぇ、もっとマジック見せてよ」
 …………
「いいだろう、特別だぞ?」
 少し考えて承諾する。
 即興でやるマジック、出来るものも限られてくるが……やはり簡単なのはトランプを使ったマジックだ。
 カバンからトランプを取り出すと少年に差し出し、タネがないことを確認させる、そして一番上のカードを開いて見せる。
「このカードを覚えてくれ」
「そしたら、この一番上のカードをデッキの真ん中に入れてくれ」
 パチンッ――ロロが指を鳴らすと、上のカードを再度開いてみせた。
 そこには、真ん中に入れたはずのカードがあった。
「イリュージョン!!」
 ロロが高らかに宣言する。
 だが、少年は何の起伏も感じない声で……
「ダブルリフト……だよね?」
「こんな子供騙しのトリック……通じるとおもった?」
 その後ロロは多種多様なマジックを……千差万別なトリックを駆使してみせた。
 ……コップやボールを使ったマジックだったり……物が消えたり現れたりあり得ないところから出てきたり……、だが、その全てのトリックを少年は見破った。
「やるな少年! このトリックも見破るか!」
 少年の突出したマジックへの才能をロロは感じ取っていた。だからこそ、いろいろなマジックを見せたのだが…………
「やっぱり……マジックなんてしょうもない」
 少年がポツリとつぶやいた一言……哀愁すら感じるそれに、ロロは昔の自分を思い出す。
「マジックなんてくっだらねー」
 マジシャンの家庭に生まれたロロは当時小学生にして神童と呼ばれるほど才能に溢れていた。
 一度見たマジックは完璧に模倣し、一度教えた技術は全て何なくこなした。
 ――そんなロロにとってマジックは……
 ……つまらない
 そんなロロにある日おじいいちゃんが一つのマジックを見せてくれた。
「こっちにおいで」
「何だよお爺ちゃん、またマジックかよ」
「俺はマジシャンになんかならねぇからな」
 マジックに飽き、こ生意気な態度のロロに見せたマジックはとても地味なものだった。
 だが、それはロロがトリックを見破れなかった初めてのマジックになった。
 今でも分からないそのトリックに感銘を受けロロはマジシャンとしてやってきた。
 ロロは最後にっと一つのマジックを見せる。
 コインが移動するだけの地味なマジックだ。
「え……な、なんで」
「今のどうやったんだよ!」
 ロロはニヤリとした笑みを見せる。
「少年カバン重たそうだな」
 少年がハッとしたように自分のカバンの中身を確認する……そこにはトランプとコインが入っていて……見上げるとロロの姿は消えていた。
(了)