第31回「小説でもどうぞ」佳作 ドライバーさん ありがとう 天竜川駒
第31回結果発表
課 題
ありがとう
※応募数253編
ドライバーさん ありがとう
天竜川駒
天竜川駒
遥か彼方に地球が見えている。
宇宙船は見事に大破してしまったが、七人の乗組員たちは全員無事だったようだ。
「みんな、怪我はないか」
アリガが尋ねると、あとの六人は黙って頷いた。
火星を目指し、地球を飛び立ってから約一ヶ月。突如出現した隕石の軌道は、レーダーでも事前に察知することは不可能だった。
パイロットのサンクスとシェーシェがとっさに
機体はそのまま飛行能力を失い、やむなく直近の小惑星へと不時着したのだった。
「船長、すみません。俺が見ていながら、隕石の存在に気が付かなかったせいで……」
レーダー監視役のアサンテが、アリガに対し自身の非を詫びた。
「いやあ、決して君のせいではないさ。あれは我々の科学レベルでは、到底予測することの出来ない軌道だった」
アリガが慰めると、あとの五人も皆、首を縦に振った。
「あーあ。あたし隕石に『どうか、ぶつかりませんように』って三回お祈りしたんだけどな……」
フランス人形のような顔のメルシーが、自らの願いが届かなかったことを悔やんだ。
「おいおいメルシー、隕石は流れ星じゃないんだぜ。……それより、まいったな。ここは本当に何もないところだぜ。宇宙にも無人島ってあるんだな」
大男のグラッチェが、自嘲気味に笑う。
「へえー。それにしても、地球って本当に青いんだねえ」
最年長のスパシー婆が、実に感慨深そうに言う。還暦を迎えてから、六十の手習いで幼少期からの憧れだった宇宙飛行士を目指し、見事夢を実現させた努力家である。
「みんな、いいか。見ての通り、船は木っ端微塵だ。当然もう、あれに乗ることは出来ない。もちろん、地球と連絡を取ることも出来ない。だが、俺たちはパラシュートのおかげで助かった。各自、リュックの中に食料と飲料もある。最低でも十日は生き延びることが出来るだろう。その間に、何とか救助が来てくれることを信じて、頑張っていこうじゃないか」
アリガが皆を励まし、
「よし、じゃあ早速助けを求めるぞ。みんな、片っ端から石を集めてくれ。なるべく大きい方がいい」
と、指示を出した。
一同が近隣の石を拾い集め、それを地面に並べて大規模な【SOS】の文字を作っていく。何もないこの地で、いま七人に出来ることといえばこれくらいしかなかった。あとはひたすら、天命を待つのみだ。
それから十日が経った。
その間、何機もの宇宙船が上空を通過していったが、七人が示したSOSサインに気付いたものは皆無だった。
いよいよ、万事休すか。誰もがそう諦めかけたその時だ。
派手な電飾に彩られた円盤状の機体が、七人の上空を猛スピードで通り過ぎていった——かと思いきや、すぐに引き返してくると、アリガたちのいる小惑星に向かって垂直にゆっくりと降下し始めた。
「おい、あんたら大丈夫か?」
着地した円盤の窓が開き、中から操縦士が顔を出した。全身が灰色で、スキンヘッドの頭部のみが異様に大きい。
アリガがすぐさま、自分たちは地球人で、訳あってこの星に不時着して困っていることを伝えると、
「地球? だったらちょうど通り道だ。よかったら乗っていきな」
と、見るからに宇宙人顔の操縦士は答えた。
当然、その厚意を断る理由などあるはずもなく、七人は嬉々として円盤に乗り込むこととなった。
機内では、終始『八代亜紀』が流れていた。操縦士が言うには、以前仕事で頻繁に地球へ出入りしていた時期に偶然耳にし、以来大ファンなのだという。現在は、目下金星で行われているUFO基地建設に伴う大規模工事のため、建築資材の運搬要員として自星との間を連日往復しているとのことだ。
「俺の住んでる星はオブリガード星っていうんだけどよ、近々地球にもまた新しい海底UFO基地を造る予定らしいんだ。その時は、またしばらく通うことになると思うからよろしくな……と言っても、これはまだオフレコだけどな。お、そろそろ着陸態勢に入るぞ。各自、シートベルトを締めてくれよ」
決して地球人の目に触れてはいけないとのことで、円盤は操縦士の独断により、見はるかす大草原の中に着地した。そこがどこの国なのかは、現時点での七人には知るよしもない。
「夜が明ければ、誰かしらここを通るはずだ。そしたら、また拾ってもらえばいいさ。あ、それと。俺と出会ったことは、あんたらの記憶からすっかり消させてもらうからな。悪く思わないでくれよ」
宇宙人顔の操縦士は右手を軽く上げ、ゆっくりと円盤を浮揚させると、凄まじい速さで満天の星きらめく夜空へ向かって発進させた。
「ありがとうございました……」
瞬く間に点となり、今や流星のように夜空を這う円盤の軌道を見つめながら、七人は一様にそう呟いた。
直後、はっとして互いに顔を見合わせながら、自分たちは一体誰に感謝しているのだろう、と首を傾げるのだった。
(了)