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第32回「小説でもどうぞ」佳作 犬か猫か がみの

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第32回結果発表
課 題

選択

※応募数306編
犬か猫か 
がみの

 ある日、巨大な宇宙船が大量に地球に飛来した。昼間だった国々では、太陽の光をほとんどさえぎるかのように、空が褐色の宇宙船で埋まっていた。夜だった国々では、ちょうど満月だったが、月も星の光もすべてさえぎられた。
 宇宙船から各国政府に通達が為された。
「この惑星にひとつの要求を行う。我々が求めるものは犬か猫だ。この惑星にいるすべての犬、あるいは猫を我々に差し出せ。そうすればお前たちの命は助けよう。拒めば、この惑星もろとも破壊する」
 各国政府首脳は戸惑った。要求の意図がわからなかった。そこで、国連を中心として異星人と交渉することにした。
「あなた方の要求が理解できない。そもそも、あなた方はどこから来たのか。そして、なぜ犬か猫を要求するのか」
 国連は異星人に直接会っての交渉を要望したが、異星人は顔を合わせることを拒んだ。
「我々がどこから来たのかは、お前たちにはどうでもいいことだ。犬か猫を要求する理由もお前たちにとってはどうでもいいことだ」
 異星人の回答に怒りを覚えた常任理事国のある国が、宇宙船に対してミサイル攻撃をしかけた。しかし、ミサイルは忽然として消えてしまった。別の国は核ミサイルを使ったようだが、そのミサイルも宇宙船に当たる前に消滅した。
「お前たちは我々の力を理解してないようだ。お前たちのあの衛星を見ていろ」
 夜だった国々では、宇宙船が散開して満月が見えるようになった。一隻の宇宙船から何やらビームが月に伸びた。すると、月の真ん中に大きな穴が開いた。
 昼だった国々でも、その映像が流れた。
「この惑星の真ん中に大きな穴を開けることも我々には可能だ。それがわかったら、犬か猫かどちらかを差し出せ。まずはどちらを差し出すのか決定するまで時間をやる。一ヶ月待ってやろう」
 国連はさらなる問い合わせを続けたが、判明したのは、犬か猫か決定すればあとは異星人の科学力で勝手に回収してくれるということだけだった。地球は決定だけすればいいと言う。
 世界中で、犬派、猫派がそれぞれ集結し、侃々諤々の議論になった。むろん、どちらもゆずることはできなかった。
 犬か猫を回収した場合に、それらをどうするのか、それについては回答がなかった。食料にされるのではないかという不安が持ち上がり、犬派、猫派の争いはさらに険悪になった。
 各国で世論調査を行った結果では、どの国も犬猫それぞれの派閥が伯仲だった。多数決をとっても、国ごとに結果は異なった。そうこうしているうちに各国内部で犬派と猫派が武器をとって争うようになった。それは内乱にまでつながった。内乱はすべての国に広まり、やがて世界中で犬派と猫派それぞれが連携して世界大戦につながった。
「資本主義対共産主義、自由主義対権威主義で国々が分かれて世界大戦になる可能性があると思っていたが、まさか犬派と猫派に分かれて世界大戦とは思いもしなかった」
「もしかしたら、これが異星人のもくろみだったのかもしれないな」
 中立の人々は、暗たんたる思いで空に浮かぶ宇宙船を見つめた。
 宇宙船の中では二種族がテーブルの両側に分かれて、声高に議論を交わしていた。
「おいおい、どうするんだよ。まさか、この惑星の人間どもが戦争まで始めるなんて思いもしなかったぜ」
 そう言った異星人の顔は犬に似ていた。
「まったくだ。他の惑星では、さほどもめることもなく多数決で決定したというのに」
 そう言った異星人は猫の顔をしていた。
「まあ、この惑星では犬も猫もそれだけかわいがられているということでしょうね」
 別の異星人がそうつぶやく。
「それなのに、犬や猫が危険にさらされている。回収はどうなっている?」
「人間どもの巻き添えにならないよう、犬も猫も着実に回収しています。一週間ぐらいで完了します」
「そうか。細胞の一片はもちろん遺伝子情報も残さないようにしてくれ。こんな惑星に残すわけにはいかない」
 猫顔の異星人がそう指示する。
「今回は引き分けだな」
 犬顔の異星人が肩をすくめてぼやく。
「これはただのゲームで、犬か猫か、勝ち負けを決めてくれるだけでよかったんだが。理由を教えてやれば良かったかな」
 荒廃した地球上に、人間の姿は激減した。そして、猫と犬はすべて姿を消した。猫は猫顔の、犬は犬顔の新たな飼い主のもと、平和に暮らすことになった。
(了)