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第34回「小説でもどうぞ」落選供養作品

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編集部選!
第34回落選供養作品

Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第34回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。
そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。


【編集部より】

今回はタカハシヒロナリさんの作品を選ばせていただきました!
いやー、バンドものの小説や漫画って、いいですよね! なかでも、バンドの解散をテーマにした作品は、やっぱりエモーショナルな魅力があるなと思います。
こちらの作品も「最後」のライブの空気感と熱量が感じられる、王道の作品。数ある「最後」の中からバンドの解散を選んだ着眼点はなかなかナイスなのでは!?
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。

 

課 題

最後

最後のファン 
タカハシヒロナリ

 ライブ後、レコード会社の社長に呼び出され、次のライブで客が十人入らなかったら解散だと告げられた。おれたち三人はその足で居酒屋に向かい、黙って乾杯した。
「終わりだな、おれたち」おれは沈黙に耐えられず言った。
「今日は何人だった?」ドラムのマサヤが言った。
「五人」ベースのヒロトが言った。「次のライブで十人も入るわけない」
「どこで間違えたんだろうな」おれの言葉にマサヤが言った。「なにを?」
「おれたち、最初は違う音楽やってた。それを売れ線に変えたのは社長だ。なのに、売れてない」「だからって社長のせいに―」「わかってる。あの社長のもとで売れないならおれたちに問題があったんだ」
 おれたちは黙り込んだ。すべてが手遅れだった。おれたちには次のライブしかなかった。
 おれとヒロトとマサヤ、高校の同級生三人で結成したバンドは、バンドブームの助けもあって、運良くインディーズレーベルからデビューできた。おれたちを拾ってくれたレコード会社の社長、鹿野は有名なプロデューサーでもあり、音楽を売れ線を意識したものに変え、バンド名も「レイン」に変えた。
 だが、デモテープを作り小さなライブハウスでライブを重ねたが、客は減る一方だった。毎日練習し、チケットも手売りした。だがだめだった。何かを決定的に間違え、もうそれは取り返しがつかなかった。そして今日、鹿野から最後通告が来た。
 数日後、おれたちはスタジオに集まった。セットリスト通りに練習を始めしばらくたった頃、マサヤが言った。
「ちょっと提案があるんだけど」
 おれとヒロトは手を止めてマサヤを見た。
「次で最後だよな、おれたち。考えたんだけど、最後なら好きなことやらないか」
「例えば?」
「デビューする前にやってた音楽だよ。おれ、正直あの時がバンドやってて一番楽しかった。デビューしてからは鹿野さんの言う通りやって、それは間違いじゃなかったと思うけど、やっぱりどこか楽しくなかったと言うか…」
「そうだな」おれは言った。「どうせ最後なら、好きなことやって終わるか」
「社長に怒られるぞ」ヒロトが言った。
「黙ってやればいい。どうせ契約解除なんだから」
「よし、セットリストも変えよう」マサヤが言った。
 それからおれたちは昔の曲でセットリストを作り、リハーサルした。楽しかった。バンドをはじめた時の初期衝動が体に蘇ってきて、そうだ、これだ、とおれは思った。バンドをはじめた時、おれはずっとこんな気持だった。なにかが新しくはじまるような、眩しい朝日を見ているような。
 ライブ直前、おれたちはライブハウスの通路に置かれたベンチに座って始まるのを待っていた。チケットが何枚はけたのかは聞いていない。ライブ告知はいつも通りで「レイン」の解散ライブとは銘打っていないが、むしろ解散ライブとしたほうが客は入ったかもな―おれは自虐的にそう考えた。
「出番だ」ライブハウスの支配人がおれたちを呼んだ。お互いに言葉を交わすことなく、おれたちはステージに出た。
 ステージは眩しく、客席は暗い。おれは目を細めて客席を見た。
 客はひとりだった。三十人ほど入るスタンディングの会場に、ひとりだけぽつりと立っている。二十代くらいの女性で、所在なさげに手すりを掴んでいた。
 おれはヒロトとマサヤと目配せし、たったひとりの客に向き直った。客席の端のほうに鹿野の姿が見える。腕を組んで壁に寄りかかっている。
「えー…、今日はレインのライブに来てくれてありがとう。短いですが、最後まで楽しんでください」
 ライブに来てくれる客はほとんど顔を覚えているが、この女性に見覚えはなかった。あまり来ないのかもしれない。最後の客がそんな客とは皮肉なものだった。
「それで…」おれは鹿野の顔を見て、決心した。「実は、レインのライブはこれで最後です。今日をもっておれたち解散します。なんで、最後は自分たちの好きな音楽やります。デビュー前、この三人で初めてやった感じで」
 マサヤがカウントを始めた。ヒロトのベースのアタック音が響き、おれはギターを鳴らし歌った。
 最後の音が空中に吸い込まれると、一瞬沈黙が漂った。女性は目を丸くしていたが、突然拍手した。大きな拍手ががらんとした会場に響く。
「すごい!すごくよかった!!」
「あ、どうも…」
「あの、今日初めて来たんですけど、すごくいいですね!次のライブはいつですか?」
「ちょっと待って。初めて来たの?」
「はい」女性はあっけらかんと言った。「友だちにドタキャンされて、時間が空いたんで」女性は続けた。「それで次のライブは?」
「あー、最初に言ったけど、今日でおれたち解散なんです」「うそ。曲、すごく良かったのに」
「ありがとう。実はいつもやってる曲とは違って―」鹿野の顔が目に入る。暗くて表情は読めない。「デビューするまではこういう曲やってたんだ。『リバー』ってバンド名で」
「絶対今のほうがいいですよ。人気出ます。続けたほうがいいです」
 おれは今度こそ鹿野をしっかりと見た。鹿野は肩をすくめると会場を出ていった。
 おれはヒロトとマサヤを見た。ふたりもどうしたら良いかわからないようだったが、目は輝いていた。おれは女性を振り返った。
「じゃあ、レインは解散しますが、リバー再結成です。どうなるかわかんないけど」
「良いと思います!じゃあ、私がリバーの最初のファンってことで」
 女性が笑った。
(了)