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※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。

はじめに:小説を書く「行きつ戻りつ」ルートマップ

小説を完成させるには、どんな手順を踏んでいけばいいでしょうか。
最長ルートと最短ルートを図にしてみました。

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行きつ戻りつするのが、小説の執筆

小説を書く最短の手順は、ざっくりあらすじを考えたらすぐに執筆に入り、書き上がったら見直しをして終わりというパターン。上図で言うと、「4 ストーリー/8 執筆/9 推敲」という順番。
ごく短い作品ならこれでもいいが、長めのものを書くと、たいていは道に迷う。いきなり書き出すというのは地図を持たずに森に入るようなものだから、どの方向が出口(結末)かわからなくなるのだ。そこでプロットが必要になる。
また、書いていて、作品の舞台となった世界は実際にはどうなんだろうと書きあぐねることもある。そのような場合は資料にあたったり、人から話を聞いたりする。つまり、取材である。
さらに、書き上がったあとで、もっとユニークなキャラにしておけばよかった、いろんな形式を知っていれば最適なものが選べた、と後悔しないようにするとなると、事前にやっておきたい手順が増える。
しかし、考えてばかりでは始まらないので、どこかで書き始めることになるが、書く前に考えられることは考え尽くす。それでだめなら前の手順に戻ってください。

一人称と三人称

小説には、一人称小説と三人称小説がある。
一人称小説は、「僕は」「私は」のように、主人公自身が語り手となって話を進める。主人公は役者兼ナレーターである。
主人公はカメラマンも兼ねるが、このカメラの役目をするのは、主人公の五感(主に目)と内心。
〈汽車が止まった。〉〈悲しいほど美しい声だった。〉とあったら、それは主人公がそういう情景を見たり感じたりしたということ。
一人称は作文のようで親しみがあり、〈僕〉が語っているので実話を告白したような印象も出るが、主人公と距離が取りにくく、客観的に語りにくい。短編ならいいが、長編になると一人称は難しい。
三人称小説は、「彼は」 「島村は」のように、作中にはいない誰かが客観的に語っていく形式。この語り手は誰かわからず、いないかのように扱われることも多い。
三人称小説は、一人の人物の目をカメラ代わりに語っていく一人称的な三人称と、複数の人物の心の中に自在に入り込んだり、作品を外側から解説したりする客観三人称とがあるが、書き慣れない人には一人称的な三人称がお勧め。

キャラクターの造形

魅力的で個性的なキャラクターとはどういうことか。これは小説の読者が主人公に何を求めているかを考えるとわかりやすい。
小説の読者は、自分のいる現実から離れ、どこか別の世界に連れていってくれることを望みます。
だから、現実の世界ではありふれた真面目で優しい人。これはだめ。実生活では好まれても、主人公としては弱い。
真面目で優しい路線で行くなら、あり得ないぐらい真面目で優しくし、結果、常人にはできないことをやってのけるようにする。
読者は、自分にできないことを代わりに実現してくれる主人公に魅力を感じる。
ただ、それだけではスーパーマンのようなので、必ず欠点を持たせる。ギャップ萌えという言葉があるが、あんなにすごい人なのに、あんな弱点があるというふうにすると、読者は感情移入しやすい。
主要人物はこうした性格と、性格を形成した過去(生い立ちや出来事)を詳しく設定しておく。
脇役はそこまで作り込む必要はないが、チビとかスキンヘッドとか、何かわかりやすい特徴を一点与えておくとよい。

目に浮かぶ文章

目に浮かぶ文章という言い方がある。情景をうまく再現していて、ありありと感じが伝わってくる文章のこと。
では、どうすれば目に浮かぶ文章になるか。手っ取り早いのは、似たものを借りてきて、比喩という方法で表現する方法。
ただし、比喩は諸刃の刃で、うまくやると効果てきめんだが、下手にやるとやらなかったほうがよかったという事態に陥る。
目に浮かぶ文章と対極にあるのは、抽象的文章で、そうならないためにはできるだけ頭に情景を浮かべ、それを精緻に写生する。
では、抽象的な情景の場合はどうしたらいいか。たとえば、「誰もいない」ということを目に浮かぶ文章にするには?
「中を覗き込んだのだが、なっちゃんの姿はどこにもない。テーブルの上に、半分ほどカルピスが入ったコップが、まるで子供の飲みかけのように残されていた」(辻村深月「十円参り」)
ないことを言うために、あるものを書く。「どこにもない」はイメージしにくいが、「半分ほどカルピスが入ったコップ」は視覚化できるから目に浮かぶ。

ビギナー脱出講座:脱ビギナー20か条

ここでは、小説の初心者や、まだ書きなれない人がやってしまいがちなことを挙げてみます。書き出す前、書いているとき、書いたあとのチェックリストとして活用しよう。

文章の基本編

1.表記は堅すぎないか

「である」のような肩肘張った書き方、文語調、美文調、または「ございます」を「御座います」と書くなど、表記は堅すぎないか。

2.言いたいことが直接語られてしまっていないか

人間について、世の中について、それを作者の弁として書いてはいないか。作者の意見・思想・感慨のたぐいは、物語を通して書く。

3.調べたことを書きすぎていないか

下調べしたこと、詳しく知っていることほど詳しく書きたくなる。小説ではなく資料集のようになっていないかチェック。

4.説明不足はないか

主人公の性別、年齢、いつ、どこでといった基本情報がないと、読み手は戸惑う。客観的に自作を見て、必要な説明を書き漏らさない。

5.話があらすじ化していないか

縦糸がストーリーだとすると、横糸は場面の説明や描写。横糸が多いと進行が遅く、縦糸が多いと筋だけのダイジェスト版のような小説になる。縦糸、横糸のバランスに注意。

6.誰が言ったセリフかわかるか

作者には自明でも、読み手には誰が言ったセリフかわからないということにならないよう注意!

7.セリフは不自然ではないか

老人だから「そうじゃ」とか、女性だから「そうだわ」とか紋切りに書かない。話したように書く。

表現の工夫編

8.イメージしやすい表現か

目を働かせないで情景を書いたり、頭の中に情景を浮かべてそれを正確に写し取ろうという意識がないと、抽象的でぼんやりした場面になる。

9.ディテールは書かれているか

リアリティーは細部に宿る。たとえば、単に老人といってもどんな老人かわからない。どんな老人かわからせるには、老人であることを象徴する細部を書く。

10.ディテールは細かすぎないか

頭にある映像をすべて写し取ろうとして詳しく書き過ぎるパターン。特に服装の説明などは、過度にだらだら書いても疲れるだけ。

11.リアリティーはあるか

現実に起こりそうな話か、あっても不思議ではないと思える話かということ。現実を忠実になぞり、その先に一つだけ嘘を置くというようにすると本当っぽい話になる。

12.回想は長くないか

何かするごとに過去を振り返っていると、話が前に進まない。回想は適当な長さにする。

13.時間軸は錯綜していないか

いつ回想に入り、いつ明けたのかがわからないと、読み手が物語の中で迷子になる。あるシーンで回想に入ったら、またそのシーンに戻る。すると回想が明けたことがわかる。

物語の設計編

14.ご都合主義ではないか

作者やストーリー上の都合で人物を動かさない。「老人と美少女がいきなり恋に」というのがご都合主義の典型。恋を芽生えさせるなら、それが必然という設定の工夫をする。

15.人物は類型的ではないか

いかにも善人、いかにも悪人という描き方になっていないか。生身の人間はどちらか一方ということはない。また、「美女は心も美しい」といったような理想像を盛り込んだ人物も嘘くさい。

16.話は平板ではないか

話が展開しなかったり、大した出来事も起きないと、話が平板になり、面白くならない。

17.辻褄はあっているか

前半では家族旅行だったのが、後半では一人旅だったと書いてあるなど、話が矛盾していないか確認。

18.扱う時間は枚数とあっているか

短編で大河ドラマのような大きな話を書こうとしていないかなど、枚数と話の大きさのバランスが取れているかチェック。

19.孤立したシーンはないか

どのシーンにも連動せず、そこを削っても話が成り立つという機能していない箇所がないか確認。

20.視点はぶれていないか

一元視点で始まったのに、主人公の知らないこと、語れないこと、主人公以外の人物の内心が書かれているなど、視点のブレがないか注意。

 

※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。