「死ぬまでに行きたい海」翻訳の名手が贈る、心揺さぶる不思議なエッセイ集
人気翻訳家として知られる岸本佐知子氏が、新たな一面を見せてくれる。1月29日、新潮文庫から刊行される『死ぬまでに行きたい海』は、岸本氏の鮮やかな言葉と写真で綴られたエッセイ集だ。雑誌「MONKEY」での連載を基にしたこの作品は、出不精を自称する著者が、スケッチ代わりに撮った写真とともに、場所の記憶を巡る旅を読者に提供する。
ルシア・ベルリンやショーン・タンなど、数々の名作を日本語に翻訳してきた岸本氏。しかし、その才能はエッセイにも存分に発揮されている。『ねにもつタイプ』や『なんらかの事情』などの著書で、すでにその腕前を証明済みだ。
本書では、富士山の青と白の境界線、鋸南での夏の終わり、赤坂のバブル期の夜、そして父の故郷である丹波篠山など、著者の心に刻まれた様々な場所が描かれる。それらは単なる旅の記録ではない。岸本氏は、人々の些細な記憶が失われていくことへの切なさを、独特の視点で表現する。
「この世に生きたすべての人の、言語化も記録もされない、本人すら忘れてしまっているような些細な記憶。そういうものが、その人の退場とともに失われてしまうということが、私には苦しくて仕方がない」と岸本氏は語る。この言葉には、人生の儚さと、それでも残したい思いが凝縮されている。
本書の魅力は、岸本氏の繊細な観察眼と、それを表現する巧みな言葉遣いだけではない。著者自身が撮影した写真も、エッセイに深みを与える重要な要素となっている。言葉と画像が織りなす世界は、読者を思わぬ感情の旅へと誘うだろう。
翻訳の名手が贈る、少し不思議なエッセイ集。それは、懐かしさと新鮮さが入り混じる風景の数々を通じて、私たちの心を揺さぶる。岸本佐知子氏の『死ぬまでに行きたい海』は、日常の中に潜む特別な瞬間を捉えた、珠玉の一冊となりそうだ。
出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001876.000047877.html