第43回「小説でもどうぞ」落選供養作品


編集部選!
第43回落選供養作品
第43回落選供養作品
Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第43回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。
そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。
【編集部より】
今回はこきくさんの作品を選ばせていただきました!
おふくろに先立たれたおやじの心配をする主人公は、一緒に暮らそうと提案するも断られてしまう。
家事を全ておふくろに任せきりだったおやじは、一人で暮らせるのだろうか。
実家を訪ねると、そこには予想外の風景が広がっていて……?!
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。
また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。
課 題
依存
こきく
おやじは、家事はすべておふくろまかせで、釣りや将棋などの好きなことばかりして過ごしていた。
おふくろもおやじを甘やかしていて、おやじが釣りに行くと言えば朝早く起きて弁当を作っては持たせていた。
息子のオレからみても、なんでそんなにおやじにつくすのか不思議だった。
ま、二人で仲良く生活してくれれば、オレは盆や正月に娘たちの顔を見せに帰ればいいだけなので楽だった。
しかし、そんな平和な日々は、ある日、突然終わった。
おふくろが買い物中に脳卒中で倒れて病院へ救急搬送され、そのまま息を引き取ったのだ。
――カミさんも仕事をしているし、おやじの面倒はどうしようか。家でみるか、老人ホームへ入ってもらおうか……。
おふくろの葬儀後、おやじに聞いてみた。
「ウチに来ないか? おやじの面倒くらいみれるからさ」
「母さんと一緒に暮らしたこの家で最期までいたいと思ってる」
「そんなこと言ったって、今まで家事をなに一つやってこなかったんだから、おやじ一人じゃ生活できないだろ?」
「うるさい、もう帰れ! ワシは子供の世話になんかならないからな」
おやじが怒り出して話し合いにならないので、今日のところは帰ることにした。
――食事は作れるのか、食後の薬は忘れずに飲めるのか? ゴミだしや風呂掃除……。すべておふくろまかせだったおやじが、一人で生きていけるようにはとてもじゃないけど思えない。
家族と一緒に帰宅をしてベッドに入ったが、なかなか眠れなかった。
翌日、朝早く目が覚めた。オレは、6歳の下の娘を連れて車を走らせた。
実家は、自宅から車で2時間ほどのところにある。
「じいじ~、今日もきたよ~」
鍵を開けて玄関に入ると、娘のあやかが言った。
いつもなら「おぉ、あやちゃ~ん、よくきたね~」と、目を細めて玄関まで迎えにくるおやじが出てこない……。
――もしかして……、昨日ものすごく怒ってたから、頭に血がのぼっておやじまでも逝ってしまったってことはないよな……。
あせる気持ちを抑えて靴をそろえながら気を落ち着かせていると、奥の方から男女の笑い声が聞こえてきた。
――よかった……。とりあえず無事らしい。しかし、どうして盛り上がっているんだ?
オレとあやかがリビングへ行くと、数人のお年寄りが集まっていた。
まぜご飯や味噌汁を作ったり、将棋をさしたりしていた。
「あ、すみません。ご迷惑をおかけしておりま……」
「まぁ、剛(つよし)くんじゃないの。たいへんだったわねぇ」
オレの幼なじみのお母さんが話しかけてきた。
「おばさん、ありがとうございます」
「もう良男ちゃんたら、剛くんのとこには行かないって言い張ったんだって? この先どうなるんだろうって心配したでしょう?」
「え、えぇ……」
「大丈夫よ。ここは友達同士、みんなで協力してやっていくから。ねぇ、良男ちゃん」
「息子の前で良男ちゃんはやめてくれよ」
テーブルで将棋をさしていたおやじが言った。
「そりゃはずかしいって? アハハハ……」
おやじと将棋をしていたおじいさんが茶化した。
「アハハハハ……」
お年寄りたちがいっせいに笑った。おやじも楽しそうに笑っている。
「でも父はなにもできませんし、ご迷惑ではありませんか?」
「そんなことないわよ。良男ちゃんは昔からムードメーカーで、カラオケも上手」
「腹踊りをやらせたらピカイチだもんな」
「そうそう!」
みんなが口々に言い出した。
――はずかしい、人の役に立ってないじゃないか……。
「良男ちゃんはね、みんなの調整役なのよ」
おばさんが話を続けた。
「調整役?」
「そうよ、もめごとがあるたびにお互いの家へ話を聞きにいってくれて……。そのおかげで誤解が解けたことがなんども。ほんと、みんな良男ちゃんには感謝しているの」
「え、そうなんですか?」
「だから、今度は私たちがお返しをする番よ」
「え?」
「ここでの生活が困らないように、私たちで支えていくからね」
「それじゃ、みなさんに依存して生きていくってことじゃないですか」
「いやいや、利用できるものは利用しないとね。みんなで得意なものをいかしていけばいいのよ」
「そうだよ。この歳になってまで、苦手なことを無理してすることはないよ」
さっきのおじいさんも話に入ってきた。
「でも、みなさんだって、徐々にお体がいうことをきかなくなっていくんじゃ……」
「なに言ってるの。こうやって人の役に立っているって思うと、張り合いがあるっていうものよ。良男ちゃんだって将棋をやらせたらすごいんだから! みんなで、良男ちゃんに絶対に勝つんだーって研究するから、頭の体操になるわ」
「は、はあ……」
「それに、最期までここに住むって決めたことは、すごいことだと思わない? 子供に頼らずに生きていくのって、ある意味、自立した生活よね?」
「え、まぁ……」
――みんなに依存することで、オレからは自立できるっていうことなのか……。
「剛、ワシのことは心配ないから。できるだけ行政サービスも使ってやっていくし」
今まで黙っていたおやじが、急にしゃべった。
「だから大丈夫よ!」
おばさんがほほえんだ。
「あ、ありがとうございます」
みんな、とてもいきいきとしていた。おやじにはおやじの生活があるわけだし、先のことは分からないが、オレもここの人たちを頼っておやじの一人暮らしを見守っていこうと思い直した。
(了)