第2回「おい・おい」佳作 暑中見舞いに、じゃがいもはいかが? 梅沢海



暑中お見舞いに、じゃがいもはいかが?
梅沢海(東京都・73歳)
こんなに暑い日は出かけたくない、日焼けするし、億劫だ。
冷蔵庫を覗いて夕飯を考える。そうだカレーがいい。
冷凍室には牛肉があり、玉ねぎ、人参もある。私は肉や野菜を可能な限り、冷凍保存にする。
玉ねぎは半月切りにして冷凍すると繊維が壊れて甘みが増す。人参は賽の目切りにしてあるので料理しやすい。すべてを解凍して炒めて煮込む。
簡単調理だ。空いた時間は涼しい部屋でゆっくりと推理小説を読む。至福のサマータイムだ。
世の中は便利になったものだ。あとは、インターネットのネットスーパーで注文したじゃがいもが届いたら、大きめに切って入れる。崩れるほど煮込まないのが好みだ。じゃがいもだけは冷凍しない。スカスカになって美味しくないからそのつど買って入れる。
ところが二時間経って気がついた。注文した商品が届かない。
どうしたんだろう、もう材料は煮込み終わっているのに。
あれ、スマホが鳴っている。姪っ子からだ。
「じゃがいもをたくさんありがとう。でもどうして?」
私は驚いてネット注文履歴を見た。
やってしまった、送り先が姪っ子の住所だった。しかも、じゃがいも五個入りを、五袋のところをクリックしていた。
なんてことを。歳だと思われるからパソコンの操作ミスをしたと言いたくない。
「暑中見舞い。肉じゃがにでもして」
「こんなにたくさん……。冷蔵庫に入らないし、置いといたら芽がでちゃうよ」
「そ、それは芽出たい」
私の駄洒落に苦笑して電話が切れた。操作ミスはばれている。嘘が見え見えだ。だって、暑中見舞いでスーパーのじゃがいもを送る人なんていないもの。
なぜ間違えたのか?
そういえばネットで彼女に誕生日プレゼントを送ったとき、その住所を残しておいたのを思い出した。確認したつもりなのに、間違えている。最近こういう失敗が増えている。ああ、もう嫌になっちゃう。
落ち込んでいる場合じゃない。今の問題はじゃがいもがここにないこと。
仕方ないので八百屋にじゃがいもを買いに行った。横着しないで最初から買いに行くべきだった。
「これ一袋ください」
「奥さん、サービスだ、もう一袋持っていって」
「えぇっ、そんな」
「残りの一袋だ。いいから、持っていきな」
礼を言って渋々、買い物袋に入れた。サービスと言われて断れない、私の心の卑しさ。このじゃがいもたちもきっと冷蔵庫の野菜室で発芽するだろう。
じゃがいもだけでなく、私の頭もお芽出たいと思った。
(了)