第2回「おい・おい」佳作 アツイ夏の買い物 佐々木祥子



アツイ夏の買い物
佐々木祥子(福岡県・38歳)
暑い、暑すぎる……。アイスを食べる以外にこの暑さに打ち勝つ術はない。もはや溶けかけの私は、夫に声をかけた。
「お願い……アイス買ってきて。スーパーカップ」
アイスといえばスーパーカップ。大容量でかつ抜群においしい。
「いいよ! 何味がいいの?」
夫は快諾し、ソファからすぐに腰をあげた。
「何味でもいい」
暑さで思考が回らない。バニラでも抹茶でも苺でも何でもいい。全部大歓迎! それに、味指定までして夫にこれ以上負担をかけるわけにもいくまい。
「わかった。任せて」
ためらいなく灼熱の外へと飛び出していった優しい夫。一瞬開いた玄関ドアの隙間から、狂気の沙汰の蝉の声と尖った陽射しが差し込む。
しばらくして夫が意気揚々と帰ってきた。
「ただいま! 買ってきたよ!」
ほかにも買い込んできたのか、やたらどでかい袋を携え、無事帰還した夫。その顔は少年のようだった。夏空並みに眩しい。
夫はテーブルに戦利品を並べていく。ゴロゴロとまず取り出されたのはカップラーメン。大量だ。夫はカップ麺もちょくちょく食べる。
「全種類買い占めた。豚骨も醤油も味噌も全部あるよ」
カップラーメンを取り出し終えた夫は、空になった袋を折り畳み、どうだと言わんばかりに私の顔を見つめる。
「え? で、スーパーカップは?」
「え?」
「え?」
私は知らなかった。〝スーパーカップ〟という名の商品にはアイスもあるが、カップラーメンもあるということを。
夫が「何味がいい?」と聞いてくれたときに「バニラ」とでも答えておけば「豚骨」にすり替わるなんてことはおきなかっただろう。あと少しの意思疎通を怠ったことをちらりと後悔しつつも、このしょうもない事態に夫婦でげらげら笑い合い、ま、これはこれでよかったと思えた。
「にしてもこんなに大量にどうするの」
「ごめんごめん」
「仕方ない、今日のお昼はカップラーメン食べよっか!」
「いいね、そうしよう!」
さっそく率先して湯を沸かしてくれる夫。アイスで涼むつもりが、熱々汁をすする羽目になり、ますます汗が垂れる。暑い、暑すぎる……。だが、なぜだろう、それでいてこの爽やかな気持ちは。
「ね、夕方涼しくなったらアイス買いに行こっか? 今度は一緒にね」
「いいね、アイスも全種類買い占めよう」
早くもウキウキしている様子の夫。
暑さに負けない私たちの熱い夏が過ぎていく。
(了)