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第2回「おい・おい」選外佳作 日々是口実 ベッカム隊長

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おい・おい
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結果発表
<選外佳作>

日日是口実
ベッカム隊長(群馬県・63歳)

 

 買い物に行こうとして、忘れてはいけないのでメモ用紙に品を書き込む。
 これで良し、と思って買い物に出かけたら、そのメモ用紙を忘れてきていたことに気がついた。
 うぅ~と思ったけど、何を買いに来たかわかっているから大丈夫と思い、売り場に入った。
 野菜コーナーから鮮魚に肉と見てまわる。良い品揃えだ。さて引き返しながら買っていくとするか。
 この豚バラはお好み焼きに持ってこいだな、豚の挽き肉で餃子を作ったら旨そうだ。おっ、鶏のモモ肉が安いなぁ、カレーに入れると良いコクが出るぞ。魚は……いい鰺がある、こいつでナメロウを作ったら……タコかぁ、お好み焼きに入れる具としたら絶品だ。野菜はカレーなんだから玉ねぎ、人参、じゃがいも、なすび、そうだ! 椎茸をみじん切りにして入れるとコクがまた重層的になるのだった、マイタケも香りが良いな、おや!? 春菊、お好み焼きに入れると味変がしてなかなかなのだ、キャベツが安いなぁ買いだなぁ、細いモヤシがあるじゃないか、広島風なら麺だな、でも関西風ならもうちょっと魚介がいるけどどうしよう?? いか、ホタテ、エビ、卵はあるな、大葉といか天と紅ショウガ、関西風の時はもうちょっと分厚い豚でもええなぁ、こんなもんかなぁ、あっ、カレーのルーだな、中辛と辛口と二社のブレンド、お好み焼きの粉とお好み焼きソース、昆布の粉、鰹の粉、青のりもなかったようだから……生姜と大蒜もこの際買っとけ、あとは……!?
 レジで会計したらかなりな額になった。まぁいい。それらを袋に詰めて家に戻った。
「買って来たよぉ」
「ご苦労様」
 キッチンに入って品を順々に取り出して行く。
 妻がキョトンとした顔をしてこっちを見ている。
「今日、ソーメンじゃなかった??」
「!」
 そうだった! ソーメンだった! ソーメンの漬け汁をいろんなバージョン作って食べることになっていた。
「買い物に行ったら気持ちが変わった」
「……」
「カレーが食べたくなった」
「でも、お好み焼きの材料が」
「お好み焼きは明日食べることにした」
「餃子の皮は??」
「あ・あ・明後日に」
 コントの言い訳みたいなセリフが口から飛び出した。素直に何を買いに来たのか忘れてしまったんだ、とは言えなかった。
 カレーでもお好み焼きでも餃子でもよかった。
 妻と一緒にソーメンを十束、その後買いに行った。
「おい、ホンマにソーメンやった??」
 とは聞けなかった。
 日日是口実。
(了)