【第4回】 ヤマモトショウ 創作はいつまで続くのか FRUITS ZIPPER「かがみ」も勉強から生まれた


2015年の解散後はソングライターとしてでんぱ組.inc、私立恵比寿中学、ばってん少女隊、きゅるりんってしてみて ら多数のアーティストに詞や曲を提供している。
FRUITS ZIPPERに書き下ろした楽曲「わたしの一番かわいいところ」はTikTokで30億回再生を記録し、MUSIC AWARDS JAPANの最優秀アイドルカルチャー楽曲賞を受賞。
2024年2月にはミステリー小説『そしてレコードはまわる』、2025年8月にはエッセー集『歌う言葉 考える音 世界で一番かわいい哲学的音楽論』を上梓。
「日本版グラミー賞」ことMUSIC AWARDS JAPANや日本レコード大賞を受賞した、FRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」を始め、数々のかわいいヒット曲を生み出している、いま大注目のソングライター、ヤマモトショウさん。
先日発表された第67回 日本レコード大賞で優秀作品賞を受賞したFRUITS ZIPPER「かがみ」も手掛けたヤマモトさんの思考を作り上げたのが勉強。東大出身のインテリとしても知られるヤマモトさんの考える、勉強と創作の類似性とは? (編集部)
第4回 「かがみ」も勉強から生まれたFRUITS ZIPPER「かがみ」、高校生時代に原点が!?
この話もさすがにそろそろ高校時代から脱出したいと思っているのだが、それが必ずしも簡単ではないのは、結局自分を支えるものの多くの部分が10代の頃に形成されたものだからなのかもしれない。
先日、今年の「日本レコード大賞」が発表され、私が作詞作曲編曲したFRUITS ZIPPER「かがみ」が、優秀作品賞を受賞したのだが、実は、「鏡」というものについても高校生の頃にかなり真剣に考えたことがあった。高校生くらいになるとさすがに鏡にむかう時間がそれよりも増えるわけだが、しかしどうも思った方に手がうごかなかったりする。
そもそも、鏡は左右が反転しているというが本当にそうなのだろうか、とその時疑問に思うことになった。試しに鏡の上に乗ってみると、左右は反対になっていない気がする。むしろ、普通に正面に見ているときとかわるのは、上下の関係だ。ということは、正面に見ていたときに逆になっていたのは左右ではなくて、前後なのではないか、と考えた。前後が逆になり、上下が変わらないので、左右が入れ替わっているように見えるというわけだ。とりあえず数学というか図形的にはそれで説明できそうだと感じた。それでもまだ、心理的には奇妙な感じがする。それにそもそもなぜ「前後が逆になるのか」ということに対しての答えは出ていない。
といったような感じで、考え始めればいくらでも疑問が湧いてきそうな、とても奇妙で、でも魅力的な対象だった。そして、それに答えようとすることで、さまざまなことを勉強できて、それが今は歌詞や曲として表現されている。
最近は中高生に講義をすることも多いが、学生時代に何をしたらいいか、ということを聞かれた時、正味な話「勉強」が一番だと答えることになる。大体大人になるとみんな「勉強」をしたくなるものだ。何かしらの「教室」は大人で溢れているし、それは例えばウェブ上のオンラインサロンにしてもそうだろう。大人になるとお金を払ってでも勉強をしたくなるものだが、子供の頃というのはそれを多くの場合無償で受けられるし、しかもそれをやっているだけで十分だ、ともいえる。
数学の面白さは創作の面白さと似ている
こういった消極的な面に加えて、やはり勉強というのはそれなりに面白い。今回は少し学生時代における「勉強」というものの話をしてみたいと思う。(これは「学問」だとか「研究」というようなより高度な学術的な話ではないことを事前に注意しておきたい。)
さて、高校生の頃自分が一番面白いと思った科目は「数学」だった。(実際に、その後に東京大学に進学し、数学科に進むことになる)なぜかといえば、「最小限のルールで思考力を問うゲーム」に思えたからである。高校生の数学というのは、計算ルールが決まっている中で決まった問題を解くということである種のパズルのようなものだ。これは純粋なゲーム的面白さがある。もちろん、これらで得た計算力や知識、発想は他の分野で役にたつこともあるが、少なくとも私がその時点で思っていたのは「問題を解くのが面白い」ということに尽きる。
数学の問題を解くのは、いくつかの計算ルールの中で、さらにより合理的で効率的な方法や、あるいは「美しい」と言われる道を見つけることでもある。基本的に効率的であるほど「美しい」ともいえるが、必ずしもそれだけではなく、より数学や論理の本質をついたような素晴らしい発想が現れることがある。私が高校生の頃に面白いと思った問題を紹介しよう。