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【『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成さんインタビュー】伏線の狙撃手に学ぶ! 就活ミステリー誕生秘話と新人賞受賞のヒント

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あっと驚く鮮やかな伏線回収で知られ、話題の新刊『六人の嘘つきな大学生』が広い世代に読まれている浅倉秋成さん。新人賞の受賞&デビューから9年。その道のりと小説への思いを聞いた。

ミステリーに寄り添ったらこうなった

——『六人の噓つきな大学生』は、内定をめぐる心理戦と驚きの展開に心を奪われました。今なぜ就活をテーマに?

編集者さん側からご提案があったというのが正直なところです。これまで青春小説を書かせてもらってきた中で、自分としても「次は大学生かな」という思いがあって。一昨年の『教室が、ひとりになるまで』は高校生を題材にしたもので、そのあと刊行された『九度目の十八歳を迎えた君と』は、社会人になった主人公が高校生活を回想する話でした。大学生の最後の節目としての就職活動というのは、僕自身の「青春からの脱却」という意味も含めて、意義深いテーマだったなと思います。

——「就活生は読んだほうがいい」「いや、読まないほうがいい」と意見が分かれるようですが。

これを読めば就活が有利に進む!というタイプの話ではないと思うので、なんとも言いがたいところがありますよね(笑)。世の中って本当に運の要素がとても大きいと感じますが、そういうことを就活生がわかって臨んだほうがいいのかどうか。どちらかというと、失敗して打ちひしがれている人には、「本質的な問題があなたにあったわけじゃないんだよ」というメッセージとして、心の支えになったかなとは思いますね。

——就活生の心理やIT企業のリアルな描写は実体験ですか。

僕もまさしく登場人物たちと同じ2011年に就職活動をしていました。当時感じたことや自分たちの混乱加減みたいなものは、間違いなく実体験がもとになっていますね。ただIT企業については完全に縁がなかったので、調査して「ミクシィ+LINE」のような会社を勝手に作りました。

——ミステリーというより新ジャンルの小説と感じました。

子どものころからジャンルレスなものが好きだったんです。小説でもアニメでも映画でも、あとから「こういうジャンルだったんだな」とわかるような。今回の小説は、そういうノンジャンルでしか物語を作れない自分が、精一杯ミステリーに寄り添ったらこうなった、というもの。なのでミステリーっぽくないと言われるのは、その通りだなと思いますね。

——心理戦の合間にインタビューが挿入されるなど、これまでにない挑戦をしていますね。

インタビュー形式で小説を書くのはひとつの挑戦でしたし、これまでの小説に必ず登場していた、魔法や超能力などの超常現象をやめたということもありますね。リアリティーレベルを高めに設定して、超常現象が存在しない中で物語を紡いだのは、初めての挑戦だったと思います。

——人間のダークな部分も描かれていますが、イヤミスではなく、肯定的な思いを抱けました。

日常はそんなに楽しいことばかりではないと思うので、小説の中でつらい現実を追体験させる形は目指さないというのが根底にありますね。人生はつらくて苦しくて寂しくてやるせないことばかりだけれども、それでも明日も生きていかなければいけないから、そうなったときに前を向ける作品のほうが、個人的には書く意義があるかなと思っています。

シンプルなメッセージを物語に乗せたい

——ウェブ上で書かれていたエッセイにも、小説に通じる面白さを感じました。

どう煮ても焼いても小説には使えないものを処分しているフシはありますね(笑)。

小説にしたいのは、普遍的だけどなかなか難しいよね、という単純な感情です。今回の小説も、言ってしまえば、「人間って多面的だよね」というひとことなんですが、そのことをエッセイにしても、ほどほどの触り方にしかならないかなと。物語に乗せることで重みも出るし、シンプルなメッセージこそ、実は小説向きかなと思っています。

——「伏線の狙撃手」と言われるほど伏線の回収が見事です。

根がビビリなので、先に全部決めてからじゃないと書けないんですね。キャラクターもセリフも、設計図を用意してから書き始めるので、俯瞰して見ることで「あそこもここもつなげられるな」というのは容易にできる。

逆に「キャラクターが勝手に動き出して、よもやこんな結末になるとは!」という経験は僕にはないんですが。

物語がきっちり最高のラストシーンを迎えるのが好きなので、そういう物語を作ろうという思いから綿密なプロットを準備するようになったのも事実ですし、ビビリなので綿密なプロットを作っていたら、いいラストシーンに向けて書きやすくなったというのも事実。その両方がありますね。

——いきなりその世界に入っていける「つかみ」の秘訣は?

僕は子どもの頃から「本が好きでたくさん読める」タイプではなかったんですね。本を読まないからこそ「文学的に評価されているものを読むべき」というおかしな観念にとらわれて、いきなり夏目漱石を読もうとして「やっぱり難しいや」と(笑)。呪縛が解けたのは大学生のときで、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』を読んで「あ、読めるんだ」というプリミティブな感動に目覚めたんです。

本って、YouTubeやTikTok、Twitterなど、開始30秒で楽しいメディアとは、引き寄せる力が根本的に違うじゃないですか。新しい本を読み始めるって、実は正直、億劫だと思うんですね。その障壁を自分が感じていたからこそ、最初の1ページを読んで「やっぱり本を読むのはつらい」とは絶対に思われたくないんですよ。かつての僕のように諦める人がいてほしくないので、入り口はわかりやすくしようと思っています。

負けたくないと頑張った、文芸創作講座

——作家を志したきっかけは?

もともとは漫画家になりたかったんですが、シリアスな話に画力が追いつかないという壁にぶつかって。

大学3年のとき、文芸創作講座という授業があって、自分も書いてみたら、書けなくはないぞと。先生は三神弘さんという純文学系の作家で、提出した課題小説を、名前を消して全員に再配布して、作品の良い部分悪い部分を評価していくスタイルでした。

文章が上手な人が山ほどいることにショックも受けましたが、文学の深さに興味が湧き、この世界でやってみたいと思ったんです。漫画よりも文章のほうが、自分が表現したいことに高い次元でアプローチできることにも気づいて。ここで負けたくないという思いで頑張った経験は大きいですね。

——その後、講談社BOX新人賞に応募したのは、どんな理由からだったのですか。

好きなアニメ作品の原作が出たのがこの賞でした。一般文芸とライトノベルの中間に位置する賞で、今なら講談社タイガや新潮文庫nexあたりかなと思います。

当時、バイトしていた書店で、入荷した公募ガイドの表紙に「ライトノベルっていう手もある」とあって、自分が手にとるべき号が来たと思ったんです(笑)。「ライトノベル、どうです?」と提案する感じにそそられて。「オレにささやきかけてくれてる」と思い(笑)、気持ちを高めていったという流れですね。

大きな賞を目指すことは意味がある

——初めての応募で受賞を?

最初の1作は玉砕しました。講談社BOX新人賞は講評がもらえるのですが、「文章がヘタ」って書
いてあったんですよ。「こいつ、ほんとに読んだのか」と思って読み直したら確かにひどい文章だっ
た。そこからちゃんと練習して、4年生のとき、1年間かけて2作、『ノワール・レヴナント』と『フラッガーの方程式』を書きました。

——応募作が2作とも本になったなんて素晴らしい!

ありがたい話でしたが、デビュー後は苦労しました。今考えると、光のあたり方が違っていたのかな。

——光のあたり方と言うと、デビューしたときに、どのように脚光を浴びるかということですか

鮎川哲也賞の授賞式にお邪魔したときには度肝を抜かれました。「新人がデビューしただけでこんなパーティーが開かれていたんだ、僕の知らないところで」と(笑)。

僕がデビューしたときはホームページで紹介されただけだったし、ジャンルレスなレーベルの魅力を生かそうと、タイトルもわかりにくいものにしてしまった。苦戦を強いられたのは今考えれば必然で、これから新人賞に応募する人はその辺を甘く考えないほうがいいと思いますね。面白いものを書けば売れるとずっと思っていましたが、世の中には運もあるし、光のあたり方の違いもあります。

——『六人の嘘つきな大学生』に通底するテーマですね。では、最後にずばり、アドバイスを。

とりあえず本が出せそうな賞を狙って応募するのも間違った選択ではないし、溺愛している賞やレーベルからデビューしたいという気持ちも尊重すべき。ただ10年20年、死ぬまで小説家で食べていきたいという思いがあるのなら、大きな賞を目指すというのは、決してムダなことではないでしょう。もちろん門戸は狭くなるし、ライバルは強くなりますけど!

浅倉秋成さんに一問一答

影響を受けた作家は?
僕が物語を好きになったきっかけは、圧倒的にアニメと漫画なので、小説家でなくても許してもらえるのなら、浦沢直樹さん。いまだに頭のどこかにいつも『20世紀少年』や『MONSTER』がいるんです。

10年前の自分に一言
やはり「デビューしてからが大変だ」でしょうか。当時の自分は、そんなふうに言われると「デビューしたくてウズウズしているときに、そんな先のこと言わんといてください」と思ったものですが(笑)。

今後書きたい小説は?
「よくわからないけど面白い」と思わせるような小説。ミステリーとして面白いというよりは、ジャンルを超えて面白いものが書きたいし、見たことのない作品を作りたいという思いは常にありますね。

新人賞受賞の課題とキャラクターの作り方

ここでは浅倉秋成さんのインタビューをもとに、受賞する作品を書くことに必要な課題とキャラクターの作り方について解説する。

新人賞受賞の課題

浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』では、新卒採用の最終選考の場で、六人の裏の顔が次々と暴かれる。最初にクズだとわかる学生は、封筒の中の紙に〝彼は人殺し〞である旨、書かれている。

どうだろう。もう先が読みたくなったのではないか。これが〝先を読みたくなる推進力〞。面白く読ませるためには、ロケットでいえばブースターのような推進力がいくつか必要だ。

加えて、新人賞を受賞するためには、新しさが必要。新人として世にでるためには、それまでなかった何か、既存の作家にはない新しさが欲しい。

また、同時に、自分のウリや武器が欲しい。浅倉秋成さんでいえば、「伏線の狙撃手」と言われるような、ある種の看板が欲しい。

新人賞受賞に必須の条件

文芸新人賞を受賞するには、新人にふさわしい作品が求められる!

新しさ
既存の作品とはどう違うか。「これが新しいミステリー」のような提起が欲しい。

ウリ
あなたの持ち味は? ライバルたちにはない、この作品のウリを押し出したい。

推進力
「読みたい」と思わせる推進力が欲しい。できれば1編に二つか三つあるといい。

キャラクターの作り方

ストーリーから逆算する
浅倉秋成さんの場合、キャラクターは最後に造形する。起承転結的なストーリーを考え、誰だったらこの道筋を一番面白く歩いてくれるかを逆算する。

表記がかぶらないように
名字は1文字名字の嶌さん、3文字名字の波多野くんのように字数が異なるようにし、名前もひらがな、カタカナをまぜ、表記がかぶらないようにする。

イメージを色分けする
名前を色分けする。たとえば、「森さん」だったらイメージする色は緑。「森さん」がいれば、「林さん」は避け、「緑川さん」もかぶるのでやめる。

キャラは強調し、人物ごとに分ける

エンターテインメント小説では、キャラクター(個性)が重要で、 キャラクターは強調しすぎるくらいがちょうどいい。小説には文字しかなく、形や色もにおいもないから、名前を聞いただけでパッとイメージが浮かばないようでは印象が薄いからだ。

浅倉秋成さんは、人物名の字数やひらがな、カタカナといった表記がかぶらないようにし、なおかつ、人物名からイメージする色も分けるというが、これもやはり文字で表現する小説ならではだ。

分けるといえば、キャラ分けも重要だ。登場人物には「行動的、活発」「優柔不断」などの性格を与えるが、同じ性格の人物は二人はいらない。六人いれば、六人それぞれに別の性格を与えよう。

ただし、性格は与えるだけではだめで、「引っ込み思案だが、たまに突拍子もないことをする」と設定したら、それに合わせて行動させる。言動に表れて初めて、そういう性格だとわかる。
 

浅倉秋成
1989年生まれ。『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。2019年刊行の『教室が、ひとりになるまで』が本格ミステリ大賞と日本推理作家協会賞にWノミネートされる。

※本記事は2021年6月号に掲載した記事を再掲載したものです。