第49回「小説でもどうぞ」落選供養作品


編集部選!
第49回落選供養作品
第49回落選供養作品
Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第49回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。
【編集部より】
今回は草浦ショウさんの作品を選ばせていただきました!
主人公の高田は、小学3年生の頃に幼馴染の美馬と「エスパー少女さくら」の作者である漫画家のサイン会へ参加します。
それ以来、エスパーになるための練習に励む美馬。これといった成果がないまま中学生になっても諦めない彼女に対し、隠し事のある高田は少し罪悪感を抱いています。
とある日、マンションのベランダから落下しそうになっている小さな男の子に遭遇した二人。助けるために美馬は「動け! サイコキネシス!」と大声で叫ぶと……。
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。
課 題
練習
草浦ショウ
美馬まゆみとは幼稚園からの付き合いだ。
彼女は、昔から変な奴だった。
良く言えば「ひたむき」、悪く言えば「思い込みが激しい」。
小3の頃、私たちの住む町で、富山フジ子先生のサイン会が開かれた。当時流行っていた少女漫画「エスパー少女さくら」の作者だ。
御多分に洩れず作品の大ファンだった私たちは、美馬のお母さんに付き添ってもらい、サイン会に参加した。
本物のフジ子先生の前で緊張してしまい、ひとことも喋れなかった私とは違って、美馬は大はしゃぎで話しかけていた。
「先生! まゆもエスパーになれますか?」
「ふふ。そうね。さくらみたいに一生懸命練習すれば、まゆちゃんもエスパーになれるかもしれないわね」
「ほんと!?」
美馬は先生の言葉を真に受けた。
その日から、彼女はエスパーになるための練習を始めた。
厄介なことに、作中では正に「エスパーになるための練習方法」がかなり具体的に描写されていたのだ。
5分間、目を瞑って深呼吸を繰り返すだとか、リンゴを見つめながら宙に浮くイメージを脳裏に浮かべるだとか、片足立ちで妙な呪文を唱え続けるだとか、どれも実際に試せることばかりで、確かに自分にもできそうな気がしてくる描写ではあった。
普通の子供であれば、少し試してみて駄目ならすぐに諦めてしまうだろうけど、あいにく美馬は普通の子供ではなかった。
あれから5年が過ぎ、私たちは中学2年生になった。
「ねえねえ、高田、聞いてよ。昨日さ、一瞬リンゴが動いた気がしたんだ。ついに練習の効果が現れたのかも!」
「……気のせいでしょ。美馬は思い込みが激しいんだから、いい加減自覚しな?」
「もー、相変わらず高田はドライなんだから」
美馬は、同性の私から見ても驚くくらいの美人に成長した。でも中身は小3のままだ。その奇妙なギャップに、女子たちからは少し気味悪がられていた。その分、男子とは仲が良いから、「わざとアホなフリをして男子に媚を売っている」と陰口を叩く女もいる。
本人は気にしていないのだろうけど、私はそういう連中の態度が気に食わなくて、クラスでは美馬とばかりつるんでいた。
少しの罪悪感を抱えながら。
私には、彼女に隠している秘密が2つもある。 「それにしてもよく続くよね、練習。もう5年だよ?」
「なんかもう、習慣になっちゃってさ。歯を磨く感覚と一緒だよね、正直」
「へぇ。じゃあ、実はもう、エスパーになんてなれっこないって気づいてたりするわけ?」
「なに言ってんの! フジ子先生が、まゆちゃんならできるって言ってくれたんだよ? 絶対いつか習得できるもん! ていうか、昨日リンゴ動いたし! さっき言ったじゃん!」
「はいはい」
そんな会話をした日の帰り道。
美馬も私も部活をしておらず、家もすぐ近所なので、いつも2人で買い食いなどをしつつ帰宅していた。
いつもどおり住宅地を歩いていると、視界の端に妙なものが見えた。
顔を向けると、信じられない光景が目に入ってきた。
「ちょ、ちょっと美馬。あれ、子供じゃない?」
そこは5階建のマンション。一番上の階のベランダの柵に、小さな男の子が跨がっている。
「え……うわっ、ほんとだ! え、待って! やばい、やばい!」
「私、警察に通報する」
ポケットのスマホに手を伸ばすと、美馬が泣きそうな声をあげた。
「ああ! 落ちちゃう! 間に合わないよ!」
再びベランダに目をやると、子供はグラグラと前後に揺れており、いつ落ちても不思議ではない。
「……こうなったら、まゆがやるしかない!」
そう言うや否や、美馬は両腕を子供の方に向けて伸ばし、大声で叫んだ。
「動け! サイコキネシス!」
「あ、あんた、こんな時に何をふざけて……」
「まゆが力を出せれば、あの子は助かる!」
必死の形相。そうだった。美馬はふざけてなどいない。どんな時でも、ただひたむきなだけ。
そんな姿に、私は恋をしたんだ。
絶対に言えない、1つ目の秘密。
「あ……あ? あああ!?」
美馬がさっきよりも更に大きな叫び声をあげた。
子供がベランダから離れ、宙に浮いている。
ゆっくりと、開きっぱなしだった窓の方に移動し、そのまま部屋の中に姿を消すと同時に、窓がひとりでに閉まった。
「で、で、できた! サイコキネシス! やった! 助かった! ああ良かった!」
美馬は、土壇場で目覚めた『力』への興奮と、子供が助かったことによる安堵がないまぜになっているようで、殆ど錯乱状態だ。
一方、私も別の意味で安堵していた。
久しぶりに力を使ってみたけど、衰えていなくて本当に良かった。
あの日。フジ子先生のサイン会があった夜。
しっかりと浮かれていた私は、密かにエスパーになるための練習をしてみた。
深呼吸を繰り返したあと、リンゴを睨む。
すると、まるでそれが当然とでも言うように、リンゴはあっけなく宙に浮いた。
その瞬間、私は喜ぶよりもむしろ怖くなってしまった。こんな力があるなんて人に知れたら、どんな目に遭うか分からないと怯えた。小3の子供にしては冷静だったなと我ながら思う。
だから、力のことを絶対に誰にも言わなかったし、人前で使うこともなかった……まあ、たまに家でリモコンや紙クズなんかを動かしたりはするけど。
「高田! まゆ、ついにやったよ!」
美馬は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら大騒ぎしている。
胸がチクリと痛んだ。
やっぱり、2つ目の秘密も絶対に言えないな。
少なくとも、彼女が本当に、エスパーになる日が来るまでは。
(了)