第52回「小説でもどうぞ」佳作 コマンド 藤白ゆき


第52回結果発表
課 題
ゲーム
※応募数361編
藤白ゆき
「は? 何だこれ……。」
素破真理夫は家でゲームプレイ中、唐突に出てきたコマンドボックスに目を丸くした。
明日の朝学校に行ったら会う人ごとに
おはようのあいさつをする。
何もしないとゲームオーバー。
おはようのあいさつをする。
何もしないとゲームオーバー。
当然ながらゲーム途中でこんな現実世界での行為を指図してくるようなコマンドが出てきたのは初めてだった。
普段真理夫は仲のいい友達以外には基本朝のあいさつはしない。
しかし、何もしなかったら、そこで強制的にゲーム終了⁈
それに通常選択肢は最低でも四つくらいはあるのに二択しかない。
しかも両極端な二択である。
真理夫は考えた。
このゲームのクリエーターが教育的指導のためにこんなプログラミングをしたのかな。
でも、ここでゲームオーバーなんて冗談じゃない。
後もうちょっとでレアアイテム、真実の石をゲットできるところだったのに。
明日の朝僕が実際にあいさつをしたかなんてゲーム制作サイドには調べようがないし、ましてや、その結果を後からゲームプログラムにフィードバック出来るはずもないから、ここは指示に従ったフリをしよう。
真理夫は仕方なく〇ボタンを押してコマンドを決定する。
すると、すぐにメッセージボックスが出てきた。
この続きは明日の朝本当にあいさつをした後再開。
そしてプツンとゲーム画面がブラックアウトした。
真理夫はぼう然とする。
そして我に返ると毒づいた。
「クソッ! ふざけやがって。誰があいさつなんかするものか」
そう言って電源スイッチを入れ直そうとするが、どうしても点かない。
真理夫はイラっとしたが、それ以上はもうどうしようもなかった。
翌朝、真理夫はあえてゲームのコマンドに逆らうように、通っている小学校に登校してもムッツリと不機嫌に黙り込んでいた。
続々とクラスメイトたちが入室する中、真理夫と一番仲がいい竜崎瑠偉が教室に現れた。
「オッス」
「よお」
真理夫は片手を挙げて応える。
「何だ、朝から機嫌悪いな」
瑠偉が苦笑いする。
真理夫はハッとした。
確か瑠偉も同じゲームソフトを持っているのだ。
そこで、昨日の不可解なコマンドについて訊いてみた。
しかし、瑠偉の答えは意外なものだった。
「俺がプレイしていたとき、そんなコマンドは出てこなかったけどな」
そう言って首を傾げる。
それならばと、後から入って来た他の友人たちにも訊いてみる。
しかし答は皆同じだった。
真理夫は狐につままれたような気持ちになった。
放課後、帰宅してから、ゲーム機本体の電源スイッチを入れてみる。
しかしスイッチが入るには入ったものの、またメッセージボックスが出てきた。
コマンドが未完です。
継続不可。再スタートも不可。
継続不可。再スタートも不可。
その後、直ぐにプツッと画面が再びブラックアウトする。
真理夫は驚愕した。
まさか、学校にカメラを仕掛けて監視しているのだろうか? それとも、学校内に共謀者がいて、そいつが現場の状況を中継か報告しているのだろうか?
そこまで考えたとき、発想のバカバカしさに気ふいて首を振る。
ゲーム会社が時間とお金をかけてそこまでやるわけないだろう。犯罪だし。
きっと僕みたいにひねくれて反抗する者がいることも想定して、わざとそういうふうにプログラミングしてあるのだろう。
そこまで思い至った真理夫は、こうなりゃ根競べだと、次の日もその次の日も、わざとあいさつをしなかった。
しかし、ゲーム画面には毎日毎回同じメッセージボックスが出てくるばかりだ。
そうして何日か経ったとき、真理夫はとうとう根負けして、教室に入って出会いがしら目が合った女子にあいさつをしてみた。
「おはよう」
ほとんど口をきいたこともないクラスメイトの女子は、真理夫から急にあいさつされて、えっと驚きに目を見開く。
だから嫌だったんだと気まずさが真理夫の胸を過ぎる。
しかし、次の瞬間、女子はニッコリ微笑んでいった。
「おはよう」
意外にも笑顔のあいさつが返ってきて真理夫はポカンとする。
「あ、うん」
驚きつつ相づちを打つ。
そのとき、まるで胸の中を、サーッと爽やかな涼風が吹き抜けていったような心地がした。
それで、余勢を駆って、真理夫はその後、続々と入ってくるクラスメイトたちにあいさつを続けていく。
すると殆どの者が、ちょっと戸惑いを示しつつも、あいさつを返してくれた。
それで、何かあいさつするのも悪くないなと真理夫は思った。
その日の放課後、帰宅してから直ぐにゲームのスイッチを入れる。すると、
真実の石を手に入れた。
あなたの社交性がアップした。
あなたの社交性がアップした。
現れたメッセージボックスを見て真理夫はホッと安堵の息をついた。
しかし、その後、ゲームを続けていくにつれて、毎回、現実世界でのコマンドが現れた。
園芸委員の花壇の水やりを手伝ってあげなさいとか、教室の掃除当番をサボった人の代わりに掃除をしなさいとか、道でお年寄りが重い荷物を持って困っていたら、バス停まで持っていってあげなさいなど。
そのつど、真理夫はコマンドに従って、その通りの行為を行った。
そしてそのたびにマジックパワーやヒットポイント、レアアイテムを手に入れて、どんどんとレベルアップしていく。
真理夫はそれらも嬉しかったけれど、皆をそれぞれ手伝ったときに向けられた笑顔と感謝の言葉の方がずっと価値があると思った。
その頃、天上では、
「やれやれ。昨今は、無作為に選んだ駒をいい方向に導くにもこんなやり方しかないか」
この世界の真のクリエーターは苦笑いを浮かべながら軽く嘆息した。
(了)