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第52回「小説でもどうぞ」選外佳作 ルール 青の佑美

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小説
小説でもどうぞ
第52回結果発表
課 題

ゲーム

※応募数361編
選外佳作 

ルール 
青の佑美

 高すぎる……。
 どこのスーパーに行っても、何を見ても、物価高騰の波を感じずにはいられない。かつては鼻歌交じりに手に取っていた食材たち。今では倍以上の値段にまで跳ね上がってしまった。
 そんな嘆かわしい世間の荒波を、年金受給者(パート収入あり)の私がひとりで泳ぎ切らなくてはならないのだから、食費にはとかく厳しく、吝嗇けちになるのは当然の流れだ。
 とはいえ楽しみだってちゃんとある。毎月一日、値段設定高めのコンビニスィーツを買うこと。ただし、使っていいのは先月分の浮いた食費のみ。
 食費は月三万六千円。支払いは現金と買い物で貯めたDポイントのみ。買い物は週二回。特売日や割引時間を狙って出かけている。プライベートブランドとかいう低価格の商品も欠かせない存在だ。間違っても高級志向のスーパーには行かない。Dポイント以外のキャッシュレスにも頼らない。無駄遣いのもとだ。パート収入は先々の備えとして積み立てているので論外。
 今回のお目当ては某コンビニで大人気のプリンパフェ。価格は税込みで三百七十五円。
 節約が上手くいかなかった場合は、潔く諦める。それがルールだからだ。
『ルールって、まるでゲームみたい』
 娘にその話をしたら笑われた。わかっていない。まるでじゃなくて、ゲームだ。誰もがこの世に生まれた瞬間から、人生というボードの上で何かしらのルールに縛られ、選択を迫られている。その事実に娘は気づいていないだけ。
 それはさておき。月末まで今日を含めてあと五日。残高は五千五百二十円。今後の予定は入っていないし、五日分の食材も確保している。
 このままいけば楽勝だった。それが月末の日曜日に思わぬ事態になった。
 夫と遊びに行くので怜を預かって欲しいと、朝も早い時間に娘から連絡が入ったのだ。怜は娘が生んだ男の子で小学四年生になる。私にとっても初孫。可愛くないわけではないが、怜は食べたいものを食べられないとギャン泣きする子で、正直私の手に余る。食費がどうなるかも不安だ。いつもなら交際費や予備費を頼るのだが、運悪く今月の同窓会とその二次会で全て使い果たしてしまっていた。
「お昼はマックに行きたーい」
 案の定、怜は私を見るなり甘えた。ラーメン作ってあげると微笑んでも「やああだあ」と、足を踏み鳴らして騒ぎ立てる。集合住宅なので住人からのクレームが気になって冷や汗をかいた。
 仕方がないので駅前のマックに連れて行く。怜は目玉焼きとベーコン入りのハンバーガーとポテトとコーラのセット、あと三角チョコパイを欲しがった。食べ過ぎだと注意すると、べそべそとぐずりだしたから急いで会計をすませた。私はウーロン茶を啜った。お腹がグーグーとなった。
「ばんごはん、すき焼きにして」
 帰り道、怜はまたしても宣った。食べ盛りの子どもにすき焼き。考えただけで眩暈がした。却下したいが泣かれるのがオチだと諦めた。せめて一円でも安くすませようと、卵、牛肉、野菜ごとに特価したスーパーを探してハシゴした。それでも高くついた。牛ロースのせいだ。手ごろな小間切れ肉にしたかったのに、怜がロースがいいとせがんだのだ。ロース肉は割引にはならなかった。
 家に戻って、疲れた老体に鞭打つように台所に立つ。
 娘から「そっちでご飯、食べてもいい?」という理不尽な電話がかかったのは、全ての準備が整ったときだ。
 焦った私はスマホに夢中の怜を置いて再度スーパーをハシゴした。食費は千七百八十円しか残っていない。それでロース肉一パックを買い、Dポイントでロース肉をもう一パック、それから野菜、缶ビールを買った。
 息せき切りながら帰路に着く。途中、私はいったい何をしているんだ、と思った。
 親の苦労も知らず娘家族は「うまいうまい」とすき焼きを平らげた。ため息がでる。昼と夜で、食費の残高は三百七十一円、Dポイントは一四九になった。これではプリンは買えない。娘家族に食費を請求するわけにもいかない。すき焼きに手をつける気にもならない。
 翌日。昼過ぎにパートを終えた私は、寄るはずだったコンビニを未練たらたらに通り過ぎた。
 家につくと部屋のドアノブにエコバックが掛けられていた。バッグの表にメモが張ってある。
『昨日はありがと。ほんのお礼です』
『ばあば、ありがとう』
 娘と怜からだ。娘が留守中に来ていたのか。
 中を覗くと、某コンビニで売っているプリンがごっそりと入っていた。プリンパフェもある。
 嘘みたい。
 夢のような現実にしばらく放心した。けれど迷いも生じて自問する。
 買えないときは諦める。これを食べたら、そのルールに叛くことになる。いいのかそれで。
「いいわよ」
 私は胸を張った。ルールより娘や怜の気持ちのほうが大事だ。ゲームにだって思わぬ得点がつくことがある。これは頑張った自分へのボーナス得点。
 私は有難くいただくことにした。
 ひと口食べて、滑らかなカスタード味にうっとりする。
 ゲームって過酷だけど、面白いわ。
 しみじみと頷いた。
(了)